映像編集
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映像編集(えいぞうへんしゅう)、は映画、ビデオ、テレビなど、映像・音声を伴うメディアにおける編集のことである。フィルムなど光学・化学的媒体を用いるもの、VTRなど、電磁気的な媒体を用いるものがある。
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[編集] ポストプロダクション作業
こうして全ての素材が収録されると、番組を構成する各素材を整理して明らかな失敗や不要な収録単位(テイク)を除き、番組で用いる映像部分を大雑把に切り出す作業を行う。(粗編集(あらへんしゅう)などという)。この段階では映像を特に加工せず、切り出してVTRテープなどの記録媒体にまとめるだけである。
次に、選ばれた素材を番組制作意図に従ってつなぎ合わせる。この段階では素材の調子を整えたり、特殊効果を施したり、場面転換の効果を与えるなど様々な技法が用いられる。近年ではバラエティ番組を中心に文字スーパーによる補足が頻繁に付加される。またタイトル・クレジット入れも行われる。
映像の編集が終わると、これに合わせて音の追加が行われる。背景音楽や効果音、台詞のアフレコ等である。この音入れ作業はMA(Multi Audio:但し和製英語)と呼ばれる。
様々な作業を経て制作者のOKが出ると、記録媒体(標準テレビ放送の場合にはD2フォーマットのビデオテープが一般的)をマスターテープとして収録、完成となる。出来上がったテープは「完パケ」と呼ばれる。この工程は通常放送局外の編集専門のポストプロダクション(事業者)の貸し編集室を用いて行う。
ニュースの取材映像はドラマなどと異なり、取材後すみやかに放送する必要があるため、特殊効果等は用いず、報道意図に沿った場面を選択して数十秒から数分程度の映像にまとめる点で大きな違いがある。このため、編集作業は放送局の報道部門が持つ編集室で行われるのが普通である。編集機材も迅速な編集を第一とするため、取材用カメラ一体型VTRのテープを直接再生して編集作業ができるような機材構成としている。最近では後述するノンリニア編集技術を用いたニュース編集システムも利用されている。
[編集] 映像編集技術
ポストプロダクションで用いられる映像編集技術は多岐にわたる。映像の高品質な編集を効率的に行うため、最新の映像編集設備を備える装置産業であるとともに、制作者の意図を汲み取って迅速に映像の合成や特殊効果を実現する職人芸を要求される仕事でもある。職人芸には映像の質に対する鑑識眼や映像のつなぎの間をはかるセンスなども要求される。
個々の編集技術に関するトピックの一例として次のようなものがあげられる。
[編集] VTR編集
初期のテレビ放送ではVTRが普及していなかったため映画技術であるフィルム編集も用いられた。
VTRの価格が下がるとVTRテープを用いた編集が普及した。コピーしたフィルムをつなぐ代わりに、素材テープを編集先テープに順次コピーすることにより一続きの作品を作る手法である。素材テープを再生するVTRを2台用意することにより複数の映像を合成した編集も可能になった(A/Bロール編集)。なお複雑なはめ込みなどをしない場合でも、ひとつの場面から別な場面に移行する際に両者を二重に移しつつ徐々に切り換えるディゾルブまたはクロスフェードと呼ばれる効果を作るためには2台の再生機が必要になる。
高度な編集としては収録済みのテープの途中を別な映像で置き換えることもある。これはインサート編集と呼ばれ、記録済みの磁気パターンだけを消去し、それを書き換える必要があるため精密な記録位置制御技術が必要である。これに対し記録済み映像の後ろに継ぎ足し記録を行う編集をアセンブル編集と呼ぶ。
VTRによる編集を可能にした技術のひとつは、フィルムと同じフレーム(こま)単位での編集を可能にする同期技術である。これには各フレームに番号を振る信号であるタイムコード技術の実用化や、タイムコードによって記録されたフレームを特定するための制御技術が貢献している。フィルムに比べると、編集結果が直ちに確認でき、やり直しが容易な点で効率的である。欠点としてはアナログ記録方式であるため、再生/記録を繰り返して行うたびに映像信号の劣化が起こることである。このため、あまり複雑な合成は行うことができなかったが、デジタルVTRやデジタル編集機器の普及によりこの欠点は克服された。
映像編集技術者がVTRを自由自在に操ることができるよう、専用の編集機が多数開発・商品化された。これらは小型の操作卓様のものから、キーボードとディスプレイを持つものなど機能により各種ある。
[編集] オフライン編集
いずれにしてもVTRを用いた編集は元素材を再生して、別なVTRの出力用テープにコピーする作業の繰り返しであり、素材の長さに応じたコピー時間を要するという性質があった。 また、元テープから必要な場面を探すのにも無視できない時間がかかった。これは特に高価な編集室を借りて編集作業を行う際にコスト上昇の要因とされた。これを軽減するため、次のようは方法も取られた。
- 素材を一旦安価な機材で使えるフォーマット(たとえばベータカム、S-VHSなど)にコピーする。
- 小規模な編集システムで編集を行ってその手順をタイムコードを用いた編集手順の記述(EDL)として記録する。
- 得られたEDLをポストプロダクションに持ちこみ、高品質な編集機材で正式な編集作業を行うことで試行錯誤のためのコストを低減することができる。
このような編集手法をオフライン編集と呼ぶ。
[編集] ノンリニア編集
ノンリニア編集を参照
[編集] 映像編集機材
ノンリニア編集システムは編集作業を一変させたが、従来からある編集機材・編集技術はまだ現役である。これらについては次のようなものがある。
[編集] プロダクションスイッチャー
様々な映像素材の選択と合成・効果の付与を行う。基本的には入力素材(素材再生用のVTR、文字発生器、CG装置など)の選択を行うマトリクススイッチャー、選択された複数の出力を合成するミクサー・キーヤー部分(MK、MEなどという)を持ち、合成された映像に対しさらに文字や図形を重畳するスーパープロセッサ・クロマキーなどが後置される。ミクサー部分の合成機能としては、2素材間のカット・クロスフェード・ワイプなどの画像の移動や拡大縮小を伴わない切り替え効果をもつ。 (stub)
[編集] デジタル特殊効果装置
DVE(Digital Video Effect)、DME(Digital Muti Effect)などと呼ばれる。フレームシンクロナイザ(FS)の応用として生まれ、フレームメモリへの記録・再生アドレスの発生方法を適切に制御することにより入力素材の拡大縮小・平行移動・回転移動・変形などスイッチャーでは出来ない効果を与える。スイッチャ-に組み込まれることも多く、ワイプ効果に連動した拡大縮小や平行移動、ページめくり効果が場面転換にしばしば用いられる。実時間で効果を発生するためにはNTSCでも1画素あたり数十nsの時間しかとれないため、ハードウェアで演算処理を行ってきたが、近年のCPUの処理性能の著しい向上に伴い、PC/WSベースのノンリニア編集機ではソフトウェア処理で主要な機能が実現されている場合もある。
[編集] 文字発生装置
キャラクター・ジェネレーター(CGと略されることがあるが、コンピュータグラフィクスと混同しやすい)は、コンピュータを用いて字幕などの文字を表現した映像信号を生成する装置である。初期にはビットマップ文字フォントを用いたものが用いられたが文字解像度が低いため見栄えが悪く、放送局ではあまり使われなかった。後にベクトルフォントを用いて自由に書体やサイズが表現可能になり、ひろく普及した。実用製品としては、文字を発生させるだけでなく合成のためのリニアキー信号発生機能も持たせることで、影付き文字や半透過の背景(通称「座布団」)なども容易に実現できる。さらに、文字を画面周囲から中央まで移動させたり、文字サイズを変えたり回転させる効果を得るための機能を持つものもある。この機能があるとDVEを映像処理に割り付けた場合でも自由に文字効果を与えられる。 また文字色をワイプ機能によって端から徐々に変化させる機能は、カラオケの歌詞ガイド表示に必須である。
[編集] スーパー処理装置
文字や図形を画面に合成するための処理装置である。もっとも単純には、黒地に白文字(逆でも良い)の文字素材を撮影したもの(テロップ)を輝度信号でスライスして2値キーを得、これを用いて文字を入れたい映像と全面単色の画像を合成する。文字色は自由に設定できる。2値キーでなく、リニアキーを用いると文字の境界をソフトにすることもできる。また、文字の周囲に縁取りを施したり(エッジ効果)、文字の脇に影をつけたり(シャドウ効果)、文字色を単色でなく色や輝度の階調をつけるなどの効果を持つものが多い。