半導体レーザー
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半導体レーザー(はんどうたいレーザー、semiconductor laserもしくはlaser diode)は、半導体の再結合発光を利用したレーザー。半導体の構成元素によって発振するレーザー光の波長が変わる。LDと省略表記されることも多い。 共振器構造や出力電力によっては冷却が必要なものもある。
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[編集] 動作原理
レーザーの発振には反転分布の形成が必要であるが、このための励起機構としては、半導体に電圧をかけることによる電子の注入が一般的に用いられる。基本的には、半導体のpn接合領域に電子と正孔を注入し、これらが再結合する時に光子の形でバンドギャップに相当するエネルギーを放出するのを利用する。量子井戸構造などを用いて電子と正孔を接合部の狭い領域に高密度に注入することで、誘導放出が継続的に生じ、放出された電磁波(光)は雪崩的に増加する。 誘導放出によって増幅された電磁波(光)を共振器でフィードバックすることで、電磁波(光)は発振し、レーザー光が得られる。
一般的には、共振器を半導体基板と平行に作り込み、へき開した側面から光が出射する構造である。このような構造の半導体レーザを一般的に端面発光レーザ(Edge Emitting Laser)という。一方、光が半導体基板と垂直に出射する構造のレーザを面発光レーザといい、中でも共振器を半導体基板と垂直に作り込んだ面発光レーザを垂直共振器面発光レーザという。垂直共振器面発光レーザは、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser、ビクセル)と呼ばれることが多い。
[編集] 歴史
- 1958年、半導体レーザーの原型を考案(日本)。
- 1962年、ホモ接合構造による半導体レーザーの低温パルス発振に成功(GE,IBM,MIT)。
- 1963年、ヘテロ接合によるレーザの低閾値化の提案(H. Kromer)。
- 1970年、AlGaAs/GaAsダブルヘテロ接合構造半導体レーザーによる室温連続(CW)発振に成功(Bell研究所:林厳雄,M. B. Panish,ソ連アカデミーZh. I. Alferov等によりほぼ同時期に達成された)。
- 1975年、単一縦モード発振に向け分布帰還型(DFB)レーザおよび分布反射型(DBR)レーザの提案。
- 1977年、VCSELの提案(伊賀健一)、1977年に最初のデバイス。
- 1982年、量子ドット(量子箱)レーザの提案(荒川,榊等による)。
- 1994年、ベル研究所でカスケードレーザーが発明される。
- 1996年、InGaN/GaN青色半導体レーザの室温パルス発振(日亜化学工業:中村修二)。
- 2000年、H. Kromer(米),Zh. I. Alferov(露)両博士にノーベル物理学賞の授与(半導体へテロ接合の提案と実証)。
[編集] 応用
- 他のレーザーと比べ、小型で消費電力が少なく、安価に製造出来るため、光ディスクドライブ、スキャナーやコピー機の信号読み取り・視力の矯正手術医療機器・通信機器などに利用されている。
- 高出力なものは1個の素子で5W以上、複数の素子を束ねたアレイとすることで数十Wもの出力を持つ[例]。こうした超高出力製品はレーザーマーカーやレーザー加工機などに応用される。
- レーザー光のもつ拡散しにくく遠距離まで届く性質から、測量機器やレーザーポインター(物を指し示すための目印として使用する)としても利用され、特に低出力赤色半導体レーザー素子の小型化・低電力化・低価格化と共に広く普及した。また長波長の半導体レーザ光で発振用の結晶をポンピングすることで短波長のレーザ光を得る手法(DPSS)により、緑色レーザー光を発する製品も市販されている。近年は窒化ガリウムによる半導体レーザーの実現により、直接青色や緑色のレーザー光を得ることも可能になっているが、高価格である。
- 長波長の半導体レーザ光から短波長のレーザ光を発生させる手法としては、高調波発生(SHG,THG,FHGなど)も用いられ、光ピックアップなどに応用されることがある。
- 近年はパソコン用のマウスにも応用されている。レーザーの可干渉性を利用し、微細な凹凸を敏感に検出する。