満州語
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満州語 ᠮᠠᠨᠵᡠ manju |
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---|---|
話される国 | 中国 |
地域 | 東アジア |
話者数 | 20~70人 |
順位 | 100位以下 |
言語系統 | アルタイ語族 ツングース諸語 |
公的地位 | |
公用語 | なし |
統制機関 | なし |
言語コード | |
ISO 639-1 | なし |
ISO 639-2 | mnc |
ISO/DIS 639-3 | MNC |
SIL |
満州語の話者は満州族の間でも現在では極めて少なく、消滅の危機に瀕する言語の一つである。 [1]
満州語は、言語学的にはツングース諸語に分類される膠着語である。アルタイ語族があるとすればツングース語派に分類されることになる。 満州語の表記は、モンゴル文字を改良して作られた満州文字を使う。
目次 |
[編集] 音韻
以下に満洲文語の音韻を概観する(ローマ字はメレンドルフ方式による満洲文字の翻字である)。必要に応じて国際音声記号による補足説明を加える。
[編集] 母音
単母音には以下の6つがある。
a,e,i,o,u,ū
eは[e]ではなく[ə]のような音、uは円唇[u]である。ūは通常g,k,hの直後にのみ現れ、[ʊ]のような音であったと見られる。二重母音はai,ei,oi,ui,io,ooが認められる(ooはoの長母音とも解釈される)。男性(陽性)母音・女性(陰性)母音・中性母音による母音調和が存在するが厳格ではない。
男性母音 | a,o,ū |
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女性母音 | e |
中性母音 | i,u |
[編集] 子音
唇音 | 歯茎音 | 硬口蓋音 | 軟口蓋音 | |
---|---|---|---|---|
閉鎖音・破擦音 | p,b | t,d | c,j | k,g |
鼻音 | m | n | ng | |
摩擦音 | f | s | š | h |
震え音 | r | |||
側面音 | l | |||
接近音(半母音) | w | y |
- p―bなど無声・有声の対立は、有気・無気([pʰ]―[p]など)の対立だったという見方もある。
- sは[s]であるがiの直前でのみ[ʃ]であった。
- c,jは硬口蓋破擦音[ʧ,ʤ]であった。
- šは[ʃ]であるがiの直前でのみ[ʂ]であった。šiは固有の満洲語にはない。
- k,g,hは男性母音a,o,ūの直前では軟口蓋音[k,ɡ,x]、女性母音・中性母音e,u,iの直前では口蓋垂音[q,ɢ,χ]であったと見られる。
- ngはnとgの2音ではなく軟口蓋鼻音[ŋ]を表す。
[編集] 音素配列上の特徴
音素の配列において以下のような特徴がある。
- wの直後にはa,e以外の母音が来ない。
- 借用語を除いてt,dの直後にはiが来ない。
- yの直後には母音iが来ない。
- ūは通常k,g,hの直後にのみ来うる。
- rは語頭に立たない。
- ngは音節頭に立たない。また語中のngはk,gの直前にのみ現れる。
- 音節末に立ちうる子音はb,m,t,n,r,l,s,k,ngである。
- 語末に来うる子音はnのみである(ただし外来語はこの限りでない)。
- 通常、音節頭あるいは音節末に子音が連続しない(ただし、音節末子音と音節頭子音が連続することはありうる)。
[編集] 文法
満州語は類型論的に膠着語に分類され、語順は日本語と同じく「主語―補語―述語(SOV)」の順である。修飾語は被修飾語の前に置かれる。
si | manju bithe | tacimbi. | (汝は満洲の書を学ぶ) | ||||
主語 | 修飾語 被修飾語 補 語 |
述語 |
また、関係代名詞がなく代わりに動詞が連体形を取って名詞を修飾するのも日本語と同様である。
soktoho | niyalma | (酔った人) | |||
連体形 | 名詞 |
- 体言の曲用は語幹の後ろに膠着的な語尾(助詞)が付くことによって表される。体言の格は主格(語尾なし)・属格(-i/-ni)・対格(-be)・与位格(-de)・具格(-i/-ni)・奪格(-ci)・沿格(-deri)がある。終格(-tala/-tele/-tolo)を認める場合もある。
- 人称代名詞には1人称単数 bi、1人称複数 be および muse、2人称単数 si、2人称複数 suwe、3人称単数 i、3人称複数 ce がある。1人称複数 be は聞き手を除外した形、muse は聞き手を含めた形である。
- 指示詞は近称と遠称の2系列からなる。ere(これ)― tere(それ)、uba(ここ)― tuba(そこ)、enteke(こんな)― tenteke(そんな)、uttu(このように)― tuttu(そのように)などがある。
- 疑問詞には we(誰)、ya(どれ、誰)、ai(何)、aiba(どこ)、antaka(どんな)、ainu(なぜ)、atanggi(いつ)、adarame(どのように)などがある。
- 満州語の形容詞は語形変化をしない不変化詞である。
- 動詞は終止形・連体形・副動詞形(接続形)がある。連体形は文末に来て終止形として用いられることが少なくない。
- 後置詞は、ある種の単語の後ろに来てさまざまな文法的意味を付け加える付属語である。大きく分けて、体言の格形の後ろに来て格関係を表すもの、用言の後ろに来て副動詞的に用いられるもの、文末についてさまざまなニュアンスを表すもの(日本語の終助詞に似る)がある。
[編集] 語彙
語彙目録は「満州語の語彙集」を参照せよ。
[編集] 満州語研究機関・研究家
[編集] 注釈
- ^ 清朝最後の皇帝であった愛新覚羅溥儀も満州語を全く使えず、伊克担(イクタ)という教師から満州語を学んでいた。なお、満州国では漢語(いわゆる中国語)を「満洲語」と呼称したが、当然、本来の満州語とは関係がない。