プロジェクト・ジェニファー
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ジェニファー(Jennifer)とはアメリカ合衆国中央情報局(CIA)が特殊サルベージ船グローマーエクスプローラーを用いて、1974年に太平洋に沈没したソビエト連邦のゴルフ級潜水艦K-129を極秘裏に引き上げた際に用いられたコードネームである。
1968年にK-129がミサイル発射可能な状態で作戦海域を大きく逸脱し、ハワイ近海を航行するという不可解な事態のなか沈没し、周辺海域が放射線によって汚染される事態が発生した。このプロジェクト・ジェニファーは冷戦期におけるもっとも複雑で極秘裏に行われた諜報作戦の一つに数えられている。
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[編集] 標的
1968年3月8日、アメリカのSOSUS(シースパイダー)ソナーネットワークがソ連海軍潜水艦の爆発事故を探知した。この爆発事故に関連した調査が米衛星や海兵隊の調査船によっても行われた。ソ連海軍は沈没したK-129を発見することができなかったが、特殊探査装置を使用するために改良された原子力潜水艦ハリバット(USS Halibut, SSN-587)がハワイ沖に沈没しているK-129を発見することに成功する。当時の国家安全保障担当大統領補佐官、ヘンリー・キッシンジャーは隠密裏にK-129をサルベージしアメリカに持ち帰ることを許可した。これにより当時の冷戦の相手国ソ連の軍事技術や、もし可能なら当時のソ連の暗号技術を知ることが大きな目的だった。
[編集] グローマー・エクスプローラーの建造とその裏話
経営する会社がすでに米軍との武器、航空機の製造契約を取り付けている当時の世界屈指の大富豪、ハワード・ヒューズは極秘裏に海底に沈没したK-129を引き上げることのできる巨大なサルベージ船を建造する契約をCIAと結んだ。1972年11月1日に排水量63,000トン、高さ189mの巨大サルベージ船”ヒューズ・グローマー・エクスプローラー”の建造が始まった。本計画のための諜報船であることが表ざたにならないよう、この船はスマ・コーポレーション(ヒューズ・ツールカンパニーの機械事業部から分社した企業)のマンガン鉱石掘削船という表向きの顔が与えられていた。
[編集] 回収
ヒューズ・グローマー・エクスプローラーは海面下5,500mもの深海に横たわるK-129を引き上げるために、潜水艦ごと持ち上げられる巨大な掘削装置が取り付けられた。さらに潜航可能なバルジがこの作戦のために特別に作られミッションに同行した。このバルジはヒューズ・マイニング・バルジと呼ばれ、潜水艦が回収された後にそれを保持曳航するために作られた。この潜航可能なバルジのために、本作戦は隠密裏に、いかなるスパイ衛星、航空機、海上のその他の船舶からも察知されることなく執り行うことを可能とした。1974年7月4日、同船とバルジはリカバリーポイントに到着、一ヶ月にわたるサルベージ作戦に着手した。作戦中の8月12日に上記の巨大な掘削装置の一部の鉤爪が欠落し、引き上げている途中だった潜水艦(それはすでに海底に座礁して中破していたのだが)の半分が一緒に欠落して海底に再び落下してしまう事故が発生した。結果前38フィート分だけが回収に成功した。事後調査書によるとそのセクションには、もし手に入れることができたら米軍に圧倒的優位をもたらすであろう核ミサイルや暗号表は見つからなかった。ところが、いくつかの情報筋によるとそのセクションから核魚雷、暗号表やその他様々な諜報上の情報を得たともされている。サルベージした部分からは6名の遺体も回収された。1997年発行の本「ジェニファー作戦」の著者クライド・W・ブルーソンは「本当は全船体が回収されたのであり、諜報作戦の真の成果を知られないようにするため、”船体が途中で折れた”という嘘をCIAがでっち上げた」のではないかと推測している。
[編集] 一般への公表
ニューヨーク・タイムズは本作戦の公表を控えた 1974年初頭、捜査レポーターであり、タイムズ紙のシーモア・ハーシュがジェニファー計画に関しての記事を載せようと考えた。ニューヨーク・タイムズのワシントン支局長ビル・コヴァチは2005年に「当時政府から”国際問題を引き起こす”ことを防ぐという理由で計画推進中だった1974年初頭での作戦の公表を控えるように要請された」と告白した。ニューヨーク・タイムズは結果的に1975年にロサンゼルス・タイムズに追従する形で本作戦に関する記事を発表し、その中でこの記事が発表されるまでの長い経緯を5つの章に分けて説明した。
[編集] 発覚の経緯
この超極秘作戦が発覚するには、色々の事実と憶測がある。 初めはロサンゼルスにあったとされるハワード・ヒューズの警備の厳重な極秘業務センターに泥棒が入り、かなりの文書が盗まれた。その中にこの文書があり、それがハーシュ記者に渡った。(当時ハーシュは多国籍企業の犯罪調査=後にロッキード事件などに発展する=にかかっていたので、不掲載に同意した。)
- 当時ヒューズ社は主導権争いが激しく、CIAなども絡んでいたとされる。社内抗争の道具として使われた可能性も指摘されている。