発光ダイオード
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発光ダイオード(はっこうダイオード)は、順方向に電圧を加えた際に発光する半導体素子のことである。LED (エルイーディー:Light Emitting Diode) とも呼ばれ、発光原理はエレクトロルミネセンス (EL) 効果を利用している。また、寿命も白熱電球に比べてかなり長い。
発光色は用いる材料によって異なり、紫外線領域から可視光域、赤外線領域で発光するものまで製造することができる。イリノイ大学のニック・ホロニアックによって1962年に最初に開発された。今日では様々な用途に使用され、今後蛍光灯や電球に置き換わる光源として期待されている。
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[編集] 原理
発光ダイオードは、半導体を用いたpn接合と呼ばれる構造で作られている。発光はこの中で電子の持つエネルギーを直接、光エネルギーに変換することで行われ、巨視的には熱や運動の介在を必要としない。 電極から半導体に注入された電子と正孔は異なったエネルギー帯(伝導帯と価電子帯)を流れ、PN接合部付近にて禁制帯を越えて再結合する。再結合の際にほぼ禁制帯幅(バンドギャップ)に相当するエネルギーが光子、すなわち光として放出される(詳しくはPN接合の項を参照)。
[編集] 電気的特性
他の一般的なダイオードと同様、極性を持っており、カソード(陰極)に対し、アノード(陽極)に正電圧を加えて使用する。電圧が低い間は電圧を上げていってもほとんど電流が増えず、発光もしない。ある電圧を越えると、電圧上昇に対する電流の増え方が急になり、電流量に応じて光を発するようになる。この電圧を順方向降下電圧というが、一般的なダイオードと比較して、発光ダイオードは順方向降下電圧が高い。発光色によって違うが、赤外では1.4V程度。赤色、橙色、黄色、緑色では、2.1V程度。白色、青色では、3.5V程度。紫外線LEDは最もvfが高く、4.5V~6V必要。
発光時の消費電流は表示灯用途では数mA~50mA程度だが、照明用途のものでは消費電力が数W単位の大電力の発光ダイオードも市販されており、駆動電流が1Aを越えるような製品もある。
逆方向に電圧を掛けた場合の耐電圧は、通常のシリコンダイオードより遙かに低く、通常はマイナス5V程度であり、これを越えると破壊してしまう。従って、整流用途には使用することはできない。
[編集] 光の特性
蛍光灯や白熱灯など他の多くの光源と異なり、不要な紫外線や赤外線を含まない光が簡単に得られる。このため紫外線に敏感な文化財や芸術作品や、熱照射を嫌う物の照明に用いられる。入力電圧に対する応答が速く、通信などにも利用されるほか、照明に用いた場合は点灯と同時に最大光量が得られる。
[編集] 物理的特性
- 構造が簡単なため、大量生産が可能で、安価(赤色LEDで1個5円~10円程度)。
- 電球のようにフィラメントを使わないため、小型で振動に強く、長寿命で故障の確率も低い。
- 製品によっては、直視すると目に悪影響を与える恐れがある。
[編集] 使用に必要な知識
- 電流の量に対応した光量を発し、最大定格電流を越えると寿命が短くなるか、素子が破損して使えなくなる。定電圧で駆動すると、素子のばらつきや素子温度による順方向降下電圧の変動によって電流も変動するので、基本的に電流量を管理した使い方が推奨される。発光ダイオードの順方向降下電圧より高い電圧を発生する直流電源を使用し、直列に抵抗器や定電流ダイオードを入れるなどして、電流を制限するような使い方がよく行われる。
- 極性があることから、アノードとカソードを間違えて印加した場合、発光しない。また逆方向耐電圧が低く、破壊されやすい。
- GaN系などの発光ダイオードは静電気やサージ電流に弱いので、取扱に注意が必要である。
- 製品によっては点灯回路が必要となる。
- 高出力品の殆どはヒートシンクなどの放熱策を必要とする。適切に放熱されない場合、寿命や性能を著しく損なったり、発煙・発火などの事故に繋がる可能性がある。
- LEDの頂点のレンズと実際に発光する部分が少しずれている。がほとんど誤差の範囲である。
[編集] 材料
放出された光の波長(色)は、pn接合を形成する素材のバンドギャップの大きさが関係する。発光ダイオードでは近赤外線や可視光、紫外線に至る波長に対応したバンドギャップを持つ半導体材料が用いられる。一般に発光ダイオードには発光再結合確率の高い直接遷移型の半導体が適する一方、一般的な半導体材料であるケイ素(シリコン)やゲルマニウムなど間接遷移型半導体では、電子と正孔が再結合するときに光は放出されにくい。しかし黄色や黄緑色に長く使われてきたGaAsP系やGaP系など、ドープした不純物の準位を介して強い発光を示す材料もあり、広く用いられている。
以下の素材を使用することにより、さまざまな色の発光ダイオードを作り出すことができる。
- アルミニウムガリウムヒ素 (AlGaAs) - 赤外線・赤
- ガリウムヒ素リン (GaAsP) - 赤・橙・黄
- インジウム窒化ガリウム (InGaN)/窒化ガリウム (GaN)/アルミニウム窒化ガリウム(AlGaN) - (橙・黄・)緑・青・紫・紫外
- リン化ガリウム (GaP) - 赤・黄・緑
- セレン化亜鉛 (ZnSe) - 緑・青
- アルミニウムインジウムガリウムリン (AlGaInP) - 橙・黄橙・黄・緑
- ダイヤモンド (C) - 紫外線
- 酸化亜鉛(ZnO) - 近紫外(開発中)
以下は基板として利用されている。
[編集] 青色発光ダイオード
青色発光ダイオードは、主に窒化ガリウム(GaN)を材料とする、青色の光を発する発光ダイオードである。青色LEDとも書かれる。日本の化学会社、日亜化学工業株式会社が大きなシェアを占めている。GaN系化合物を用いた発光ダイオードの開発と、それに続く青色半導体レーザーの実現により、紫外から純緑色の可視光短波長領域の半導体発光素子が広く実用化されるに至った。
[編集] 歴史
発光ダイオードは低電力で駆動することが出来る光源であるため、ディスプレイへの応用が期待されていた。しかし1980年代中頃までに、光の三原色に必要な赤色は実用化されていたものの、青色は実用的な高い輝度を出す製品は無かった。また、黄緑色は早くから実用化されていたが、純粋な緑色は青色と同じくGaN系半導体材料が用いられるため、緑色LEDの実用化は青色LEDの登場以降である。これらのことから、発光ダイオードによるRGBディスプレイの実現は困難であった。
純粋な青色発光の実現のため、セレン化亜鉛(ZnSe)系化合物や炭化珪素(SiC)を用いての研究が古くから行われ、ZnSe系による青緑~緑色発光ダイオードの開発に至った他、SiCの青色発光ダイオードは弱い発光強度ながら市販もされた。しかしその後GaN系化合物による発光ダイオードが急速に普及したため、現在ではこれらの材料系の技術は白色発光素子や基板などの用途に転用されている。
窒化ガリウムを用いた高輝度の青色LED開発に関しては日亜化学工業の中村修二が有名であるが、その基礎的部分は名古屋大学の赤崎勇教授(現・名城大学教授)により提唱されたものが多い。高輝度青色LEDの初の製品化は日亜化学工業であるが、それよりも前に豊田中央研究所と赤崎教授の協力を受けた豊田合成株式会社で実現していたこともあり、「誰が初めて作ったか」という問いに答えることは困難である。
2001年8月、中村修二(現・カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)が職務上で発明した(特許法上、職務発明という)「404特許」を巡って元勤務先の日亜化学工業を提訴し、同特許の原告への帰属権確認ないし譲渡対価を巡って係争した。企業と職務発明者との関係について議論が巻き起こる、という社会問題も引き起こすことになった。
2004年12月、東北大学金属材料研究所の川崎雅司教授(薄膜電子材料化学)らの研究チームは価格が安い酸化亜鉛を用いた青色発光ダイオードの開発に成功した(青色LEDの再発明といわれている)と、12月19日付の英科学誌ネイチャーマテリアルズ(電子版)に発表した。高コストの窒化ガリウムに取って代わる可能性もある。
[編集] 白色発光ダイオード
白色光は単色光ではなく、連続したスペクトルによって実現される色だが、発光ダイオードはある狭い範囲の波長のみを発光するため、本来の意味での白色光は実現できない。しかし、人間の眼には光の三原色の混合や補色関係にある2色の混合も白色に見える。三原色の混合も補色の混合も、いずれも本来の白色光とは異なる光だが、人間の目には白色のように見えるので、これを利用して白色に見える光を得る方法が幾つか考案されている。以下、本項で言う「白色」とは「人間の目に白色に見える」という意味である。
現在の主流方式は蛍光体を用いた方法であり、青色発光ダイオードの製造を行っている日亜化学は元々蛍光体の製造メーカーであるためこの方式を得意としている。豊田合成も同方式を用いている。発光部分のチップは青色発光ダイオードの物を用い、それをYAG系の蛍光体で覆うと、蛍光として得られた黄色と透過してきた青色が合わさり、白色の発光を得ることが出来る。しかも単一のチップとパッケージだけで白色発光が実現可能である。これが世界初の白色発光ダイオードとされている。世界的にインパクトを与えた青色発光ダイオードの発表の後だったため、この白色LED実現の報道は控えめであったが、業界内では大きなニュースであった。なお、蛍光体により元の光より長い波長の蛍光を得ることはできても逆はできないため、白色発光ダイオードの実現には青色発光ダイオードの存在が不可欠であった。この蛍光体方式の開発により、白色LEDの本格的な普及が始まった。
青色と黄色による白色光は赤色が少なく、これを照明に用いた場合は演色性が低くなる欠点がある。特に赤系統の色の再現性が悪くなる(赤い物体があまり赤く見えなくなる)。これは当時利用可能であった蛍光体材料が蛍光灯用の紫外線で励起されるものが主体で、青色で励起して緑や赤を発する適切な蛍光体が無かったことによる。最近では青色から黄色以外の色を発する蛍光体や、紫~紫外線を発光する発光ダイオードが開発されている。これにより、蛍光灯同様に多色を励起・発光させ、演色性を向上させた白色LEDも登場している(例)。
その他の白色発光の実現方法として、光の三原色である赤色・緑色・青色の発光ダイオードのチップを用いて一つの発光源として白色を得る方法もある(製品例)。原理自体は単純だが、3つのチップが必要で、見る角度に依存しない均一な発光色を得ることは難しい。また点灯回路も3系統必要である。蛍光体が発光ダイオードのチップからの発熱で劣化する問題を回避でき、また各LEDの光量を調節することで任意の色彩を得られるメリットがある。
発光ダイオードの特性である低い消費電力で大きな光エネルギーを得られるといった特性から、照明用として注目されている。現状では下記の理由により一定以上の大電力・高出力の製品の実現が難しい。
- 高出力を得るために大電力を投じると比例して発熱が増える。
- 発熱により高温になると発光効率が落ちる。
- 発光効率の低下を補うために更に大電力を投じるとますます発熱が増える悪循環に陥る。
- この悪循環が究極まで行き着くと熱で素子が破壊される。
- 破壊にまで至らなくとも効率が低下し寿命が短縮するため、発光ダイオードの利点が失われる。
- 製造に掛かる費用が白色電球や蛍光灯などに比べ高価である。
近年、製造技術の向上によって投入電力当たりの明るさが100lm/W(ルーメン/ワット)を超える製品の開発が各社から相次いで発表されているが、あくまでも小電力での話であり、例えば100ワットの電力を投じても10000ルーメンの光束が得られるわけではない。
しかし、今後上記の課題が克服されるにつれ、小電力・低出力の分野から順に既在の照明器具との置き換えが進んでいくと考えられている。実際、懐中電灯では置き換えが進みつつある。
[編集] 製造
発光ダイオードの基本はPN接合であるが、実際には発光効率を上げるためにダブルヘテロ接合構造や量子井戸接合構造などが用いられ、技術的には半導体レーザとの共通点が非常に多い。 製造法としては、基板の上に化学気相成長法によって、薄膜を積み重ねていく方式などが用いられる。
[編集] 製品の外観
最も単純なものは、発光部を内包する透明樹脂部分と、2本の端子からなる。多色のLEDを内蔵したものは、3本以上の端子を持つ。
- 砲弾型
- チップ型
- 多セグメント形
- 7セグメント形
- 14セグメント形
- マトリックス形
[編集] 応用
低消費電力、長寿命、小型であるため、数多くの電子機器に利用されている。特に、携帯電話のボタン照明などその特性をフルに活かして採用されているといえる。また、1つの素子で複数の色を出せるような構造のものもある。機器の動作モードによって色を変えることができるなど、機器の小型化に貢献している。
当初は輝度が小さかったため、電子機器の動作表示灯などの屋内用途に限られていたが、赤や緑の高輝度タイプのものが実用化されてからは、駅の行き先案内板など各種の屋外用ディスプレイにも使用されるようになった。さらに、高輝度の青色や白色の発光ダイオードが出回るようになってからは、競技場のスクリーンなど、フルカラーの大型ディスプレイや、電球の代わりとして懐中電灯や信号機、自動車のウィンカーやブレーキランプ、各種の照明にも利用されている。特にブレーキランプに使用した場合、電球よりブレーキペダルを踏んでから点灯するまでのタイムラグが短いため、安全性が向上する。また鉄道車両・バス等の方向表示にも幕の代わりに使われている。
また、冷陰極管が発する白色光をカラーフィルタで透過して得られる色(赤、緑、青)に比べ、発光ダイオードが放つ光は色純度が高い。そのため、液晶ディスプレイのバックライトを冷陰極管から発光ダイオードに置き換えることによって、色の再現範囲を大きく広げることができる。しかしLEDは点光源のため、広い面積を照射しようとするとムラを生じやすく、バックライト用としては携帯機器用の小型ディスプレイに用いられることが主だった。大型ディスプレイ用のLEDバックライトとしては、 2004年11月にソニーより液晶テレビが実用化された。
なお発光ダイオード自体の寿命は長いが、使用目的によっては樹脂の劣化による照度低下の進行が早くなることもあり、LED交換が必要となる程度まで照度が落ちた場合に、基板の交換も含む大規模なメンテナンスが必要とされるのが今後の課題となる。鉄道車両においては、駅での行き先表示としての役目を果たせば良いという考えから、走行中には一定の速度に達すると消灯するなど、きめ細かい制御で表示装置の長寿命化を図っているものも存在する。
模型用点灯光源としても、価格低減と共にかつて使用されていた小型電球の代替として使用されるようになってきた。かつては赤色灯の光源への使用が主だったが、白色LEDの開発により、室内の蛍光灯の白色光の再現が可能となり、前照灯の白熱灯光源への代用も行われた。さらに白熱灯については電球色LEDの開発により、実際の電球ではサイズや発熱の理由で無理だった所にも、実感的な発光色の再現が可能となった。特にNゲージを中心とした鉄道模型の場合、点灯機構を組み込むスペースが限られ、また部材がプラスティック樹脂などで作られているなど、電球の発熱の面でも不利な場合があったが。通常のレンズタイプからチップタイプへの移行により、構造の小型化により内装の実感的な再現に大きく寄与し、分野としての消費量は少ないながらも、実用照明器具への使用に先行して進んで採用され、コスト的には従来の電球使用より割高となっても、実感的な模型の実現からユーザーに歓迎された面がある。
[編集] 関連項目
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