日産・S20型エンジン
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日産・S20型エンジンは、かつて日産自動車が開発・製造していた直列6気筒形式のガソリンエンジンである。総排気量1989cc。乾燥重量は199kg。
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[編集] 誕生までの経緯
ベースとなったのは、プリンス自動車が開発した純プロトタイプレーシングカーR380に搭載されていたGR8型エンジンである。
それまで国内ツーリングカーレースで使われていたS54型スカイラインGT搭載のG7型エンジンでは、カウンターフローのSOHCエンジンであったために1965年~1966年のシーズンにワークスマシーンのみクロスフロー(ヘミヘッド改造)としたGR7Bダッシュで闘ってきた。しかし、1967年のレギュレーション変更で再びG7エンジンの変更を余儀なくされてしまい、戦闘力の低下は否めない状況になってしまう。そのため日産自動車(プリンス自動車とは1966年に合併)では、次期ツーリングカーレースの主力マシーンとして、C10型スカイラインにR380に搭載されていたGR8型エンジンをベースにしたDOHC直列6気筒エンジンのS20型エンジンを開発することを決め、1969年スカイラインGT-Rに搭載された。 その後、S30型フェアレディZ(Z432・Z432R)にも搭載されたが、1973年に48年排ガス規制に適応できず、生産中止となった。
[編集] S20型エンジンのスペック
- DOHC 水冷直列6気筒 ガソリンエンジン 総排気量1989㏄
- ボアxストローク 82x62.8mm
- 圧縮比/燃料 9.5 有鉛ハイオクガソリン
- 最高出力(グロス)160[155]ps/7000rpm [ ]は、レギュラーガソリン仕様
- 最大トルク(グロス)18.0[17.6]㎏-m/5600rpm [ ]は、レギュラーガソリン仕様
- 燃料供給装置 ミクニ・ソレックスN40PHHキャブレターx3
- 弁装置 4バルブ・リフタ直駆動式
- オイル容量 6リットル
- 機関寸法/乾燥重量 810x720x630(mm)/199㎏
[編集] S20型エンジン搭載車
- スカラインGT-R(PGC10型)1969年~1970年※4ドアセダン。製造台数832台。
- スカラインGT-R(KPGC10型)1970年~1972年※2ドアハードトップ。PGC10に対してホイールベースを70mm短縮。製造台数1197台。
- スカラインGT-R(KPGC110型)1973年1月~4月※ケンメリ。製造台数197台
- フェアレディZ432(PS30)1969年~1972年
- フェアレディZ432R(PS30SB)※Z432をベースにしたレース対応車で100㎏近い軽量化を行った。レースライセンス保持者のみに販売したといわれ、その総数はわずか20台とも30台とも言われている。現存しているのは10台程度の報告もある。
[編集] S20型エンジンの特徴
元々レーシングエンジンをベースにするために通常のエンジンに比較すると 大きく異なる部分や明らかなオーバークオリティと思われる部分は少なくない。これはレースに使われることを前提にしたための設計でもあるためであり、それゆえにチューニングしても充分な耐久信頼性を求めた結果でもある。従って、頑丈なエンジンという印象もあるが、コンピュータ制御もない時代のエンジンなのでコンディションを維持するためには、キチンとしたメンテナンスが必要である。
- ベースになったGR8Bのストロークと比較すると0.2mm少ない。これは、レースで2リッタークラスに合わせるために多少の誤差が生じてもいいように余裕を持たせたためである。
- クランクシャフトベアリングの支持は、上下だけではなく左右からも締める構造になっている。サイドボルトで締める方式は、レーシングエンジン独特の方式である。
- ヘッドボルトの取付ボルト数も同排気量のL20と比較しても2倍の本数である。
- エンジンオイルのエレメントは、現代の主流であるカートリッジ式ではなくフィルター式。交換の際には、上下ワッシャーに注意が必要。これを忘れるとエンジンを焼きつかせる原因となる。
- シリンダーヘッドは、アルミ鋳造。ピストンはアルミ合金製。エキゾーストマニホールドは、ステンレス製の等長。いわゆるタコ足である。
- メンテナンスフリーと高回転域での追従性を高めるために日本初になる三菱製フルトランジスタ・イグナイターを採用。
- ストリートでの扱いやすさを考慮して、最大160psとしたが、カムシャフトを高回転型に交換し、キャブレターをレースオプションであったソレックス44PHHもしくはウエーバー45DCOEにするだけで200ps前後は簡単にチューンアップできると言われた。さらにKPGC10ツーリングレースのワークスカーでは、燃料供給をボッシュの機械式インジェクションに交換しており、最終的には250~260psまで搾り出していたという。しかも、常時9000rpmまで回しても壊れない耐久性を持っていた。
- 通常のエンジンでは、シリンダーヘッドとマニフォールドの部分に段がつくのだが、S20の場合はこの部分も綺麗に研磨をしており、組立も熟練工による手作業で行われていた。そのために1日当りの生産台数はわずかに4機までが限界。そして単体価格も当時の価格で70万円と非常に高価なものであった。
- 当時の市販車用エンジンとしては珍しい4バルブエンジンである。世界的なスポーツカーとして知られるフェラーリや純レーシングカーですら、2バルブであったことを考えるとこれは非常に評価すべき点でもある。
[編集] 逸話・トリビア
- 開発チームは当初、このエンジンのR型と命名しようとした。ところが、1.6リッタークラスのOHV直列4気筒エンジンに使われてたために断念。その結果S型を選んだという。
- シリンダーヘッドには、K・K2~K5型という数種類が存在する。このうち、KとK5は試作品。さらにK3Rというレース専用品も存在する。その他、過去~現在まで見ても珍しい多球形燃焼室を持っている。但し、これが徒となり、管理が悪いエンジンの場合はヘッドにクラックの入っている事もある。修理は溶接かヘッドの交換が必要。
- 燃料供給は当初、S54型と同じウェーバーのキャブレターを考えていた。ところがキャブそのものの供給体制に問題があったこと。ミクニ(当時・三国工業)がソレックス社のライセンス生産を行ったことから、ソレックスに変更されている。
- エンジンオイルの容量が6リットルと排気量2リッターの直列6気筒エンジンとしては異様に多い。これは、エンジン冷却を通常の冷却水のみならずエンジンオイルによる冷却も兼ねていたためである。
- 排ガス規制問題のために1973年のスカイラインGT-R(KPGC110型)への搭載で生産終了したが、そもそもKPGC110(ケンメリ)でのレース参戦はプロトタイプは制作されたものの実戦投入は白紙撤回されており、わずか3ヶ月の製造販売は、スカイラインのイメージリーダーとしての役割。ならびに余っていたS20型エンジンの処分とも噂されていたことがある。また、レギュラーガソリン仕様は、この型のみの設定である。
- スカイラインでのレース活動は有名なところだが、フェアレディZでの活動はそれに比較すると大きな戦績は残していない。S20型エンジンとフェアレディZのシャシーとの相性が悪く、現場でも評判もよくなかったためにZは240ZGベースに移行してくことになる。このために合併後も残っていた、日産技術陣とプリンス技術陣との確執や遺恨が続く理由にされたこともある。旧プリンス系エンジンと日産系シャシーの相性の悪さは後のS12型シルビアにおけるFJ20型エンジンなどでも露呈している。
- 現在でもかなりのパーツがストックされていて、オーバーホールも可。その費用は150~200万円程度と2ヶ月の時間が必要。日産プリンス東京販売のスポーツコーナーでオーバーホールを行うとエンジンルーム内に専用のコーションプレートが装着される。