ベーゼンドルファー
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ベーゼンドルファー(Bösendorfer)は、オーストリアのピアノ製造会社である。世界的に知られ、スタインウェイ、ベヒシュタインと並んで、ピアノ製造御三家の一つに数えられる。
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[編集] 沿革
1828年、オーストリア、ウィーンにてイグナーツ・ベーゼンドルファーにより創業された。爾来、各国の皇室や王室の御用達として選定されたり、産業博覧会で入賞するなど、名声を高めていく。第二次世界大戦後の一時期、経営難に陥って経営がアメリカの企業体に移ったこともあったが、2002年、オーストリアの銀行グループが経営権を取得して、名実ともにオーストリアに復帰した。
作曲家にして超絶技巧のピアニストであったフランツ・リストの激しい演奏に耐え抜いたことで、多くのピアニストや作曲家の支持を得るようになり、数々の歴史あるピアノブランドが衰退していった中、ウインナー・トーンを今に伝える名器として、そして至福のピアニッシモとして、その人気をスタインウェイと二分している。ベーゼンドルファーを特に愛用したピアニストとしては、鍵盤上の獅子王と呼ばれたヴィルヘルム・バックハウスが有名で、彼は旧西ドイツでのコンサート以外では、ベーゼンドルファーしか弾かなかったとも言われている。ジャズ界においては、スタインウェイやヤマハのピアノが支配的であるが、超絶技巧で知られるジャズピアニスト、オスカー・ピーターソンなどはドルファー弾きとしてよく知られている。
[編集] 製品
[編集] 標準モデル
製品 | 長さ | 間口 | 鍵盤 | 種類 |
---|---|---|---|---|
Model 170 | 170 | 146 | 88 | グランドピアノ |
Model 185 | 185 | 146 | 88 | |
Model 200 | 200 | 146 | 88 | |
Model 214 | 214 | 146 | 88 | |
Model 225 | 225 | 156 | 92 | |
Model 280 | 280 | 156 | 88 | |
Model 290 | 290 | 168 | 97 | |
Model 130CL | 132 | 153 | 88 | アップライトピアノ |
「インペリアル」とも呼ばれる最上位機種のフルコンサートグランドピアノ「MODEL 290」がベーゼンドルファーの代表機種で、標準の88鍵の下に更に4から9組の弦が張られ、最低音を通常よりも長6度低いハ音とした完全8オクターブ、97鍵の鍵盤(エクステンドベース)を持つピアノとして有名である。これは、イタリアのピアニスト兼作曲家だったフェルッチョ・ブゾーニがJ.S.バッハのオルガン曲を編曲した時、低音部に標準のピアノでは出せない音があった為、ルードヴィッヒ・ベーゼンドルファーに相談したことが始まりと言われている。エクステンドベースが追加されたことによって、弦の響板が広がり、共鳴する弦も増えて、中低音の響きが豊かになった。しかしそのため、しばしば一部のピアニストからは、「中低音の響きは豊かだが、高音とのバランスを考えて弾かなければならず、弾きこなすのが難しいピアノだ」と言われる。以前は、拡張域の鍵の部分に蓋を付けることで、一般の曲の演奏時に誤打を防いでいたが、現行品では白鍵も黒くすることで区別している。
また、最低音が長3度低いヘ音まで拡張されている92鍵盤のセミコンサートグランドピアノ「MODEL225」や、「MODELL130」というアップライトピアノの製品もある。
[編集] CSシリーズ
ベーゼンドルファー社は市場拡大のため、それまで経済的な理由で同社の標準モデルを導入できなかった大学などの教育機関向けにCSシリーズ(Conservatory Series)を設計した。3種類あるCSシリーズは生産の過程で「non-critical areas」と呼ばれる生産ラインに依存する時間を短縮することで、生産コストを削り標準モデルより安価に提供できるシステムを構築している。
[編集] 特別限定モデル
ベーゼンドルファーの創立170周年や175周年にフランツ・シューベルトやフレデリック・ショパンなどの有名な作曲家にちなんで名付けられ、設計された特別、限定モデルのピアノなどがある。
[編集] デザインモデル
過去にジョルジオやフェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェがベーゼンドルファーのピアノを設計している。
ハンス・ホライン特別設計のベーゼンドルファー・インペリアル・グランドピアノは世界に2つしかない。1つはアメリカ、フロリダ州オーランドのウェスタン・グランド・ボヘミアン・ホテルにあり、もう1つは中国の上海にある。1つ目のオーランドにあるピアノは1本の木の80%が使用され、それぞれの真鍮脚には一本あたり約160万円の価値があるとされ、2つあるホライン設計のピアノにはそれぞれ約3000万円の価値があるとされる。
[編集] その他
日本国内には、総代理店として日本ベーゼンドルファー社が静岡県磐田市にあり、本社、東京都中野区、大阪市淀川区の三カ所にショールームを持っている。また、本社ショールーム内に設けられているアンティークピアノのコレクションは、ベーゼンドルファーのみならず、ベートーヴェンの時代のジョン・ブロードウッドやショパンの時代のプレイエル、エラールなどの有名ブランドの他に、ピアニストのアルフレッド・コルトーが所有していたダブルグランドピアノやジラフピアノといった極めて珍しい形のピアノもコレクションされており、一度訪れてみる価値がある。
また、ベーゼンドルファーは手作業で作られているため、他のメーカーに比べて生産台数が極端に少ない。現在までにベーゼンドルファーが生産したピアノは48,000台ほどである。これはスタインウェイの10分の1、ヤマハの100分の1の台数であり、よって日本国内でベーゼンドルファーを見掛ける確率は低い。