マーベリー対マディソン事件
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マーベリー対マディソン事件 (Marbury v. Madison, 5 U.S. 137(1803)) は、アメリカ合衆国最高裁判所の判決で、世界で初めて違憲審査制を確立した事件として著名である。
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[編集] 事案の概要
1800年11月、当時の与党連邦党は選挙に大敗したが、当時の「レイム・ダック会期」により翌年3月までジョン・アダムス大統領の任期であった。政権交代後も、連邦党が影響力を行使しようと、司法部を連邦党関係者で占めようとして、裁判官に連邦党関係者を任命しようとしていた。
そのうちの一つにワシントン特別区における治安判事の任命であったが、本件における上告人ウィリアム・マーベリーは、本件で問題になった治安判事に任命された者の1人であった。彼の任命の上院における同意は、任期満了前日の3月3日深夜であったため、国務長官ジョン・マーシャルは、辞令に押印し、封緘するところまで行ったものの、辞令の交付まで至らず、任期満了を迎えた。その後、就任した新国務長官ジェームズ・マディソンは彼への辞令交付を保留した。
これに対して、上告人マーベリーは被上告人マディソンに対し辞令を交付するよう職務執行令状を求めて合衆国最高裁判所に提起した。なお、当時の裁判所法において「最高裁判所は、……法の一般原則と慣例により認められた場合、合衆国の下に設置された裁判所または官職を奉ずる者に対し、職務執行令状を発する権限を有する。」としていた。
ちなみに、本件においては辞令を出した張本人マーシャルが合衆国最高裁判所首席裁判官として判決を出している。
[編集] 判旨
全員一致(マーシャル執筆)
マーシャル判事は、本件における3つの争点を挙げた。
- マーベリーに最高裁判所に申立てをする権利があるか。
- 連邦法がマーベリーに法的救済を与えているか。
- 最高裁判所が職務執行令状を出すことが法的に正しい救済方法といえるか。
マーシャルは、まず2つの争点について肯定する立場に立つことを判示した上で、3番目の問題に応えるにあたり、マーシャルは初めて1789年の裁判所法を検討して、最高裁判所に職務執行令状に関する第1審管轄権を与える趣旨であると判断した。マーシャルは合衆国憲法第3章を参照し、最高裁判所の第1審管轄権と上訴審管轄権について判断した。この規定によれば、「大使その他の外交使節及び領事に関するすべての事件」と「州が当事者たるすべての事件」にした第1審管轄権を与えていない。マーベリーは憲法は議会が管轄権を加えることができるように第1審管轄権を定めた旨主張した。マーシャルは、この論旨を採用せず、議会は合衆国最高裁判所の第1審管轄権を修正する権限をもたないという判断を示した。その結果、マーシャルは憲法と裁判所法が矛盾することを指摘した。
この矛盾は制定法が憲法と抵触したときに生じる重要な問題を提起していた。マーシャルは憲法に抵触している制定法は無効で裁判所は法的審査の原則に従って、憲法に従う義務があると判断した。この立場を支持するため、マーシャルはもし裁判所がそれを無視した場合に存在する憲法の状態は成文憲法をもっている意味がないことを意味することを指摘した。マーシャルは「いかなる目的で権限は制限され、いかなる目的で(合衆国最高裁判所の権限が)列挙されている事項に制限され、これらの制限がいかなる時も抑制されて判断されるべきだろうか」と述べ、司法権の本質が裁判所にこのような決定をすることを要求していると主張した。なぜなら、裁判所の任務は事件に判決を下すことであり、それぞれの事件で法をどのように適用する権能を有しているからである。最後に、マーシャルは憲法擁護の宣誓義務や、憲法の最高法規条項において、「合衆国の法律」の前に、「憲法」を列挙していることを指摘した。
[編集] 参照文献
- 英米判例百選(第三版)、有斐閣、1996