占有権
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占有権(せんゆうけん)とは、物を事実上支配する状態(占有)そのものを法律要件として生ずる物権である。
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[編集] 概要
占有権は、物に対する事実上の支配を社会の秩序維持のために保護することを目的とし、占有を正当づける権利たる本権と区別され、仮の権利ともいわれる。
占有権の取得は自己のためにする意思をもって物を所持することによって生じ(民法180条)、物権的請求権は生じない。
占有者は適法な実質的権利をもつと推定され、占有訴権によって外部からの侵害を排除できる。
歴史的にはローマ法とゲルマン法の両方に由来しており、このことが占有権という概念を複雑なものにしている。
[編集] 占有権の種類
占有は、占有している人がどのような意思をもって物を所持しているかにより、自主占有と他主占有に大別される。
- 自主占有・・・所有の意思で物を所持する場合
- 他主占有・・・所有の意思がなく物を所持する場合(他人の物を預かったり、借りたりする場合)
所有権の取得時効は、所有の意思をもってする自主占有でなければ認められない。 (なお、占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ公然と占有をするものと推定される(186条1項)。
他主占有を自主占有に変更する(占有権限変更)ための要件については185条を参照。 相続が新権原として認められるかどうか、という論点で特に問題になる。
[編集] 他者の占有権の利用
占有権は代理人によって取得することができ(民法181条)、そのような占有形態を代理占有とよぶ。この場合、本人にとっては自主占有であるが、代理人にとっては他主占有にすぎない。
また、前の占有者の占有権を併せて主張することもできる(民法187条1項、ただし瑕疵も継承する。同条2項)
これらは時効取得の要件充足に役立つものである。
[編集] 占有権の取得
占有の移転を、引渡しという。民法第二編第二章には、引渡しの方法として、以下の方法が規定されている。
その他、相続や合併によって占有権を取得することもある(ただし民法185条の規制に服する)。
[編集] 占有権の効力
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ公然と占有をするものと推定される(第186条1項)。そして、占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定される(第188条)。善意であるならば果実取得権も有する(第189条1項)が、本権の訴えにおいて敗訴したときは訴え提起時から悪意の占有者とみなされ、果実の返還等をしなければならない(第190条)。(なお、占有者からの費用償還請求につき、第196条1項、2項)
占有者が占有物を取引行為によって譲渡した場合は即時取得(第192条)を参照。
[編集] 占有訴権
占有訴権(せんゆうそけん)とは、占有物に侵害があった場合、占有者が占有権の効力としてこれを排除することを請求しうる権利のことをいう。以下の3つの訴えがある。所有権の効力として認められている物権的請求権の内容にそれぞれ対応する。
- 占有保持の訴え(第198条)
- 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
- 占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後1年以内に提起しなければならない。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から1年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない(第201条1項)。
- 占有保全の訴え(第199条)
- 占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
- 占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項ただし書の規定を準用する(第201条2項)。
- 占有回収の訴え(第200条)
- 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
- 占有回収の訴えは、占有を奪われた時から1年以内に提起しなければならない(民法201条3項)。
本権の訴えとの関係(民法202条)
- 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。
- 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない
なお、占有回収の訴えの提起は占有権の消滅の阻却事由となる(第203条ただし書)。
[編集] 占有権の消滅
[編集] 準占有
自己のためにする意思をもって財産権の行使をする場合にも、占有権の規定が準用される(第205条)。