日本人民共和国憲法草案
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日本人民共和国憲法草案(にっぽんじんみんきょうわこくけんぽうそうあん)は、1946年(昭和21年)6月29日に日本共産党が発表した大日本帝国憲法改正草案。大東亜戦争敗戦後、日本国憲法制定に関する議論がなされているときに日本共産党が起草し発表した。
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[編集] 概要
予め同党が発表した「新憲法の骨子」を基軸に、共和制、民主集中制を採用しており、スターリン憲法などに代表される典型的な社会主義憲法の構成をとる。ただし党の指導性は明示されず、土地を始めとする生産手段の国有化なども規定されていなかった。
社会主義的な側面を挙げると、人民の権利に関しては、権利行使が物質的にも施設提供などによって保証されていたり、被用者へ経営に参加する権利が与えられていたりする。憲法改正によっても、共和制を破棄することはできないという条項もある。その他には、「公務員」の章を設け、警察署責任者の住民による選出や公務員の廉潔を義務付けていること、戸主制・家督相続制や拷問及び死刑を廃止することなどが特徴であろう。
なお、この憲法草案には日本国憲法第9条のような軍隊の不保持などの規定はない。また、憲法改正が国会の3分の2以上の賛成で可能であるため日本国憲法に比して軟性である。
[編集] 構成
- 前文
- 第1章 日本人民共和国(第1条~第5条)
- 第2章 人民の基本的人権と義務(第6条~第41条)
- 第3章 国会(第42条~第65条)
- 第4章 政府(第66条~第70条)
- 第5章 国家財政(第71条~第75条)
- 第6章 地方制度(第76条~第80条)
- 第7章 司法(第81条~第90条)
- 第8章 公務員(第91条~第96条)
- 第9章 憲法改正(第97条~第100条)
[編集] 日本人民共和国憲法の内容
- 前文
天皇制支配によってもたらされたものは、無謀な帝国主義侵略戦争、人類の生命と財産の大規模な破壊、人民大衆の悲惨にみちた窮乏と飢餓とであった。この天皇制は、欽定憲法によって法制化されていた様に、天皇が絶対権力を握り、人民の権利を徹底的に剥奪した。それは、特権身分である天皇を頂点として、軍閥と官僚によって武装され、資本化地主のための搾取と抑圧の体制として勤労人民に君臨し、政治的には奴隷的無権利状態を、経済的には植民地的に低い生活水準を、文化的には蒙昧と偏見と迷信と盲従とを強制し、無限の苦痛をあたえてきた。之に反対する人民の声は、死と牢獄とをもって威嚇され弾圧された。この専制的政治制度は、日本民族の自由と福祉とに決定的に相反する。同時にそれは、近隣植民地・半植民地諸国の解放にたいする最大の障害であった。
われらは、苦難の現実を通じて、このような汚辱と苦痛にみちた専制政治を廃棄し、人民に主権をおく民主主義的制度を建設することが急務であると確信する。この方向こそかつて天皇制のもとにひとしく呻吟してきた日本人民と近隣諸国人民との相互の自由と繁栄にもとづく友愛を決定的に強めるものである。
ここにわれらは、人民の間から選ばれた代表を通じて人民のための政治が行われるところの人民共和国政体の採択を宣言し、この憲法を決定するものである。天皇制は、それがどんな形をとろうとも、人民の民主主義体制とは絶対に相容れない。天皇制の廃止、寄生地主的土地所有制の廃絶と財閥的独占資本の解体、基本的人権の確立、人民の政治的自由の保障、人民の経済的福祉の擁護、これらに基調をおく本憲法こそ、日本人民の民主主義的発展と幸福の真の保障となるものである。日本人民の圧倒的多数をしめる勤労人民大衆を基盤とするこの人民民主主義的体制だけが帝国主義者のくわだてる専制抑圧政治の復活と侵略戦争への野望とを防止し、人民の困窮的解放への道を確実にする。それは、人民の民主的祖国としての日本の独立を完成させ、われらの国は、国際社会に名誉ある当然の地位を占めるだろう。日本人民は、この憲法に導かれつつ、政治的恐怖と経済的窮乏と文化的貧困からの完全な開放をめざし、全世界の民主主義的な平和愛好国家との恒久の親睦をかため、世界の平和、人類の無限の向上のために、高邁な正義と人道を守りぬくことを誓うものである。
- 統治機構
三権のうち、立法府が日本人民共和国の最高国家機関として位置づけられている(第42条、第66条、第84条)。
国会は、全人民により選挙せられた代議士により運営される一院制議会である。
国会常任幹事会は、国会代議士による選挙せられた25名からなる(第62条)。その国会常任幹事会議長が日本人民共和国を代表する(国家元首、第63条)。
国会常任幹事会の職務は、国会の召集、解散、総選挙の施行公告など日本国憲法における天皇の国事行為とほぼ同じである。
政府は、国会により任命される政府首席と政府員によって構成され、行政を掌理する。国会と政府との関係は、いわゆる議院内閣制と同じである。
- 地方制度
日本人民共和国の地方は、日本国憲法における地方自治ではなく、「政府機関と地方支部の活動は、地方の権力機関の行政と合致するよう、法律によって調整される。(第80条)」とあるように、中央集権国家である。
- 公務員
第91条に、公務員は、民主主義と全人民の利益に奉仕し、官僚主義に陥ってはならない、と記載されてある。
改正要件は、代議士の三分の二以上の賛成で成立する。国民投票はその要件となっていない。
共和政体の破棄と君主制の復活は憲法改正の対象とならない。