レナード-ジョーンズ・ポテンシャル
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レナード-ジョーンズ・ポテンシャル(Lennard-Jones potential)は、2原子間の相互作用力(原子間力)つまり、2つの原子の間に働く力のポテンシャルの経験的なモデル[注1]の一つである。 このレナード-ジョーンズ・ポテンシャルのことを、レナードジョーンズ・ポテンシャル、レナード-ジョーンズポテンシャル等と表記している 文献もある。このポテンシャルと類似するものとして、モース・ポテンシャルがある。
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[編集] レナード-ジョーンズ・ポテンシャルの数式による表記
レナード-ジョーンズ・ポテンシャル[1][注2]を "U(r)"を数式で表すと式"(1)"のようになる[注3]。
- (1)
又、『レナード-ジョーンズ・ポテンシャル"U(r)"』を距離微分(つまりrで微分)すると 『原子間力の場のモデルを表す式』、つまり『原子間力の距離依存性のモデル を表す式"F(r)"』が"(2)"式のように導出される[注3]。
- (2)
但し、rは原子間距離である。 は、2原子の原子間距離が離れる方向の方向ベクトル[注4]である。 又、εとσは物質に依存した定数で、 実験的にはフィッティングパラメータ[注5]として用いるものである。しかし、 ε、σ共に物理学的な意味を持っている。
まず、これらのパラメータがもつ次元について考えよう。 (1)式をが-6乗と-12乗の項をもつことから、U(r)がきちんとエネルギーの次元を持つためには[注6]、 σが距離の次元を持ち、εがエネルギーの次元をもたねばならないことは明白である。
次に、先の次元についての解釈を踏まえ、σの物理的な意味を考えよう。(2)式を見るに、
- r0 = 21 / 6σ (3)
とすると、 F(r0) = 0となる。つまり、このr0 は、U(r)の平衡点である。さらに(2)式を距離微分すれば分かるよう、r0は安定な 平衡点である。さらに(当然のことだが)r0において、 U(r)は極小であり、その付近でU(r)のグラフは上に凸である。 このことから、r = r0となる距離において、2原子は安定となることになる。 そのため、このr = r0を平衡原子間距離と呼ぶ。実際、r0は、物質の格子定数とよく一致する。
さて、計算を見やすくするために、(1)式を先の平衡原子間距離r0を用いて書き直すと
- (4)
となる。(4)式に(3)式を代入するとU(r0) = − εを得る。このことと、U(r)の基準が無限遠であることを 考えると。εは結合を切るために必要なエネルギー、つまり2原子の距離を無限遠まで引き離すために 必要なエネルギーを表していることが分かる。その意味でこのεは結合エネルギーと呼ばれる。
[編集] (1)式の6乗の項の双極子モデルによる説明
双極子-双極子間の力が、ある条件では距離の6乗に反比例したポテンシャルを持つことから、(1)式6乗の項、つまり、 6(σ / r)6 は、原子の分極に起因するものと解釈できる[1]。
[編集] (1)式の12乗の項の双極子モデルによる説明
(2)式の13乗部分つまり、( − 12)(σ / r)13 は、(1)式の12乗部分に由来するが、 距離rが小さくなるにつれ爆発的に大きくなり、その方向は斥力方向である ことが分かる。距離が小さく似なるにつれ爆発的に大きくなる斥力は、 パウリの排他律による影響と考えるのが自然である。そのため、 (1)式の12乗の項は、パウリの排他律による影響と考えられている。
しかし、パウリの排他律による影響を第一原理計算のみから厳密に行えるか否かについては、不明である。
[編集] レナードジョーンズポテンシャルの実験的導出
[編集] 代表的な物質に対するεとσの値
[編集] 脚注・参考文献
[編集] 脚注
[注1] 経験的なモデルというのは、理論から演繹的に導かれたわけではなく、現象論的な説明を行う過程で生まれたモデルという意味である(注4参照)。しかし、理論的(第一原理的)立場と矛盾しているという報告はなく、多くの現象をよく説明している。
[注2]式(1)は厳密には(12,6)ポテンシャルと呼ばれる。(12,6)ポテンシャルは、レナード-ジョーンズポテンシャルの代表例である。
[注3]一般に、ポテンシャルの距離微分は力を表す。詳しくはポテンシャルの項を参照のこと。
[注4]1つ目の原子を原子A,2つ目の原子を原子B、それぞれの位置ベクトルを、それぞれ とすると、 となる。ここで、 | | はEuclidノルムである。
[注5]フィッティングパラメータとは回帰分析の手法で用いられる統計学的なパラメータ の一種で、その値は現実のデータとの一致が最もよくなるように最小二乗法等の方法で導出される。
[注6]次元の異なる物理量同士の演算は意味がない。
[編集] 参考文献
[1]キッテル 固体物理学入門 第8版〈上〉 / Charles Kittel (原著), 宇野 良清 、他(翻訳), . -- 東京 : 丸善 , 2005.12 ISBN 4621076531
[2]R. A. Aziz, J. Chem. Phys., vol. 99, 4518 (1993)
[編集] 関連項目
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