アメリカ合衆国大統領
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アメリカ合衆国大統領(アメリカがっしゅうこくだいとうりょう、President of the United States)は、アメリカ合衆国の行政権の長であり元首である。
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[編集] 概説
アメリカ合衆国憲法第2条第1節の規定により、4年に一度、国民の投票によって選出される。修正第22条の規定により、二度を超えて選出されることは認められていない(三選禁止)。大統領選挙は形式的には間接選挙であり、選挙人団によって大統領および副大統領はペアで選出される選挙制度となっている。ただし、一般有権者は正副大統領候補者に投票するため、事実上直接選挙の性格も併せ持つ。
大統領選挙の被選挙権は35歳以上でかつ合衆国内への在留期間が14年以上で、アメリカ合衆国生まれのアメリカ合衆国市民権保持者、または「制憲当時に合衆国市民であった者」である。伝統的にワスプ(WASP:白人・アングロサクソン・プロテスタント)であることが事実上大統領になるための必須条件とされてきたが、1960年に当選したケネディがアイルランド移民の家系であり、カトリックであったことから、必ずしも全てを満たす必要はなくなってきている。過去において白人以外の大統領や女性の大統領は存在しないが、現在のところ2008年大統領選挙の最有力候補の二人は女性と黒人である。
なお大統領は現職時も退職後も Mr. President と呼ばれる。大統領が女性の場合は Madam President となる。
[編集] 権限
[編集] 執行権
- 判事、大使、各省長官をはじめとする全ての連邦公務員(ただし合衆国憲法または連邦法が特に定めたものを除く)の指名権。ただし上院の承認が必要
- 上院休会中に生じた欠員に対して次回の上院の会期満了日を任期として休会任命をする権利
- 全ての連邦公務員の任命権。
- 各省長官の罷免権
- 条約の締結権。ただし上院の3分の2以上の賛成による承認が必要
- 各省長官から意見を求める権利
- 連邦議会に法律制定その他の適切と考える施策を勧告する権利
- 恩赦、刑の執行延期
- 外交使節の接受権
[編集] 立法権
- 連邦議会への勧告権(「教書」Address と言う。最も知られているのが年頭の一般教書演説 (State of the Union Address)。他に予算教書、特別教書(戦争教書)など。近年、一般教書は両院合同会議で演説されるようになった。)大統領には法案提出の権限がなく、代わりに教書によって議会に法律の制定を要請することになる。
- 連邦議会両院を通過した法案への拒否権。議会に差し戻された法案を大統領の署名なしで法律とするためには両院ともに3分の2以上の多数で再可決しなければならない。
- 立法がすべて議員発議という制度が厳格に守られていることもあり、かつては非常時でもない限り大統領が政策の主導権を握るようなことはないのが通常だった。しかし第二次世界大戦後の大統領は積極的に政策、特に内政に関与し、所属する政党の議員を動かしてまで自らが望む法律を制定しようとすることも見られる。また論争となりそうな法案については、国民に対して自らの考えを明らかにし、世論を動かすかたちで議会をリードしようとす動きも見られる。
[編集] 指揮権
- 大統領は国軍最高司令官 (Commander-in-Chief) として国軍の指揮権をもつ。宣戦布告は議会の権限であり、軍隊を募集し編制することも議会の権限である。しかし今日では、議会による宣戦布告を悠長に待っていては先制攻撃が不可能になってしまうため、大統領は指揮権を根拠に宣戦布告なしで戦争を開始できることが慣例的に定着している。議会はこれに対し「戦争権限法」を定めて、大統領の指揮権に一定の制約を設けている。
[編集] 日常政務
- 勤務時間は、「自分で必要と考えるだけ働けば良い」とされている。
- 大統領の朝最初の仕事は「日例報告」を聞くことから始まる。この報告では首席補佐官、国務長官、国家情報長官らによって、世界中から収集した情報の報告が行われる。
- 日常的な執務は「オーバルオフィス」と呼ばれる大統領執務室で行われる。この部屋はホワイトハウスのウエストウイングにある。
- 大統領には核兵器使用に必要な装置を携帯した将校がいかなる場所へでも随行する。
- 記者会見は通常一ヵ月に一度以上行われるのが慣例。
[編集] 大統領権限継承順位
1947年大統領継承法は、第(a)条(1)項で「もし死亡、辞任、解任、執務不能などの理由により、大統領と副大統領の双方が大統領の責務を果たし権限を執行できない場合には、下院議長が、下院議長と下院議員を辞職したのちに、大統領としてこれを行う」としたうえで、その次を上院仮議長、その次からは内閣の閣僚を所轄省庁の設立年の古い順に並べ、継承順位を第18位まで定めている。
- 1位 副大統領
- 2位 下院議長
- 3位 上院仮議長
- 4位 国務長官
- 5位 財務長官
- 6位 国防長官
- 7位 司法長官
- 8位 内務長官
- 9位 農務長官
- 10位 商務長官
- 11位 労働長官
- 12位 厚生長官
- 13位 住宅都市開発長官
- 14位 運輸長官
- 15位 エネルギー長官
- 16位 教育長官
- 17位 退役軍人長官
- 18位 国土安全保障長官
ただし外国で生まれて合衆国に帰化した者など、憲法で定める大統領の資格を満たさない者がこの順位内にいる場合は、その者をとばして下位の者の順位が繰り上がる (現内閣ではカルロス・グティエレス商務長官がキューバ生まれ、イレーン・チャオ労働長官が台湾生まれのため、厚生長官が第10位となって以下二位づつ繰り上がっている)。
毎年一月下旬に議会で行われる大統領の一般教書演説は、アメリカの三権を構成する者のほぼすべてが下院本会議場に集う一大イベントである。しかし冷戦たけなわの1970年代末、大統領府はこの一般教書演説時を狙った東側による首都核攻撃を想定、大統領権限継承者全員と上下両院の議員全員が一堂に会することの危険性を憂慮した。ここを叩かれると、憲法が定める法的な大統領権限の継承者が皆無となるばかりか、何らかの立法手段でそうした憲法上の危機を乗り越えることができるかもしれない議会や、そうした手段を公的に承認することができるかもしれない最高裁までが、一瞬にして消滅してしまうからである。
その結果1981年の一般教書演説からは、閣僚の大統領権限継承者の一人を内密に「指定生存者」に指名し、その者を首都ワシントンから相当の距離をおいた非公開の場所に当日は待機させる(つまり隠す)ことにした (2007年はアルベルト・ゴンザレス司法長官)。
さらに、あくまでも想定の範疇だった首都攻撃が 9/11テロで現実のものになると、2005年の一般教書演説からは議会も各院で民主党と共和党からそれぞれ一人づつ、計四人の議員を「指定生存者」として一般教書演説の日は首都を離れさせ、最悪の事態が起きた場合でも両院で議長と議員がいる連邦議会が生き残れるようにした。(ただし過去三年において、上院では大統領権限継承順位が3位の上院仮議長が上院の指定生存者の一人になっており、これがこのまま慣例として定着すると、あえて閣僚の指定生存者を指名する必要性が失われてしまう点が指摘されている。)
[編集] 歴代大統領一覧
[編集] 関連項目
- 米国政府用語一覧
- アメリカ合衆国大統領選挙
- 2008年アメリカ合衆国大統領選挙
- ジェファーソン・デイヴィス: アメリカ連合国(南北戦争下の南部政府)の大統領
[編集] 参考資料
- 選出方法
- 継承順位
アメリカ合衆国大統領選挙 1789 | 1792 | 1796 |
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