不思議の国のアリス症候群
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不思議の国のアリス症候群 (ふしぎのくにのアリスしょうこうぐん、Alice in Wonderland syndrome, AIWS) とは、知覚された外界のものの大きさや自分の体の大きさが通常とは異なって感じられる主観的なイメージの変容した状態である。
[編集] 概要
この症状では典型的には、視覚では外界が通常と同じように見えているにもかかわらず、一方では主観的にそれらが通常よりも極めて小さな、または大きなものになったように感じられたり、ずっと遠く、あるいは近くにあるように感じられたりする。 自分の体は逆にそれぞれ大きく、または小さくなったように思う。 例えば、犬のようなペットがネズミと同じ大きさに感じられたりする。 外界が小さく感じられるものを小視症 (micropsia)、大きく感じられるものを大視症 (macropsia)、ひずんで感じられるものを変視症 (metamorphopsia) と呼ぶ場合もあるが、視覚そのもの障害による症状との混乱がみられる。
この症状にはさまざまなバリエーションがある[1]。 例えば対象や位置が限定されており、人の顔以外を見たときにのみこの現象が現れる人や、右半分だけが 2 倍の大きさになったように感じる人もいる。 またこの現象は視覚だけでなく触覚や身体イメージ (body image) によっても起こり、自分の片方の耳だけが何倍にも大きくなったように感じられることもある。 さらに、空間の感覚だけでなく時間の感覚に関して類似した現象が起こることもあり、時間の進み方が速くなったり遅くなったりしたように感じる人もいる。 現象は数分で終わることもあれば、何日も継続する場合もある。
不思議の国のアリス症候群を定常的にもつ人の多くは偏頭痛 (migraine) をもっている。 また、ある種のウイルスによる脳炎やてんかん、統合失調症の患者からも報告されることがある。 さらにある種の向精神薬によってもこの症状が現れることがある。 特に、多くの人が子供のころに感染するヘルペスの一種であり、伝染性単核球症を引き起こすエプスタイン・バー・ウイルスの初期感染で報告されることが多く、このため子供のころ一過性のこの症状を体験した人は比較的多い。
この症候群の名前は、ルイス・キャロルの小説『不思議の国のアリス』で薬を飲んだアリスが大きくなったり小さくなったりするエピソードに因んで1955年にトッドによりに名付けられた[2]。 ルイス・キャロルは偏頭痛に悩んでいたことが知られており、彼自身がこの症状をはじめとする小説内のエピソードを体験していたかもしれないとする推測もある[3]。
[編集] 悪夢と不思議の国のアリス症候群
ある特徴的な悪夢と不思議の国のアリス症候群との関係がインターネット上でとり立たされることがある。 この悪夢は、しばしば交互に訪れる巨大なものと極めて細いもの、黒と白、取り返しがつかないことをしたような不安感などを特徴とし、不思議の国のアリス症候群による体験との類似がみられる。 主として幼少期に病気で高熱にうなされたときなどに少なくない人々が経験している。 しかし、この悪夢と不思議の国のアリス症候群との関係について論じた学術的研究はまだなくその関係は不明であり、今後の研究がまたれる。
[編集] 脚注・参考文献
- ^ R. W. Evans (case history), L. A. Rolak (expert opinion) (2004). "The Alice in Wonderland Syndrome". Headache 44: 624–625.
- ^ J. Todd (1955). "The syndrome of Alice in Wonderland". Can. Med. Assoc. J. 73: 701–704.
- ^ K. Podoll, D. Robinson (1999). "Lewis Carroll's migraine experiences". The Lancet 353: 1366.
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