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借地借家法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

借地借家法
通称・略称 なし
法令番号 平成3年10月4日法律第90号
効力 現行法
種類 民法
主な内容 不動産賃貸借に関する特則
関連法令 民法民事調停法不動産登記法など
条文リンク 総務省法令データ提供システム

借地借家法(しゃくちしゃっかほう、しゃくちしゃくやほう:平成3年10月4日法律第90号)は、建物の所有を目的とする地上権土地賃貸借(借地契約)と、建物の賃貸借(借家契約)について定めた特別法である。借地借家法の成立により、建物保護ニ関スル法律(明治42年5月1日法律第40号、建物保護法)・借地法(大正10年4月8日法律第49号)・借家法(大正10年4月8日法律第50号)は廃止された。なお本項で借地借家法の条文を引用する場合、単に条数のみを挙げることとする。

目次

[編集] 立法趣旨

借地借家法は、土地や建物の賃貸借契約における借主(借地人、借家人、店子)を保護する目的で制定された民法特別法である。これらの賃貸借契約についての規定は民法典にも存在する。しかし民法典の規定は自由主義思想を背景に、当事者の個性を重視せず、抽象的にしか把握しない。そのため、契約当事者には形式的な平等しか保障されていないといえる。ところが現実の賃貸借契約においては多くの場合、貸主(大家)と借主(店子、借家人)との力関係には差がある。そのため、両当事者の実質的な平等を保障し、一般に弱い立場に置かれがちである借主の保護を図ったのが借地借家法である。

もっとも、こうした趣旨は借地法、借家法及び建物保護法から引き継いだものであり、本法によって初めて取り入れられたものではない。本法はそれら借地人や借家人を保護する目的で制定された3法を統合したものである。なお、農地の賃貸借契約については農地法により借地人の保護が図られている。

[編集] 旧法との関係

借地借家法は、不動産の賃貸借契約における賃借人を保護する目的で制定された3つの法律(借地法、借家法及び建物保護法)を統合したものである。しかし、本法の施行後もそれらの法律が意味を失ったわけではない。

すなわち、原則としては、借地借家法は1992年(平成4年)8月1日の施行前に生じた事項にも適用されるが(附則4条本文)、施行前に設定された借地権に係る契約の更新に関しては従前の例により(附則6条)、施行前にされた建物賃貸借契約の更新拒絶通知及び解約申入れに関しては従前の例による(附則12条)など、一部の事項については旧借地法・旧借家法が適用される(施行後に更新された場合も旧借地法・旧借家法が適用され続ける)。

このような措置がとられた理由は、主に法制定当時の野党から、借地借家法が借主にとって不利益を及ぼすのではないかという懸念が示されたためである。

[編集] 内容

借地借家法は、民法に規定された賃貸借契約の原則を現代社会の実状に合わせて修正している。まず、借地人及び借家人が土地建物の新所有者に対して比較的容易に自己の権利を対抗できるようにした。また、借地・借家契約について、その期間をできるだけ長く設定し、かつ契約更新を強制して契約が容易には終了できないようにした。そして、借地に関しては、借地権の譲渡や転貸をする際に本来必要な地主の承諾を得なくても代わりに裁判所の許可を得ればよいとされた。さらにこれら借地借家法の規定は、借家人に不利な特約をしてその内容を変更してはならないという片面的強行規定という方法がとられている(逆に、借家人に有利な特約は許される)。

以上は土地建物の賃借人にとって有利な規定であるが、そうでないものも本法には含まれる。それが定期借地権・定期借家権である(後述)。

[編集] 適用範囲

[編集] 借地

借地借家法は、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権を、借地権と定義して、これを適用対象としている(1条、2条1号。以下本稿で建物所有目的の地上権設定契約又は土地賃貸借契約を「借地契約」といい、借地権者、すなわち借主を「借地人」という)。

本法は、借地人の生活・営業を保護するものであるから、ここにいう「建物」には、橋梁、広告塔、電柱、ガソリンスタンド等は含まれない。

ただし、一時使用目的の借地権には、存続期間、契約更新等に関する本法の規定は適用されない(25条)。 ここでいう一時使用とは、期間の長短ではなく、賃貸借の目的や動機などの事情からその契約を短期間で終えることが客観的に判断できる場合をいう。サーカスの興行のために土地を借りるような場合は一時使用目的に当たるとされる。

[編集] 借家

借地借家法は、上記借地のほか、建物の賃貸借契約を適用対象としている(1条。以下本稿で建物の賃貸借契約を「借家契約」といい、その賃借人を「借家人」という)。

ここにいう「建物」は、一軒家を借りている場合はもちろん、建物の一部の間借りであっても、他の部分と区画されており、構造や規模から独立的排他的支配が可能であればこれに該当する(最判昭和42年6月2日民集21巻6号1433頁)。

一時使用目的の借家契約には、本法の規定は適用されない(40条)。イベント開催中に出店を出すためだけに店舗を借りるという場合などがこの一時使用に当たる。

[編集] 対抗力

借地借家法では、借地人・借家人が、借地権・借家権を第三者に対抗するための対抗要件について、民法の特則を置いている。

そもそも、賃借権は貸主と借主との契約により生じる債権にすぎないため、物権のような絶対性がなく、第三者に対抗することはできないのが民法の原則である。例を挙げると、

  • Aは地主である甲と土地の賃貸借契約を結び、その借地に家を建てて住んでいた。ある日、甲がその土地を第三者である乙に売却した。土地の新たな所有者となった乙はAに立ち退きを要求した。
  • Aは家主である甲と建物の賃貸借契約を結び、その借家に住んでいた。ある日、甲がその建物を第三者である乙に売却した。家屋の新たな所有者となった乙はAに立ち退きを要求した。

上記の2つの例では、Aと甲との間の賃貸借契約は、あくまでその2人の間で締結されたものであるから、契約外の乙にとっては無関係である。したがって、Aは乙に対してその土地・建物についての賃借権を主張できず、乙は所有権に基づき、Aに対して明渡しを求めることができることになる(「売買は賃貸借を破る」という原則)。

もっとも、民法上、賃借権を登記していれば、賃借人は、新所有者に対してもこれを対抗することができる(民法第605条)。すなわち、甲が賃貸物件を乙に売却した場合も、賃借人Aは、予め賃借権設定登記を受けておけば、新所有者乙に賃借権を主張し、住み続けることができる。しかし、賃貸借契約においては、特約がない限り、賃借人は賃貸人に賃借権の登記を求めることはできないというのが判例・通説である(大審院大正10年7月11日判決民録27巻1378号)。そして、実際上も、通常の地主や家主は、賃借権を登記することによって得られる強力な効果を嫌い、任意に登記に協力することはない。そのため、賃借権設定登記という方法によって賃借人が新所有者に自己の権利を主張するという方法は有名無実化していた。

しかし、これでは、賃貸人が、賃料の値上げに応じない賃借人について賃貸物件を第三者に売却して立ち退かせるなどして、値上げを迫ることもできることになり、賃借人の立場は非常に弱いものになる。そこで、借地人・借家人の地位を保護するために、本法では以下のような規定が設けられている。

  • 借地人は、その土地上に登記済みの建物を所有していれば、第三者に対して借地権を対抗することができる(10条1項)。
  • 借家人は、建物の引渡しがあったときは、第三者に建物賃借権を対抗することができる(31条1項)。すなわち、借家人がその借家に居住(占有)していれば、新所有者にも借家権があることを主張することができる。

このように、本来は債権に過ぎない賃借権だが、本法の規定により物権と類似する対外的効力を有するに至っている。このことを指して賃借権の物権化ということがある。

[編集] 契約の期間

[編集] 借地契約

借地権の存続期間は、次のとおりとなる。

  • 借地契約において契約期間を定めなかった場合は、30年(3条本文)。
  • 借地契約において、30年より長い期間を定めた場合は、その定められた期間(3条ただし書)。
  • 借地契約において、30年より短い期間を定めた場合は、そのような合意は9条により無効であるから、やはり30年となる。

なお、旧借地法では、借地上に建てられている建築物について石造り、土造り、レンガ造りなどの堅固建物と、木造などそれ以外の材質の非堅固建物という区別を設け、前者の所有を目的とする借地権の契約期間が30年未満の場合には一律60年とし、後者の契約期間が20年未満の場合には一律30年として規定していた(旧借地法2条)。しかし、この区別は建築技術発展に伴って合理性を失い、借地借家法には受け継がれなかった。

[編集] 借家契約

借家契約の存続期間は、当事者の合意によって定まる。民法604条(賃貸借契約の期間を20年以下と規定している)の適用が排除されているため、期間の上限はない(29条2項)。

期間の定めをしなかった場合は、各当事者はいつでも解約申入れをすることができる(民法617条1項)。また、借家契約の契約期間が1年未満である場合も、期間の定めがない建物の賃貸借とみなされる(29条1項)結果、同様にいつでも解約申入れをすることができる(解約申入れについては後述)。

[編集] 法定更新・解約の制限

民法における原則では、契約期間が定められている場合ならば、その期間が過ぎれば契約は終了し、さらに契約を更新するかどうかは当事者次第である。また、契約期間が定められていない賃貸借契約は借主・貸主どちらからでも解約を申し入れることができ、その申入れから所定の期間を過ぎると契約は終了する(民法617条1項)。しかしこれでは賃借人が突然家や土地を追い出されて生活の拠点を失うおそれがあるため、借地借家法には更新を容易にし、解約を制限する制度が整備されている。

すなわち、借地借家法は、期間の定めのある借地・借家契約については、直接的又は間接的に契約更新を強制している。このように、当事者(特に賃貸人)の意思に関わらず法律の規定によって契約が更新されることを法定更新という。また、期間の定めのない借家契約についても、賃貸人からの解約申入れに正当事由を要求するなどして一方的に契約を終了させないようにしている。

[編集] 借地契約

借地権の存続期間が満了する場合に、建物が存在するときは、借地人は、契約の更新を請求することができる。これに対し、地主(賃貸人)が遅滞なく異議を述べなければ、契約は法定更新される(5条1項)。貸主がこの異議を述べるには、正当事由が必要である(6条)。

また、借地権の存続期間が満了した後、借地人(又は転借人)が土地の使用を継続している場合も、建物が存在するときは、地主が遅滞なく異議を述べなければ、契約は法定更新される(5条2項、3項)。この異議にも正当事由が必要である(6条)。

正当事由の判断は、借地人と貸主の双方がその土地の使用を必要とする事情のほか、立退料の支払も考慮することができる(6条)。

[編集] 期間の定めのある借家契約

期間の定めのある借家契約については、何もしなければ自動的に契約が更新されるという制度が採られている。すなわち、当事者が契約期間満了で契約を終了させようとする場合は、契約期間が満了する1年前から6か月前までに、相手方に対して契約を更新しないこと(更新拒絶)を通知しなければならず、この通知がない場合には、これまでと同様の条件(ただし、新たな借家契約は期間の定めのないものとされる)で契約が法定更新される(26条1項)。賃貸人がこの更新拒絶の通知を行うためには、正当事由が必要となる(28条)。

また、正当事由がある更新拒絶の通知を行った場合であっても、借家人(又は転借人)が期間満了後もその建物に住み続けているときは、賃貸人が遅滞なく異議を述べなければ、契約は法定更新される(26条2項、3項)。この異議には、正当事由は要求されていない。

正当事由の判断は、借地契約と同様であるが、「建物の現況」が考慮要素として挙げられている。

[編集] 期間の定めのない借家契約

期間の定めのない借家契約の場合には、民法の原則により、いつでもどちらからでも解約を申し入れることができる(民法617条1項)。また、期間の定めがあっても、契約期間が1年未満である場合には期間の定めがない建物の賃貸借とみなされる結果(29条1項)、同様に解約を申し入れることができる。

ただし、建物賃貸人からの解約申入れについては、第1に、解約申入れから契約終了までの猶予期間(解約申入れ期間)が、民法617条1項2号所定の3か月から、2倍の6か月に延長されている(28条)。なお、借家人からの解約申入れについては明文の規定がないが、民法617条を任意規定と解すると、特約で借家人からの解約申入れ期間を4か月等に延長することが可能になる。もっとも、仮に任意規定だとしても、消費者契約法により、3か月よりも長い解約申入れ期間は無効となる可能性がある。

また、建物賃貸人からの解約申入れについては、第2に、正当事由が必要とされる(28条)。

[編集] 賃料額改定の特則

賃料額の改定に際しては賃貸人と賃借人の地位の違いとそれによる交渉力の差が大きく現れる局面である。よって借地借家法は地代や家賃が経済事情の変化によって現状に見合わない額となった場合(高すぎるという場合も低すぎるという場合もある)には、当事者の双方が借賃増減額請求権を取得する。借地では11条、借家では32条に規定がある。これを行使するとその場で直ちに額が変更される。つまり借賃増減額請求権は形成権である。もちろん具体的な額は裁判などによって決定されることになるが、請求権を行使した時点から賃料が変更されたものとして扱われる。こうすることで紛争解決を引き延ばし、引き延ばしている期間の賃料を現状の額で据え置こうとする戦術は無意味化する。

例えば20万円の家賃が諸般の事情を考慮した場合に異常な高値であったとする。そこで借家人が1月に「賃料を10万円にせよ」という内容の借賃増減額請求権を行使した。家主はその額について難色を示したため裁判となり、結果7月に「賃料を15万円とする」という決定が出たとする。すると賃料は1月の時点から15万円であったとして扱われ、賃借人は1月以降の賃料を15万円で支払うことになる(7月から賃料が15万円になるわけではない)。

なおこうした賃料額の決定を巡る裁判を起こすには、まず調停を行わなければならない。これを調停前置主義といい、民事調停法24条の2及び24条の3に規定されている。

[編集] 建物買取請求権

借地契約が終了した場合、借地契約であれば借地上の借地人が立てた建物が残存する場合がある。この場合、その建物を賃貸人に買い取るよう請求できるのが建物買取請求権である(13条)。建物買取請求権は形成権である。つまり、これを行使すれば賃貸人の意思に関わらず建物の売買契約が成立してしまう。この規定の趣旨は借地人が投下した資本について回収する機会を与え、建物を取り壊すことによる国民経済的損失を防止し、請求権が行使されれば買取を当然に認めることで契約の更新を間接的に強制することにあると説明される。しかしこの制度は現代社会の実状に適合しないという批判もある。つまり、借地人の保護は契約存続によって図るべきであって買取による資本投下まで保護する必要はないとか、戦後復興を成し遂げた日本において建物の取り壊しを規制するほどの住宅難は存在しないとか、建物それ自体の価格は安いため契約更新を強制する効果がないという指摘である。

賃貸借契約が賃借人の債務不履行によって解除された場合には、賃借人は買取請求権を行使できないとするのが裁判例の立場である。ただし学説には異論も多く、買取を認めるのが多数説である。

また、第三者の建物買取請求権というものもある。これは賃借権の譲渡を地主が承認しない場合に、その借地上の建物などを取得して借地権を譲り受けようとする者はその地主に対して建物等の買取を請求できるというものである(14条)。

[編集] 造作買取請求権

借家契約においてもその契約終了時に賃貸人に対して「造作(ぞうさく)」を買い取れと請求できる。これを造作買取請求権といい、33条に規定がある。建物買取請求権と同様、行使されたとたんに借家人と賃貸人との間に売買契約が成立するという形成権の一種である。買取の対象となる「造作」とは、借家人が賃貸人の同意を得て借家に設置したもので、条文上明示されている畳や建具(障子、襖、戸など仕切りとなるもの)のほか、ガス水道などの設備、空調設備(エアコン、クーラー)などが挙げられる。この規定は借地借家法においては強行規定ではなく任意規定となっため(37条を参照)、当事者間で自由に特約を定めることができる。

造作は取り外しが可能であるから本来ならば契約終了時に借家人が収去しなければならない。しかし社会全体の生活水準が向上するにつれて空調設備すらもその借家の一部分と見ることもでき、必要費や有益費の規定(民法第608条、詳しくは賃貸借の項目も参照)に従って処理すべきとの考えもある。

[編集] 定期借地権・定期借家契約

[編集] 定期借地権

定期借地権とは、契約期間の更新がない借地権である。これにより様々な経済的要請に応えることができる、柔軟な借地契約が可能となった。

定期借地権には3種類ある。

  • 一般定期借地権(22条)
契約の更新や建物買取請求権がない借地権である。この借地権の存続期間は50年以上でなければならないが、存続期間終了時には借地を更地に戻して返還しなければならない。存続期間満了後、更新もなく速やかに土地が返還されるため、比較的安価で借地権を設定できるのがメリットである。
  • 建物譲渡特約付借地権(23条)
期間満了時に、借地上にある建物を相当の対価でもって地主に売却するとの特約を付した借地権である。この存続期間は30年以上である。土地開発業者(ディベロッパー)などが土地を借り、そこにビルやマンションを建てて賃料収入を得て、その後地主に売却するという事業に用いられる。
  • 事業用借地権(24条)
専ら事業の用に供する建物の所有を目的とする借地権である。借地権の存続期間は10年以上20年以下であることが必要である。つまり店舗を建設するといった目的に限定されるのであり、居住目的の建物は建設できない。この事業用借地契約は公正証書によってなされなければならない(24条2項)。

[編集] 定期借家契約

同様に、定期借家契約(定期建物賃貸借)についての規定もある(38条)。ここでは、存続期間が終了すればそこで賃借権は完全に消滅し、契約を更新することはできない。ただしこの契約は公正証書などの書面によって行う必要があり、その際には期間満了時に契約を更新することができないことを記載した書面を渡して説明しなければならない。これは海外転勤などで、ある一定期間だけ家を空けるが、その後再び戻ってきてその家で生活することが確実であるような場合に用いられる。また、法令や契約によって一定期間が経過した後に取り壊される予定となっている建物を賃貸する場合にも、建物取り壊しと同時に賃貸借契約が終了し、更新することができないという契約形態をとることができる(39条)。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

Wikisource
ウィキソース借地借家法の原文があります。
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