創造産業
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創造産業とは、芸術、映画、ゲーム、服飾デザイン、広告など知的財産権を持った生産物の生産に関わる産業である。
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[編集] 創造産業の範囲
英国の文化・メディア・スポーツ省(DCMS)は、創造産業を次のように定義している。
- 「個人の創造性や技能、才能に由来し、また知的財産権の開発を通して富と雇用を創出しうる産業」
文化・メディア・スポーツ省は、創造産業に以下の部門を含めている。
- 広告
- 放送
- デザイン
- 建築デザイン
- コミュニケーション・デザイン
- デザイナー・ファッション
- 編集、批評、報道
- 映画、ビデオ産業
- 美術・イラストレーション
- ゲーム開発
- 手芸
- 骨董品および修復市場
- 音楽産業
- 舞台芸術
- 出版
- ソフトウェア開発、コンピュータ・サービス
文化・メディア・スポーツ省による定義は影響力が大きく、他国政府でもこれを公式に採用しているところもある。しかしながらまだ未熟な定義であるという批評も受けている。
第一に、これらの部門分けはライフスタイル産業、非営利事業、大企業によるビッグビジネスなど、創造活動の規模や形態の差を考慮に入れていないこと、また政府による補助金を受けている部門(例・映画産業)と、補助のない部門(例・ビデオゲーム産業)などの差も考慮外であることが批判されている。
また骨董品市場を含めることにはしばしば疑問が呈される。これは単に取引であり、新たな価値の生産には寄与していないというものである。またコンピュータ関係の産業を含めることも疑問視されている。
香港などいくつかの政府では、文化政策にあたり、物品やコンテンツの生産から販売までのバリュー・チェーンの中で著作権を持つ部門に焦点を当てているところもある。これらの政府は世界知的所有権機関(WIPO)による分類(創造産業を、コンテンツ生産から販売までにかかわる企業の中で、著作権を所有する者に限定する)を適用している。
また、これらの産業を二つに分類するよう主張する者もいる。これによれば大量消費と大量供給により大衆に開かれる文化産業(映画、ビデオ、ゲーム、放送、出版)、および手作業により生産されある場所・ある時間でしか消費できない文化産業(視覚芸術、舞台芸術、文化遺産など)の区別がなされる。
[編集] 文化産業との違い
創造産業は、よく似た言葉である「文化産業」との違いや境界線が問われることがある。これに対する適切な説明は、文化産業は創造産業の付加的部門である、という表現である。文化産業は、文化遺産の維持、文化遺産やミュージアムを回る文化観光(カルチュラル・ツーリズム)、美術館や博物館や図書館、スポーツや野外活動、その他ローカルなペットショーから趣味関係のコンベンションの誘致まで、人生を豊かにするあらゆる活動が含まれる。それゆえ文化産業は、金銭的価値でない別の種類の価値(文化的豊かさや社会的豊かさ)を社会に与えられるか、に関係するといえる。創造産業が生産にかかわる部門であるなら、文化産業はその供給や消費にかかわる部門まで含む。
[編集] 知的産業との違い
リチャード・フロリダ(Richard Florida)ら数人の研究者は、創造産業を知的労働者の生産にまで焦点を広げ、創造的生産者をプロフェッショナル的知識をもととしたサービスの提供者すべて含めるよう論じている。これにより、創造産業という語は知識経済という語や、知的所有権の所有権の問題一般を侵食してゆく。
[編集] 経済への寄与
世界的に見て、ソフトウェア産業や一般的な科学研究開発を除いた創造産業は、1999年(現在信頼できるデータが入手できる最新年度)における、世界の経済生産高の4% ほどになるといわれる。科学研究開発の生産高を含めると、さらに4%から9%が加わると見られる。ただしこの数字は国によって異なる。
英国を例にとると、創造産業は生産高に対して福祉部門をはるかに越える寄与をし、農林水産業の4倍の生産を行っているとされる。政府の定義による創造産業部門の雇用は、英国の労働人口の4%から6%を占めているが、これは伝統的な産業、たとえば小売や工業に比べはるかに少ない。
創造産業部門の中では、再び英国を例にとれば、その中の三大部門はデザイン、出版、放送となる。これらをあわせて収入の75%、雇用の50%を占める。
創造産業内の複雑なサプライ・チェーンは、それぞれの部門ごとの価値付与額の正確な算出を困難にする。特にサービス業に当たる部門、たとえば広告部門は付与した価値の算出が困難である。一方生産を行う手芸などの部門は比較的容易になっている。しかし、生産的部門における競争は、生産競争を猛烈にする傾向を生み、その生産物をただの日用品にしてしまう結果となる。
公的資金を投入される創造産業は、これによってサービスを増加させることにより、創造産業の数の見積もりを困難にする傾向を持つ。また税制上の区分は人の職業を決定できるが、創造産業従事者は複数の業種(バイトや副業など)に就いているため、ここからの創造産業従事者の算定も困難である。このため、公的な創造産業に関する統計の取り扱いには注意が必要である。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- "The Creative Economy (BusinessWeek magazine)" 2000-08-28. .
- Caves, Richard E. (2000). Creative Industries: Contracts between Art and Commerce. Cambridge, Mass.: Harvard University Press.
- Towse, Ruth (2002). Book Review of Creative Industries. Journal of Political Economy, 110: 234-237.