埴輪
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埴輪(はにわ)とは、日本の古墳時代に特有の素焼の焼き物。古墳上に並べ立てられた。日本各地の古墳に分布している。大きく円筒埴輪と形象埴輪の2種類に区分される。埴輪からは、古墳時代当時の衣服・髪型・武具・農具・建築様式などの復元が可能であり、貴重な史料でもある。
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[編集] 起源

埴輪の起源は、弥生時代後期の吉備地方の首長墓に見られる特殊器台形土器および特殊壺形土器である。器台とは壺を載せる台のことであるが、特殊器台形土器は高さ1m程度の非常に大型の土器で、有段の口縁部に円筒形の胴部を持ち、スカート状に広がる裾部の下が脚部となる。胴部の表面には弧帯文と呼ばれる特徴的な文様を持つものが多い。特殊壺形土器も通常の壺よりも大型で、有段の口縁部に長い頸部で、胴部には突帯を持つ。特殊器台形土器の上に特殊壺形土器を載せて使用していた。「特殊」と冠せらるのは、その大きさや装飾性のみならず、基本的には墳墓遺跡からしか出土しないためであり、吉備の首長の葬送祭祀に使用されたものと考えられている。吉備地方以外では出雲地方などに数例見られるのみである。
3世紀中葉~後葉になると、畿内に出現した前方後円墳に特殊器台形土器・特殊壺形土器が用いられている例が確認され、それとほぼ時を同じくして裾部と脚部が消失した特殊器台形埴輪およびそれとセットをなす特殊壺形埴輪が新たに出現している。この特殊器台形埴輪・特殊壺形埴輪の分布の中心は吉備から畿内へと移動しており、その出現に際しては畿内側の役割が大きかったものと推察されている。特殊壺形埴輪は当初特殊壺形土器の形態を受け継いでいたが、畿内の葬送祭祀に用いられていたと考えられる二重口縁壺からの影響を徐々に受け、二重口縁壺形土器をモデルとした壺形埴輪と置き換わる。こうして成立した特殊器台形埴輪と壺形埴輪の組み合わせが、器台のみを表した円筒埴輪と器台の上に壺を載せた状態を表した朝顔形埴輪の祖形である。特殊器台形埴輪から円筒埴輪への変化は、有段口縁と胴部文様の消失が指標とされる。この変化の背景について、祭祀用土器としての役割の消失に重きを見る説と、大量に製作する必要からの簡略化に重きを見る説がある。
なお、前方後円墳の出現は、ヤマト王権の成立を表すと考えられており、前方後円墳に特殊器台形土器・特殊壺形土器が採用されていることは、吉備地方の首長がヤマト王権の成立に深く参画したことの現れだとされている。
日本書紀垂仁紀には、野見宿禰(のみのすくね)が日葉酢媛命の陵墓へ殉死者を埋める代わりに土で作った人馬を立てることを提案したとあり、これを埴輪の起源とする。しかし、考古学的に上記のような変遷過程が明らかとなっており、この説話は否定されている。
[編集] 変遷
古墳時代前期初頭(3世紀中葉~後葉)には、円筒形または壺形・朝顔形埴輪などの円筒埴輪しか見られなかったが、前期前葉(4世紀前葉)には、家形埴輪のほか、蓋(きぬがさ)形埴輪や盾形埴輪をはじめとする器財埴輪、鶏形埴輪などの形象埴輪が現れた。さらに、古墳時代中期中葉(5世紀中ごろ)からは、巫女などの人物埴輪や馬や犬などの動物埴輪が登場した。畿内では古墳時代後期(6世紀中ごろ)に前方後円墳が衰退するとともに、埴輪も次第に姿を消していったが、なおも前方後円墳を盛んに築造した関東地方においては埴輪も引き続き盛んに作られ続けた。
[編集] 意義
元々、吉備地方に発生した特殊器台形土器・特殊壺形土器は、墳墓上で行われた葬送儀礼に用いられものであるが、古墳に継承された円筒埴輪は、墳丘や重要な区画を囲い込むというその樹立方法からして、聖域を区画するという役割を有していたと考えられる。
家形埴輪については、死者の霊が生活するための依代(よりしろ)という説と死者が生前に居住していた居館を表したものという説がある。古墳の埋葬施設の真上やその周辺の墳丘上に置かれる例が多い。
器財埴輪では、蓋が高貴な身分を表象するものであることから、蓋形埴輪も同様な役割と考えられているほか、盾や甲冑などの武具や武器形のものは、その防御や攻撃といった役割から、悪霊や災いの侵入を防ぐ役割を持っていると考えられている。
人物埴輪や動物埴輪などは、行列や群像で並べられており、葬送儀礼を表現したとする説、生前の祭政の様子を再現したとする説などが唱えられている。このような埴輪の変遷は、古墳時代の祭祀観・生死観を反映しているとする見方もある。
[編集] 埴輪の例
- 踊る埴輪(埼玉県大里郡江南町野原古墳出土)東京国立博物館所蔵
- 力士埴輪
- 武人埴輪