放流 (ダム)
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ダムにおける放流(ほうりゅう)とは、ダム貯水池内に貯留された流水などを下流に流す操作である。ダムの機能に応じて様々な目的で放流が行われる。放水(ほうすい)ともいう。
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[編集] 放流の目的
[編集] 洪水調節
治水を目的としたダムにおいては、大雨時などの異常出水による流入をダムで受け止め、流入量以下の放流を行うことで下流への洪水を防ぐことができる。詳細は洪水調節の項目を参照。
- 事前放流
- 洪水調節を行う前に、洪水調節容量以外の利水容量の一部を放流し、生じた容量を洪水調節容量に転化させることがある。これは事前放流と呼ばれ、洪水調節容量を増加させることで洪水調節の効果を向上させることが可能となる。
- ただし、事前放流は本来利水目的である貯水容量を利水以外の目的で減ずる行為であり、放流量に見合った流入が得られない場合は利水の効用を無駄に落とすことになる。また、事前放流により洪水調節容量を確保するには一定の時間を要するとともに、この時間は通常よりも多い量の放流が必要となり、一時的に下流域への治水効果を減ずることにつながりかねないとも考えられる。このため、事前放流の運用に当たっては早い段階での精度の高い降雨の予測が必要となるなど、慎重な検討が必要となる。
[編集] 不特定利水
不特定利水とは、特定した権利者による用途がない水利用のこと。河川の水量を積極的・能動的に調節する為に治水のカテゴリに入り、通常は洪水調節機能と一緒に目的として付与されることから、単一の目的には挙げられない。このため洪水調節と不特定利水の2つを目的に持つダムは多目的ダムと呼ばれることはない。
不特定利水には大別して不特定かんがいと河川維持放流、フラッシュ放流の3つがある。いずれも一定の水量が通年放流される。
- 不特定かんがい
- かんがいや上水道、工業用水の水源確保を目的としたダムにおいては、ダムからの直接取水によるほか、ダムから用水相当の放流を行うことで、下流域での用水の安定的な取水を図ることがある。通常は、既存の農地に対して農業用水を供給する場合にこの目的が付加されるが、補給量は既得水利権者(土地改良区など)が従前より水利権の定める取水量にあわせて供給される。ダムにとっては、新たな取水設備を設けることなく、既存の河川取水設備(頭首工など)を活用して供給ができることから、多くの多目的ダム・治水ダムにおいてこれを目的としている場合が多い。
- 補給基準点は既設の堰・頭首工・取水口所在地であることが多いが、中にはダム地点であったり特定の橋梁である場合もある。これらは、それぞれの河川における水利権や農地分布状況などに応じて設定される。
- 河川維持放流
- 洪水時やかんがいを要する時期以外であっても、ダムからは常に一定量の放流が行われる。これは、下流域にダムがなかった場合と同量の流水を確保することで水生生物などの生育環境・生態系を維持するためである。河川維持放流は年間を通じて行われている放流であり、小規模なダムでは放流操作と特筆されないこともある。上記の不特定利水目的の放流も河川維持の一環と見なすことがある。
- 一般に多目的ダムや治水ダムにおいては河川維持放流が不特定利水の中に含まれており、広義の意味では治水にも該当する。ダムによって流水が枯渇し下流環境への影響が大きいと批判する意見があるが、多目的ダム・治水ダムではこの批判は当てはまらない。しかし発電専用ダムにおいては発電能力の減衰につながる無用な放流は避けたいとして、下流への放流は原則的になかった。このため大井川・信濃川を始め全国の河川において、水量減少による問題がクローズアップされた(詳細はダムと環境を参照)。
- こうした問題の解決と、環境保護思想の高まりを受けて1997年(平成9年)に改正された河川法において、河川環境の維持が重要な目的として挙げられ、可能な限り全てのダムにおいて河川維持放流が事実上義務付けられた。これにより従来は放流を行っていなかった発電専用ダムにおいても、河川維持放流が行われるようになった。河川維持放流水を利用した小規模な発電所を設ける例もある。ただし、こうした発電専用ダムでは仮に河川維持放流が行われても、目的に不特定利水が加わる訳ではない。これとは別に、漁業協同組合の要請による漁業資源保護のための河川維持放流を行うダムもある。
- フラッシュ放流
- 河川維持放流の内、下流域の河川形態をより自然な状態に保全する為に人工的な小規模洪水を起こし、水質の正常化や流砂の連続性確保を図る目的で行う放流を特にフラッシュ放流と呼ぶ。近年実施されつつある手法である。
- 河川生態系の維持は従来は安定した環境の維持がベターと考えられていたが、過度の安定化は河床の固定化や瀬・淵の消滅、浮遊藻類の増殖による水質悪化が起こる事が分かってきた。河川生態系は本来は洪水の存在によって定期的に正常化され、維持される。このため人工的に洪水を起こして固定化した河川環境をリセットし、河川の清浄化と生態系維持を図る事が検討されるようになった。
- 1996年にアメリカのコロラド川にあるグレンキャニオンダムで試験的に人工洪水試験が実施され、2000年~2002年に掛けてはスイスで国立公園公社と電力会社の共同事業として人工洪水試験が断続的に実施された。これによって瀬や淵の復活、浮遊藻類の除去や土砂の移動連続性がある程度確保できるなど一定の成果を得る事が出来た。日本では1997年(平成9年)より建設省(現・国土交通省)によって検討され、やがて国土交通省直轄ダムを中心に現在20ダムでフラッシュ放流が実施されている。主なダムとしては漁川ダム(漁川)・宮ヶ瀬ダム(中津川)・五十里ダム(男鹿川)・三国川ダム(三国川)・真名川ダム(真名川)・高山ダム及び比奈知ダム(名張川)・温井ダム(滝山川)などがある。
- 山形県にある寒河江ダム(寒河江川)の例を挙げると、朝10時に10トン/秒の放流を開始しその後徐々に水量を増加させ12時には水量を最大の30トン/秒を放流、次第に水量を減らして15時に終了するという手法である。終了間際には放流によって生じた濁水を正常化させるための後放流を実施し、一連の放流を終了する。この放流によって浮遊して悪臭を放っていた藻類を除去できた他、瀬や淵が保全されるなど河川環境の保護が確認された。現在は6月から11月までの間週1回実施している。
- こうしたフラッシュ放流は漁業協同組合などの協力下で実施され、河川環境の改善に貢献している他、従来有効な手段が無かった堆砂対策の一手法として注目されている。関西電力が管理する旭ダム(旭川)ではこうした手法でダム堆砂の除去に取り組んでいる。だが開始されたばかりであり魚介類などへの影響といったエビデンスが蓄積されていない事から、今後の調査・検証が重要である。
[編集] 排砂放流
ダムの中にはダム貯水池内に堆積した土砂を専用のゲート(排砂ゲート)から放流する機能を備えたものもある。ダム貯水容量を確保する為に重要な目的の一つではあるが、ダム貯水池内に長期間に堆積した土砂は一部がヘドロ化しているなど、排砂放流によって河川環境が著しく阻害されることを危ぶむ意見も少なくない。
[編集] 観光放流
黒部ダム(黒部川)のように観光地化しているダムでは、一種のイベントとして放流をする場合がある。黒部ダムや豊平峡ダム(豊平川)は当初から観光を目的として放流する例である。
[編集] 試験放流ほか
このほか、洪水期を前にゲートを点検するための試験放流を行うことがある。ダム管理事務所ではWebサイトなどを通じて実施を事前に告知することもある。通常使われることがほとんどない非常用洪水吐からの放流が行われるとあって、多くの観光客が訪れる。矢木沢ダム(利根川)や下久保ダム(神流川)等多くのダムでは6月~7月に1年に1度の点検放流が行われるが、温井ダム(滝山川)のように平日に時間限定で繰り返し実施される放流もある。