アメリカ合衆国憲法
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アメリカ合衆国憲法(アメリカがっしゅうこくけんぽう、Constitution of the United States)は、アメリカ合衆国の憲法典である。
1788年に発効した世界最古の成文憲法で、原法典は「1787年アメリカ合衆国憲法」とも呼ばれる。
アメリカ合衆国は、連邦制を構成する各州がそれぞれ独自の憲法を有するが、ここでは、連邦憲法としての合衆国憲法について記述する。
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[編集] 沿革
1776年、各植民地代表者による大陸会議が、独立宣言を発し、共和政体を採用する13の邦が誕生した。これらがいわゆる独立時の13州となる。13の邦は、連合規約を結んで地方分権的性格の強い緩やかな連合組織である諸邦連合を作った。この諸邦連合は、中央政府である連合会議に課税権・通商規制権限・常備軍保持が認められず、極めて弱体であったため、財政は行き詰まり、治安の混乱にも対処できなかった。
そのため、強力な中央政府の樹立を求める声が高まり、1787年5月、フィラデルフィアで憲法制定会議が開催された。憲法制定会議では、中央集権的で強力な連邦政府の樹立を推す連邦派(Federalist、後の連邦党)と、これに反対する反連邦派(Anti-federalist、後に民主共和党)との対立や、農業を中心産業とする南部と、商工業を中心とする北部の対立、大きな邦と小さな邦との間の対立など、数多くの対立を抱えていた。多くの点で妥協を重ねて成案を得た後、連邦派が中心となって各邦議会での承認を進め、1788年6月に9邦の承認を得て発効した。
1789年、第1回の合衆国議会は、アメリカ合衆国憲法に権利章典(Bill of Rights)と呼ばれる第1修正から第10修正を付け加える件を審議し可決した。この修正は、1791年、修正に必要な数の州議会の批准を得て発効した。
[編集] 構成
アメリカ合衆国憲法は、前文、本文、修正条項の大きく3つの部分からなる。
- 本文は7条からなる。ここでいう「条(Article)」は、日本の法律でいうところの「章」に相当し、多くの条は、いくつかの「節(Section)」に分かれている。
- 修正条項は27条ある。アメリカ合衆国憲法の修正は、元の規定を直接改正変更するのではなく、従来の規定を残したまま、修正内容を修正条項としてそれまでの憲法典の末尾に付け足していく方法をとる。修正条項は、順次「第1修正(Amendment I)」、「第2修正(Amendment II)」と番号が付されていく。
[編集] 内容
[編集] 前文(Preamble)
前文では、アメリカ合衆国憲法が民定憲法であることを宣言する。また、国民の安全や防衛など、当該憲法を制定する目的が列挙されている。
[編集] 第I条(Article I)
立法府・合衆国議会
(修正14条、16条、17条、20条により一部修正)
[編集] 第II条(Article II)
行政府・連邦政府、大統領
[編集] 第III条(Article III)
司法府・裁判所
[編集] 第IV条(Article IV)
州相互の関係・州と連邦との関係
[編集] 第V条(Article V)
憲法改正(修正)手続
[編集] 第VI条(Article VI)
最高法規の規定
[編集] 第VII条(Article VII)
憲法の承認、批准による発効の規定
[編集] 署名(Signatures)
各州代表の署名
[編集] 修正条項
修正条項はAmendment I(修正第1条)~Amendment XXVII(修正第27条)まである。
- 修正第一条~第十条:特に権利章典と呼ばれている(1791年)
- 修正第十一条:各州の司法権の独立(1795年)
- 修正第十二条:大統領と副大統領選挙における選挙人規定(1804年)
- 修正第十三条:奴隷制廃止(1865年)
- 修正第十四条:市民権の定義、市民の特権・免除、デュー・プロセスの権利および法の下の平等の州による侵害禁止、ならびに下院議員の規定(1868年)
- 修正第十五条:黒人参政権(1870年)
- 修正第十六条:所得税源泉徴収(1913年)
- 修正第十七条:上院議員の規定(1913年)
- 修正第十八条:禁酒法制定(1919年)
- 修正第十九条:女性参政権(1920年)
- 修正第二十条:アメリカ合衆国議会の会期と大統領選挙の規定(1933年)
- 修正第二十一条:修正第十八条(禁酒法)の廃止(1933年)
- 修正第二十二条:大統領の連続二期まで当選回数の制限(1951年)
- 修正第二十三条:合衆国議会議員定数の規定(1961年)
- 修正第二十四条:税金滞納理由による大統領、合衆国議会の選挙権の制限の禁止(1964年)
- 修正第二十五条:大統領が欠けた時の副大統領の昇格規定(1967年)
- 修正第二十六条:18歳以上の選挙権付与(1971年)
- 修正第二十七条:アメリカ合衆国議会議員の報酬の変更規定(1992年)
また、修正に至らなかったものとしては、ERA(Equal Rights Amendment、男女平等憲法修正条項)がある。この修正は、1923年に条項が起草され、1972年に合衆国議会で可決されたが、1982年までに修正に必要な数(全州の4分の3。50州のうち38州。)の州議会の批准を得られず、不成立となった。
[編集] 特徴
[編集] 主権の排除
米国憲法はその憲法制定過程で「立憲主義」を憲法原理とした為、「制限されない権力」の意である「主権」を排除した。日本国憲法の三大原則である「国民主権」を米国憲法が排除したのは憲法制定者はみな「デモクラシーの暴走」に警戒感を持つ保守主義者たちであったからである。米国憲法前文の「We,the people of the United States…」というくだりは国民主権を表すものではなく、各邦が憲法を制定したのではないという邦の主権の剥奪を表す言語表現にすぎない、という解釈をジョン・マーシャルの№2であったジョセフ・ストーリーが著している。
[編集] 厳格な三権分立
立法権・行政権・司法権は厳格に分離され、議会と大統領は別々に選挙される。大統領が議会を解散したり、議会が大統領を選出する権限などはない。大統領には法案提出権もなく、毎年1月に行われる大統領の一般教書演説によって大統領の施政方針が示され、必要な立法が示唆される。
[編集] 連邦政府の権限拡大
連邦政府は憲法で制限列挙された権限のみを行使し、その他の権限は州と国民に留保されている(第10修正)。これを「例挙権限の原理」という。しかし、連邦議会に各州間の通商を規制する権限を与える州際通商条項(1条8節3項)などを根拠にして、連邦政府の権限は拡大している。
[編集] 司法裁判所による違憲審査制
アメリカ合衆国の裁判所には、連邦議会が制定した法律の憲法適合性を審査する権限(違憲立法審査権)があるとされる。この権限は憲法の明文上定められたものではなく、連邦最高裁判所が1803年に出したマーベリー対マディソン事件判決(Marbury v. Madison, 5 U.S. 137(1803))により、判例法上確立されたものである。連邦最高裁判所は、この違憲立法審査権によって、アメリカ政治史上重要な憲法判断を行ってきた。
[編集] 憲法修正のための要件
アメリカ合衆国憲法は、いわゆる硬性憲法であり、憲法改正の制度として修正のための要件が規定されている。連邦議会は、両議院の3分の2が認める場合には、憲法の修正を提案する。この場合には、4分の3の州の立法府により採択されれば、憲法への修正条項として追加されることとなる。また、3分の2の州の立法府からの要請があった場合には、修正に関する憲法会議が招集され、そこで4分の3の多数により可決された場合にも、憲法への修正条項が成立する。これまでの憲法修正は全て前者の方法によっており、憲法会議を経たものはない。
[編集] 連邦最高裁による著名な判例
- マーベリー対マディソン事件判決(Marbury v. Madison, 5 U.S. 137(1803))-1803年、違憲立法審査制を確立した。
- プレッシー対ファーガソン事件判決(Plessy v. Ferguson, 163 U.S. 537 (1896)) - 1896年、人種別公共施設の設置について「分離すれども平等(Separate, but Equal)」と判示した。
- シェンク対合衆国事件判決(Schenck v. United States, 249 U.S. 47 (1919)) - 1919年、表現内容規制に関する「明白かつ現在の危険(clear and present danger)」の基準を示した。
- ブラウン対カンザス州トピカ市教育委員会事件判決(ブラウン判決、Brown v. Board of Education of Topeka, Kansas, 347 U.S. 483 (1954), 349 U.S. 294 (1955)) - 1954年・1955年、上記の「分離すれども平等」の原則を憲法修正14条(平等条項、デュープロセス条項)違反として覆し、公民権運動に大きな影響を与えた。
- ミランダ対アリゾナ事件判決(ミランダ判決、Miranda v. Arizona, 384 U.S. 436 (1966)) - 1966年、身柄拘束された被疑者の黙秘権・弁護人依頼権を手続的に保障するため、これらの権利の告知などを欠いたまま得た自白は、証拠とすることができないと判示した。ミランダ警告が作成される原因になる。
- レモン対カーツマン事件判決(Lemon v. Kurtzman, 403 U.S. 602 (1971)) - 1971年、政教分離に関する厳格審査基準(レモン・テスト)を示した。
- ロー対ウェイド事件判決(Roe v. Wade, 410 U.S. 113 (1973)) - 1973年、人工妊娠中絶を選択することは、憲法修正14条により保障される女性の権利であると判示した。
- ローレンス対テキサス州事件判決(Lawrence v. Texas, 539 U.S. 558 (2003)) - 2003年、同性愛行為を含む、私的な同意にもとづく成人間の性行為が、修正第14条で保障される自由の一つであるとした。
なお、アメリカ合衆国憲法には、社会権規定がない。また、男女平等条項もない。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- アメリカ合衆国憲法(英文) - コーネル大学・Legal Information Instituteのサイト
- アメリカ合衆国憲法(和訳) - 在日アメリカ大使館のサイト
- アメリカ連邦最高裁・主要憲法判例 - 神戸大学国際文化学部・安岡正晴助教授のサイト
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