危機に瀕する言語
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危機に瀕する言語(ききにひんするげんご)は、危機言語とも言われ、話者がいなくなることで消滅の危機にある言語である。
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[編集] 概要
現在、世界には6,000から7,000の言語があるとされる。その内、20から50%は、22世紀の初めまで、つまり約100年以内に完全に話し手を失い、消滅すると予想される言語である。また、40から75%はその後、しだいに消滅に向かう危機に瀕した言語とされる。
1990年代以降、欧米の学界では危機言語研究に力が入れられるようになったが、その言語を記述し、記録を残す研究はまだまだ不十分である。言語、文化の多様性が失われる趨勢にある昨今において研究が急務であり、また重要な分野とされている。言語を研究する言語学者にとってもその言語自体が失われる事態にある。
また、言語は文化であり、全ての文化研究者にとっても無視できない問題とも言われているが、マイノリティ、少数民族への蔑視も根強く、危機に瀕した言語研究への意識も高いとは言えない状態にある。これはエスペラント語などの国際共通語運動が敗北したことと密接に繋がっている。
日本国内で言えば、アイヌ語、諸方言、琉球語など、より広くには在日コリアンなどを含む在日外国人の第一世代で、日本語以外の言語を母語とする話者の言葉も含まれる。近年、テレビなどのマスコミの発達に伴う、急速な標準語化により、一部の方言が萎縮または消滅する傾向があり、これらもまた危機に瀕する言語といえよう。ロシアではソビエト時代に少数民族の言語の使用が厳しく制限されため、相当数の言語が死滅したと考えられている。アイヌ語の話者もロシア国内にはすでにいないとされる。
[編集] 関連文献
- 青木晴夫 (1984)『新版 滅びゆくことばを追って インディアン文化への挽歌』(三省堂選書111)三省堂
- C・アジェージュ;糟谷啓介訳 (2004)『絶滅していく言語を救うために ことばの死とその再生』ISBN 456002443X
- 岩波書店編集部編 (2004)『フィールドワークは楽しい』(岩波ジュニア新書474)岩波書店
- 大角翠編著 (2003)『少数言語をめぐる10の旅 フィールドワークの最前線から』三省堂
- 梶茂樹 (1993)『ことばを訪ねて アフリカをフィールドワークする』大修館書店
- 金子亨 (1999)『先住民族言語のために』草風館
- 呉人恵 (2003)『危機言語を救え ツンドラで滅びゆく言語と向き合う』大修館書店
- D・クリスタル;斎藤兆史・三谷裕美訳 (2004)『消滅する言語 人類の知的遺産をいかに守るか』(中公新書)
- T・クローバー;行方昭夫訳 (2003)『イシ 北米最後の野生インディアン』(岩波現代文庫 社会85)岩波書店
- 真田信治 (2001)『方言は絶滅するのか 自分のことばを失った日本人』PHP研究所
- 津曲敏郎編著 (2003)『北のことばフィールド・ノート―18の言語と文化』北海道大学図書刊行会
- R・ディクソン;大角翠訳 (2001)『言語の興亡』(岩波新書)岩波書店
- 中川裕 (1995)『ことばを訪ねて アイヌ語をフィールドワークする』大修館書店
- ダニエル・ネトル,スザンヌ・ロメイン、島村宣男訳『消えゆく言語たち:失われることば,失われる世界』ISBN 4788507633
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- Nearly extinct languages (英語)
- 北海道大学大学北方文化論講座民族言語学研究室(北方諸民族の言語を研究)
- 千葉大学文学部ユーラシア言語文化論講座(アイヌ語やニヴフ語などを含む北方諸民族の言語や文化を研究)
- 伊波普猷文庫目録(「沖縄学の父」伊波普猷の学術資料 琉球大学図書館提供)
- 琉球語音声データベース(琉球語諸方言の辞典と音声データベース 琉球大学提供)
- 仲宗根政善言語資料(琉球方言研究の父・仲宗根政善の言語資料 琉球大学提供)
- 東京大学言語動態学教室(広く危機言語などの研究を行い、充実したデータベースを有する)
- 東京大学文学部言語学教室(日本の言語学教育の始まったところであり、研究対象言語も多岐にわたる)
- 日本語で読む「危機言語」
- 絶滅に瀕した言語(Endangered Language)の継承と生物多様性確保の共通点
[編集] 関連組織等
- 日本言語学会
- 危機言語小委員会
- Terralingua(生物の多様性と言語の多様性を関連づけて活動するNGO)