プレパラート
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プレパラートは、顕微鏡観察を行うにあたり観察対象(試料)を検鏡可能な状態に処理したもののことである。通常、光学顕微鏡の観察用に調製(preparation)したものをこう呼ぶ。
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[編集] 概論
顕微鏡が登場して間もない頃は、プレパラートは単に針の先に試料を取り付けたものや、 薄い試料をガラスの上に置いたものが普通であった。その後、顕微鏡は科学の諸分野において用いられるようになり、顕微鏡と観察対象の両者のバリエーションが増大すると共にプレパラートの作成法も発達してきた。とはいえ、プレパラートを作る共通の目的は、美しい顕微鏡像を得る事である。
[編集] 基本的な方法
最も古典的で基本的な方法は、例えばオオカナダモの葉のような、元々顕微鏡観察に向いた形状の試料を生体のまま用いるものである。オオカナダモは葉の薄い水草であり、また細胞内に通常の光で認識可能な葉緑体を含む事もあって、葉を処理することなく観察可能である。
- 試料を乗せる台として、スライドガラスを用意する。
- ガラスの中央にカナダモの葉を一枚、ピンセット等で切り取って乗せる。
- その葉の上に水を一滴、ピペットを用いて滴下する。
- カバーガラスをその上にかける。気泡が入らないよう注意する。
カバーガラスは試料の表面を平面にして光の散乱を押さえ、観察しやすくする効果がある。また、対物レンズとして油浸レンズを用いる場合には、光路の一部として特に重要な役目を担う。柔らかくて厚みのある試料の場合、カバーガラスを直接被せると、その重みと水の表面張力との為に押し潰されてしまう場合がある。これを避けるには、予めスライドガラスにテープを貼ったり、パップペンのような専用のペンで枠を描くなどして厚みを持たせ、カバーバラスとスライドガラスとが密着しないようにする必要がある。
試料の封入に使う液体(カナダモの例では水)を封入液、或いは封入剤と言う。カナダモの葉のように元々ごく薄い試料の他、プランクトンや微生物なども同様に観察できる。海の生物や生体内の組織などの場合は、封入剤に単なる水を用いると変形したり破裂したりする為、試料に合った浸透圧の封入剤を用いる。花粉や結晶など大気中で安定する試料では、封入せずに観察する事が可能な場合もある。
[編集] 固定と染色
観察対象を加工する手段として代表的なものは固定と染色である。なお、固定した試料を薄切する場合、染色は薄切後に行うのが普通である。
[編集] 試料形状の整形
透過型の光学顕微鏡は、光が試料を通過する時の吸収スペクトルや透過率、屈折率の差を検出して観察するものである。従って、光が透過しないものを観察することはできない。厚みのあるもの、不透明なものは何らかの処理が必要になる。
最も簡単なのは、試料を押し潰すこと(挫滅法)である。細かい粒子や繊維を構成単位とするものであれば、そっと押し潰して単位を平面に並べる事で、観察が可能になる。タマネギの根端分裂組織の観察ではこの方法が用いられる。押し潰す場合、試料を軟化させる手段を併用すると効果的である。前述のタマネギの例では、細胞間のセルロースを加水分解して結合を弛める為に希塩酸が用いられる。
押し潰しが使えない試料の場合は、薄く切って切片(せっぺん)を作成する。カミソリ等を用いて手で切る場合を特に徒手切片という。これは試料にある程度の大きさと堅さがあり、さほど薄い切片が必要ない場合に行われる。試料が小さくて支持が難しい場合には、柔らかい素材に挟み込んでそれ諸共に切る。この支持材のことをピスと呼び、ニワトコの髄がよく使われる。
より薄く精密な切片が要求される場合には、試料を固定して樹脂に包埋した上で、ミクロトームという切片作成用の機器を用いる。これは試料送りと薄切とを連動して行う装置で、手回し式や全自動式のものがある。光学顕微鏡観察用には手回し式が普通である。ミクロトームを用いると、厚さが均一な連続切片の作成が容易となり、大きな試料の立体的な構造把握に威力を発揮する。
岩石の薄切片を作成する場合は、精密切断機でおおまかにスライスした後、研磨して仕上げる。研磨には専用の研磨機の他、試料の硬度に応じて鉄板やガラス板、メノウ板などを用いる。
[編集] 封入と保存
完成したプレパラートは、観察後に破棄する場合と、保存が要求される場合とがある。適切に処理して封入したプレパラートは長期保存が可能なものもあり、永久プレパラートと呼ばれる。この時の封入剤としては、硬化性の樹脂であるマウントメディアやカナダバルサムなどを使う。封入剤には通常の液体状のものを用い、その周囲を硬化性の封入剤で埋めたプレパラートは半永久プレパラートと呼ばれる。これらに対して、保存が利かず観察後は片付けるしかないものを一時プレパラートと言う。