建造環境
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空間の実質的包摂の結果として生産された空間編成のうち、可視的な地物として地表に刻み付けられたものは、その全体が空間システムを構成する。このような総体を、建造環境(けんぞうかんきょう、built environment)という。
ある一つの都市空間は、企業や官庁の建物、交通路、住宅、公園、上下水道施設、電力供給設備などが一体をなしている。これらがまとまって機能している都市の総体は、典型的な建造環境の例である。
建造環境は、システムとして構成されていなければ、十分に機能しない。建物だけあって交通路が存在しない都市は、存立し得ない。このことから、建造環境には一括性という性格があり、そのシステム全体の創出には巨額の投資を要求され、完成には長い時間がかかることになる。 しかし、市場経済のもとでは、短期的な利潤追求が主要な企業の目標となるので、見えざる手によっている限り、適切な都市建造環境は創出され難い。
そこで、政府が介入し、社会に存在する余剰を公債発行や財政投融資を通じて吸収して公共事業を行い、それによって建造環境を創出するという資本の第二次循環(the secondary circuit of capital)が作り出される。これをスムースに実行するためには、都市自治体や政府において、建造環境創出のための投資という点で多数派の合意が形成されていなければならない。
ここで、建造環境のもつ超階級性が重要となる。建造環境は、企業が固定資本として充用し、また市民が消費元本としても充用する。たとえば、高速道路は、企業の物流トラックも、レジャーに行く家族の自家用車も利用する。建造環境の整備は、階級や階層のちがいを越えて、すべての人々の利益になることが多い。このため、建造環境の生産をめぐる階級同盟(class alliance)が、各地で構築される。戦前は、全国各地で、鉄道誘致のため階級同盟が構築され、それによって日本の鉄道ネットワークは稠密化した。戦後についてみると田中角栄の日本列島改造論も、このような階級同盟構築のこころみであった。このようにして作られた階級同盟が、地域住民と呼ばれるものの、社会科学的実態である。この取りまとめに威力を発揮する人物が、カリスマ的に住民圧倒的多数の支持を得ることもある。戦前の大阪市の關一市長は、その一例である。