意思表示
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意思表示(いしひょうじ)とは、社会通念上一定の法律効果の発生を意図しているとみられる意思の表示行為をいう。
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[編集] 意思表示理論
伝統的な意思表示理論によれば、意思表示は、動機により嚮導された効果意思が、表示意思に基づく表示行為により表示される過程であると分析される。このうち、いずれの要素を重視するかは、立場によって異なる。この分析はフリードリヒ・カール・フォン・サヴィニーが提唱した理論に由来するものであるが、このような分析については批判もある。
[編集] 意思主義と表示主義
- 意思主義というのは、表意者の保護を重視する立場で、効果意思・表示意思の双方が意思表示にとって不可欠であるとする。
- 表示主義というのは、取引の安全を重視する立場で、効果意思・表示意思のいずれも不可欠ではないと考える立場である。
もっとも、表意者を保護するか取引の安全を重視するかは、現実的には後述のとおり問題となる類型に応じて立法的に解決している。
[編集] 動機
表示行為に対応する効果意思・表示意思が存在するが、動機について他人の違法行為が介在する(詐欺、強迫)と、意思表示は瑕疵を帯びる。これを「瑕疵ある意思表示」といい、瑕疵ある意思表示は取り消しうる(民法第96条)。
表示行為に対応する効果意思・表示意思が存在するが、動機について誤解があり、それにより効果意思が導かれた場合には、動機の錯誤となる。動機の錯誤をいかに扱うかについては学説に対立がある。
[編集] 効果意思
表示行為に対応する効果意思が存在しない場合には、「意思の欠缺」と呼ばれる。意思の欠缺した意思表示は、意思主義の立場からすれば、無効となるべきものであり、表示主義の立場からすれば、有効となるべきものである。日本民法は、折衷的な規定を置いている。
- 表示行為に対応する表示意思はあるが、効果意思がない場合は、通謀虚偽表示と心裡留保に分かれる。
- 表示行為と表示意思ないし効果意思との間に齟齬があり、結果として表示行為に対応する効果意思が存在しない場合が、「表示行為の錯誤」である。日本民法が規定する錯誤は原則として表示行為の錯誤を指すと解されているが、判例は一定程度で動機の錯誤に対する適用も認める。民法は錯誤について意思主義を採用し、錯誤による意思表示は無効となる(第95条本文)。但し、表意者に重過失がある場合には、表意者から無効を主張することはできない(第95条但書)。
- 電子商取引におけるボタンの押し間違いも、表示行為の錯誤であるが、これについては、平成13年12月25日に施行された「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」により、承諾の意思表示の表示行為の錯誤に重過失があっても、表示行為に対応する効果意思がなかった場合(同法3条1号2号の場合)には、原則(民法第95条本文)どおり無効となる(電子消費者特例法3条本文)。但し、事業者が承諾の意思表示を確認する措置を講じた場合、又は、消費者から事業者に対してそのような措置を講ずる必要はないという意思の表明があった場合には、表意者に重過失があれば表意者から無効を主張することはできない(電子消費者特例法3条但書)。
[編集] 表示意思
表示意思が意思表示の要素として必要か否かは、議論がある。
[編集] 表示行為
表示行為は、時系列的には最後になるが、思考の順番としては最初に来る。つまり、表示行為がない限りは意思表示は存在し得ないから、表示行為を基準として他の要素との関係を検討することになるのである。
[編集] 参考
- 意思表示であるもの
- 意思表示でないもの(準法律行為)
- 意思の通知(催告、弁済の受領拒絶)
- 観念の通知(債権譲渡の通知、債務の承認)
- 黙示の意思表示
- 公示による意思表示