成形炸薬弾
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成形炸薬弾(せいけいさくやくだん)は、モンロー/ノイマン効果を利用する砲弾のこと。対戦車榴弾(たいせんしゃりゅうだん、HEAT (High Explosive Anti-Tank))とも呼ばれる。また、成型炸薬弾という表記も見られる。
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[編集] 概要
![成形炸薬弾の模式図(一例)。(1) は風帽で空気抵抗を減らし射程を伸ばす。ただし滑腔砲用はスパイクノーズタイプが多い。(2) はプローブで中空の内部で目標との最適距離(スタンドオフ)で起爆するように長さが決められている。(3) は金属の内張り(ライナー)でメタルジェットを発生させる。(4) は起爆薬で炸薬の後部に置かれ炸薬を後部から起爆する(PIBD方式と呼ばれる)。(5) は円錐形のくぼみを持つ炸薬でモンロー効果を発生させる。(6) は衝撃信管で着弾と同時に起爆薬を起爆させる。](../../../upload/shared/thumb/0/0c/CumulativeHead.png/350px-CumulativeHead.png)
成形炸薬弾(Shaped Charge)とは、主に対装甲兵器としてモンロー効果を用いた弾薬である。このため対戦車用として特に(HEAT:High Explosive Anti Tank)と呼ばれる。 円柱状の炸薬の片側を漏斗状にへこませ、そこに同様な形状に金属板(ライナー)を装着し、へこませた側と反対側から起爆させることで発生した爆轟波によりライナーは動的超高圧になり崩壊する。金属のような固体でもユゴニオ弾性限界を超える圧力に曝される場合、液体に近似した挙動を示す。この結果、爆轟波の進行に伴い漏斗中心に発生したスタグネーションポイント(圧力凝集点)によって底部から先端まで絞りだされるように液体金属の超高速噴流(メタルジェット)が起こる。これがモンロー効果である。爆轟波が進行していくと生成されたジェット自体は速度勾配によって細長く伸び、やがてブレークアップする。最も良く用いられる、ライナーを銅としたモデルの場合、一般に約7~8km/sの高速のメタルジェットとなり戦車などの装甲を侵徹する。その原理は、接触したメタルジェットの運動エネルギーで今度は装甲との相互作用面がユゴニオ弾性限界を超える超高圧状態となり、装甲材自体の機械的強度は無視され、ほぼ液体として振舞う中、ジェットが突き進むためである。これは、装甲侵徹技術としてAPFSDS登場以前の運動エネルギー弾とは異なった威力を示している。進行するジェットはやがて運動エネルギーが減少し、フラグメンテーションを起こし侵徹能力を失う。最後にジェットに成りきれなかったライナーがスラグとして飛んで行くが、既に実用上の効果は失った残滓である。このことから、ジェットが装甲を貫徹して内部に侵入してもジェットの軸線周囲しか加害できない。内部を十分に破壊するためには、ジェットの侵徹口から、爆風や弾片等が噴き込む事が必要である。弾体が高速で旋転していると、その干渉でメタルジェットの収束が阻害され容易にフラグメンテーションするため、滑腔砲や低初速のライフル砲からの発射が望ましいが、現在ではスリップリングの取り付けにより数rpm程度の回転数に押さえることで、高初速大口径のライフル砲から発射された場合でも効果を大きく減ずることはない。
HEATは現在のもので漏斗の直径の約5~8倍の(理論的には約12倍)、第二次世界大戦期のもので2倍程度の均質圧延装甲(RHA:Rolled Homogeneous Armor 標準的な防弾鋼板)を貫通することが可能である。着弾時の速度によらず貫通力が一定なため対戦車ミサイルなどに用いられている。なお、侵徹力を増すためには、弾頭を大型(特に口径を)にする以外に、漏斗形状やライナーの加工精度の改善の他、効率良くメタルジェットが生成するよう、球面爆轟波を平面波とするためイナート物質によるウェーブシェーパーを組みこんだり、爆速の異なる2種類の炸薬を組み合わせた爆轟レンズ構造を用いたりしている。将来的にはより高爆速の炸薬を用いたりする他、ライナーをより高密度高延性な材料に変更するなども研究されている。爆風が入る前に侵徹口を塞ぐ恐れのあるスラグ排除のためインヒビターを装着することもある。
多種な兵器に搭載できる長所を持つがモンロー効果の有効距離がわずか数十センチ程度であり、また、その信管作動の関係で装甲の数十センチ手前に鎖のカーテンをつるしたり、柵状の檻のようなのを装着しておくだけで不発無効化や威力の大幅軽減ができてしまう弱点がある。しかし、最近では二重の弾頭を備えたタイプや、大抵の兵器の弱点でもある上部を狙ったホップアップするものなどが採用され始めているほか、中にはAPFSDSを応用した射程強化型も登場している(ただし、多目的砲弾としてのソフトキルが主な使用目的)。
上記のように成形炸薬弾は、動的超高圧により塑性流動を生じさせることが主たる効果であり、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)の侵徹原理にも繋がるものだが、現代においてHEATは対MBT用の砲弾として戦車に搭載されることはほとんどなく、対MBT用の砲弾としてはAPFSDSが搭載されることが多い。その理由としてHEATは数値上(RHA換算等)ではAPFSDSと同程度以上の威力を示すが、現在の戦車に多く使われる複合装甲に対してはAPFSDSに比べ有効ではないことが挙げられる。これはメタルジェットがAPFSDSのペネトレーターに比べ質量が著しく小さく、固体で無いことにより、複合装甲の衝撃インピーダンス勾配の影響を受け易いためである。
さらに成形炸薬技術は軍用のみならず、爆発圧着加工による板材の面接合や鋼材の切断にも民間で用いられ、軌道上のデブリやメテオロイドの衝突実験の際、アルミのライナーによる10km/sものメタルジェットを使われることもある。
[編集] 多目的対戦車榴弾
近年の戦車では多目的対戦車榴弾 (HEAT-MP: High Explosive Anti-Tank Multi-Purpose) が装備されていることが多い。これは、弾体のメタルジェット形成を阻害しない個所に鋼球を貼付し、爆発時に周囲に飛散するようにしたもので、榴弾の代用としても使用される。ただ、同口径の榴弾と比較して威力で劣り(90式戦車の44口径120mm滑腔砲Rh120のHEAT-MPと74式戦車の51口径105mmライフル砲L7A1の榴弾が同程度)、砲の初速が高いため、危害範囲が円形ではなく漏斗状になるため通常の榴弾として運用しづらい側面がある。
[編集] 魚雷
アメリカのMk50や日本の97式魚雷などの最新型魚雷には、成形炸薬弾頭が用いられている。これは、潜水艦の耐圧船殻の強化・二重化(複殻式潜水艦)に対抗するほか、魚雷の誘導精度の向上により船体への直撃が見込めるようになったためである。
[編集] タンデム弾頭
近年の砲弾やミサイルの弾頭では、成型炸薬を二段構えにして、大型のメイン弾頭の直前に小型の弾頭を配置したものがある。これは、成型炸薬弾防御のための爆発反応装甲に対抗するためである。小型のサブ弾頭があらかじめ爆発反応装甲を起爆させ、その後にメイン弾頭が突入することによって装甲を打ち破るものである。ロシアの戦車に搭載されている125mm戦車砲用の砲弾には二段ではなく三段構えになっているものも存在する。
[編集] よくある誤解
よく、弾体その物が木っ端微塵になるので榴弾として利用できるという事が言われるが、弾体の強度がライナーよりある為に爆発エネルギーのほとんどは前方へ指向される。 実弾の炸裂動画などで爆発した様に見えるのは、メタルジェットなどの吹き戻しが大量に散っているためである。(対人などには殺傷力あり) ただし、有効な破片効果と行かないまでも弾体自体も吹っ飛ぶ事から、それによる榴弾効果は否定できない。
[編集] 関連項目
- 成形炸薬弾を使用する兵器
- 対戦車ミサイル
- 無反動砲
- 対戦車ロケット弾
- 対戦車擲弾
- バズーカ
- パンツァーシュレック
- パンツァーファウスト
- パンツァーファウスト3
- PIAT
- RPG-7
- RPG-29
- M72 LAW