合名会社
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合名会社(ごうめいがいしゃ)とは、無限責任社員のみが出資している会社のこと。現在の日本法においては会社法中の持分会社の一類型とされている。なお、合名会社の商号中には、「合名会社」という文字を用いなければならない(会社法6条、旧商法17条)。合資会社と混同しないため、「(名)」と略される。
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[編集] 歴史
合名会社は14世紀のヨーロッパにおける陸上交易の発達に伴って生まれたsocietasをその原点とする。societasはヨーロッパ各地に発展した市場を結ぶために機能資本家同士が結合したものである。これはそれまでの企業形態とは異なり、企業としての継続性をもっていた。後にこの継続性と有限責任とが結合することで株式会社の端緒となる。なお、船舶共有(商法693条)や民法上の組合も合名会社と同源である。
[編集] 組織
合名会社は機能資本家(出資をし、かつ経営にも参加する資本家)が結合する企業形態である。基本的な組織構造は民法上の組合とほぼ同じで、組合に関する規定が準用される。ただし、法人格を与えられることにより、団体そのものが取引の主体となることができる点が異なる。
[編集] 会社の運営
社員は原則として業務執行権を有する(会社法590条1項)。これは合名会社の社員としての権利でもあり、義務でもある。また会社の基本方針は、組合と同じく、原則として総社員の過半数によって決する(会社法590条2項)。
無限責任とは有限責任に対する概念で、会社が負った債務を会社財産では弁済しきれなかった場合、社員が自己の個人財産からその債務の弁済をしなければならないことを言う。これは保証契約に似ており、いわば、会社が主たる債務者で、無限責任社員は保証人である。
[編集] 退社及び持分の譲渡
合名会社においては社員の個性が重視されるので、全体の意にそぐわない者が経営に参加する可能性を極力排除している。まず、株式会社の株式のように持分を自由に譲渡することはできず、譲渡するには全社員の承諾(同意)が必要である(会社法585条1項)。また、社員が死亡した場合にも社員としての地位が相続されることはなく(法定退社、会社法607条1項3号)、相続人には持分の払戻が行われる。
しかし持分の譲渡を制限すれば、そのぶん投下資本の回収が困難になる。そこで、株式会社では許されない退社制度を認め、会社から出資の払戻を受けることができるとしている。これは合名会社の社員が無限責任を負う社員のみで構成されている人的会社であるため、たとえ払戻によって会社財産が減少しても社員の個人資産を会社債務の引き当てにすることができるから可能なことである。有限責任原理のために会社の債務の引き当てが会社財産のみである物的会社(株式会社と有限会社)では会社財産が減少すると会社債権者を害することになるから、退社(出資の払戻)は認められていない。また、強制的に社員を退社させたり(会社法609条)、業務権限を剥奪することもできる。
旧商法においては退社等によって社員が一人となった場合には合名会社は解散するとされていた。つまり、株式会社のように株主(社員)が一人しかいない「一人会社」は認められず、社団性が強く要求されていたのである。なお、会社法においては、持分会社一般の解散事由は「社員が欠けたこと」とされており(会社法641条4号)、合名会社の社団性はやや後退したといえる。会社法制定後のその他の変更点としては法人が社員となることが許容されたことがあげられる(会社法598条等)。
[編集] 合名会社の特徴
合名会社は以上のような組織構造であるから、お互いの信頼関係を基礎とした同族や仲間内での小規模な企業経営に向いている。一方で、社員の信頼関係が崩れれば組織全体が崩れてしまう危険性がある。
日本では、地域的には沖縄県で多く見られ、業種的には酒造会社に多く見られる。また、戦前の三井財閥のように、中核となる持株会社を合名会社としていた例もあり、必ずしも大会社に不向きとは言えない。
[編集] 準・合名会社
特別法により設立が認められる法人のうち、いわゆる「士」(さむらい)資格をもつ者のみが社員となって設立されることが強制されるもの(たとえば弁護士法人、監査法人、税理士法人など)は、その公益性の高さから、債権者保護のため、根拠法令において合名会社の規定が多く準用されている。