陪審制
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陪審制(ばいしんせい)とは司法制度において一般市民から選ばれた成人男女が陪審員として事実認定と被告の有罪無罪を決める制度で、アメリカやイギリスなどで運用される。
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[編集] 概説
陪審員の数はアメリカやイギリスでは12人、フランスの重罪院(Cour d'assies)では9人(控訴審では12人)に加えて職業裁判官3人が加わる(フランスの重罪陪審は事実上参審制度である)。ドイツでは、職業裁判官と一定の任期を決めて選任された市民(参審員)がともに裁判にあたる参審制を導入している。
判事は法廷を主催する司会を行い、陪審員が偏見を与えれられたり、不適切な証拠が法廷に持ち込まれたりすることを防ぐ。陪審員が行った決定に基づき、判事は量刑を決定する。
判事は陪審員の判断が証拠を無視した著しく不適切なものであると判断した場合は、陪審員の決定を取り消すことができる。
アメリカでは、州によって法律が異なるので、陪審のあり方も異なる。たとえば、カリフォルニア州では、検察、弁護側双方が、陪審の候補者に直接質問し、その結果によって忌避を求めることができる。このため、選任だけで数日、時には数週間かかるというケースさえある。一方、ニューハンプシャー州では、殺人事件以外では当事者から質問することはなく、裁判官が候補者全員に質問を読み上げ、選任に15分前後しかかけない。
英米法には起訴などを陪審により行う大陪審の制度がある。
アメリカ合衆国憲法修正第5条には一定の犯罪については大陪審の告発または起訴を要する旨規定されている。
陪審の導入には、以下のメリットが挙げられる。
- 法的な杓子定規ではなく、市民の常識が反映される。
- 市民がより裁判に関心を持つ。
- 短期間で結論を出さざるを得ず、それが当事者にとっても望ましい。
一方、以下のデメリットが挙げられる。
- 陪審員の感情や偏見に左右され易い。
- 仕事、育児や学業に影響が出るので、陪審員の確保が大変である。
- わずかながらとはいえ、費用を支払うので、その金額負担が大きい。
- 短期間で結論を出さざるを得ず、複雑困難な事件を慎重に審理するには時間が足りなくなりかねない。
陪審のありさまを描いた作品としては、映画『十二人の怒れる男』が有名。
[編集] 日本における陪審制
日本では1923年(大正12年)に陪審法が制定され、1928年(昭和3年)から陪審制度が導入された。陪審員は12人で、陪審員の資格として30歳以上の男子で、読み書きができるなどの要件を満たしていることが必要であった。事件は法定刑が死刑又は無期懲役になる刑事事件に限定している。
この法律では、当事者が陪審制によるかどうか選択できる。
しかし、裁判官が陪審員の答申に拘束されないこと、陪審を選択した場合は控訴できず上告のみしかできないこと、などによる制度上の不備から、国民の陪審に対する信頼が得られず、陪審を辞退したり、請求を取り下げる例が多かった。
また、制度維持に多額の費用を要し、戦争の遂行に支障を来たす恐れがあったため、1943年(昭和18年)に「陪審法ノ停止ニ関スル法律」によって陪審制が停止されることになる。同法は附則において「今次ノ大戦終了後再施行する」と明文規定されていたが、未だに再施行されないまま今日に至っている。
この法律によって484件が陪審で裁かれ、うち81件に無罪判決が出た。
陪審に使用された法廷は戦後次々と取り壊されており、現在は京都地方裁判所の「15号法廷」が立命館大学末川記念館、横浜地方裁判所の「特号法廷」が桐蔭横浜大学にそれぞれ移築され保存されているのみである。
近い将来、司法制度改革で裁判員制度が導入される予定になっている。現行裁判所法第3条3項は刑事事件の陪審制を妨げてはいない。
また、かつての米軍占領下の沖縄でも行われた。
[編集] 参考文献
- 朝日新聞「孤高の王国」取材班『孤高の王国裁判所』(朝日文庫、1994年)ISBN 4-02-261058-1 、単行本(朝日新聞社、1991年)