BETACAM
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BETACAM(ベータカム)はソニーが開発したアナログコンポーネント記録のカセット式VTR。放送用、業務用における撮影において世界中で事実上の標準方式となっている。通称「ベーカム」。ベータマックスと同規格のテープを、3~6倍の速度で使うことで、記録密度を下げ見かけ上の磁界強度を上げて高周波記録を実現している。
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[編集] 概要
それまでENG取材は、ビデオカメラ部と、U規格などのVTR部が別々になっていて、カメラを担いだカメラマンの後には、ケーブルで繋がれたVTRを持つビデオエンジニアが付いて回るという2人1組の機動性に欠ける取材を強いられており、カメラマンによってはこの両方を1人で担当する者もいた。1982年にベータカム方式のカメラ一体型VTR「BVW-1」が登場。ビデオカメラとVTRが同体化(カムコーダ)されケーブルから解放されたカメラマンの機動力は飛躍的に向上する事となった。また、U規格のカラー低域変換方式に対しコンポーネント式のY-C別デュアルトラックを用いたダイレクト記録を採用して、より高画質化することができた。この成功を受けて自社でVTR製品を持たないカメラメーカーの数社がソニーとの提携によりBETACAMの録画機と一体型にできるカメラを発売し、ソニー以外のカメラを好む現場に対しても本フォーマットは浸透していった。
同時期に松下電器産業が"Mビジョン"と呼ばれるVHSテープへコンポーネント記録を行うフォーマット(M規格)を開発したが振るわなかった。1986年にはBETACAM-SPに追随しメタルテープ化したフォーマット"MII"方式を投入したものの、再生互換性を確保したBETACAMグループが引き続き圧倒的なシェアを維持したことは民生用ビデオ規格Betamaxの敗退と対照的である。 テープはBetamaxと同じ1/2インチ幅のテープを使うが、走行スピードが異なるためにバックコーティングや磁性体などのテープ材質が若干異なる。
1983年には、編集機能付きのレコーダー「BVW-40」が発売され、収録から編集、送出に至るまでBETACAMによるシステムの構築が実現し、フレーム単位での編集精度が向上した。これらはキー局クラスでは報道部門で用いられ、取材先から持ち返ったテープを編集機で手早く編集し、ニュースサブ(副調整室)からニュース素材として生送出するなどの用途に重宝された。日本では番組やCMの送出にはD2-VTRが標準として用いられていたが、ケーブルテレビ局の番組送出用や、コスト重視の欧米の放送局では番組やCM送出用としても広く用いられた。カセット方式であることを生かしてカートシステム(オートチェンジャー)がアサカなど数社から提供され、CM編集や番組送出用として使用されたほか、SONY自身もD2用のカートであるLMSのローコスト版としてベータカートを発売、主に送出用として供給していた。
BETACAM-SPで導入された「ラージカセット」が後にオリジナルのBETACAMへも引き継がれ、カセットサイズはSP同様「スモールカセット」(最大30分)と「ラージカセット」(最大90分)の2種類存在する。
放送・業務用として非常に普及したことから、後継のデジタル記録版であるDigital BETACAMやBETACAM-SXでもBETACAM-SPの再生だけは可能としたモデルも設定され、素材の活用をはかれるように考えられていた。
機器ラインアップ
一体型カメラ
BVW-200 2/3インチ 27万画素IT型CCD 2000LUX/F5.6(BVP-5同等)
BVW-300 2/3インチ 38万画素IT型CCD 2000LUX/F5.6(BVP-7同等)
BVW-300A 2/3インチ 38万画素IT型CCD 2000LUX/F8(BVP-7A同等)
BVW-400 2/3インチ 38万画素FIT型CCD 2000LUX/F5.6(BVP-70同等)
BVW-400A 2/3インチ 38万画素FIT型CCD 2000LUX/F8(BVP-70IS同等)
BVW-D600 2/3インチ 52万画素FIT型CCD 2000LUX/F8(カメラ部DVW-700同等)
スタジオ/ポータブル VTR
BVW-10 BETACAM Sカセット スタジオプレイヤー
BVW-15 BETACAM Sカセット DT再生付スタジオプレイヤー
BVW-20 BETACAM Sカセット ポータブルプレイヤー
BVW-21 BETACAM Sカセット ポータブルプレイヤー
BVW-25 BETACAM Sカセット ポータブルレコーダー
BVW-35 BETACAM-SP Sカセット ポータブルレコーダー
BVW-40 BETACAM Sカセット スタジオレコーダー
BVW-50 BETACAM-SP S/Lカセット ポータブルレコーダー
BVW-60 BETACAM-SP S/Lカセット スタジオプレイヤー
BVW-65 BETACAM-SP S/Lカセット DT再生付スタジオプレイヤー
BVW-70 BETACAM-SP S/Lカセット スタジオレコーダー
BVW-75 BETACAM-SP S/Lカセット DT再生付スタジオレコーダー
ドッカブルVTR(カメラ一体型用)
BVV-1 BETACAM Sカセット ドッカブルレコーダー
BVV-1A BETACAM Sカセット ドッカブルレコーダー
BVV-5 BETACAM-SP Sカセット ドッカブルレコーダー
== 価格 ==(税抜き)
BVW-200
BVW-300
BVW-300A 460万
BVW-400
BVW-400A 570万
BVW-D600
BVW-10
BVW-15
BVW-20
BVW-21
BVW-25
BVW-35
BVW-40
BVW-50 245万
BVW-60
BVW-65
BVW-70 530万
BVW-75 595万
BVV-1
BVV-1A
BVV-5 167万
[編集] バリエーション
[編集] HDCAM/HDCAM SR
HDCAMはデジタルベータカムのHDTVバージョンである。1997年に導入された。 コンポーネント3:1:1サンプリング・8ビット 1/7 DCT + 可変長符号フィールド内圧縮、1080i(HD-SDIベースバンド入出力時10ビット1920x1080スケーリング)で、24PsFと23.98PsFモードに互換性を持つ。 映像ビットレートは144Mbit/sで、音声はAES/EBU 4CH 20bit/48kHzデジタルオーディオ。 ソニーのシネアルタ (en:CineAlta) 領域の製品である。
HDCAM SRは高密度磁気粒子採用のベータカムテープを使って、映像データレート440Mbit/sでコンポーネント4:2:2サンプリング・10ビットDCT圧縮を実現した規格であり、2003年に導入された。 HDCAMより増えたビットレートによって1080p映像(1920x1080)を録画することができる。 880Mbit/sの2倍速モードで映像データレートRGB4:4:4(低圧縮)1本か、データレートYPbPr4:2:2 2本に対応したHDCAM SRビデオデッキもある(HDCAM SRカムコーダは製品化されていない)。 HDCAM SRは新しい圧縮技術「MPEG-4スタジオプロファイル」を採用し、音声も12チャネルまで対応している。 愛知万博のスーパーハイビジョン画像展示の送出にも使われていた。
HDCAMデッキは旧来のベータカムフォーマットのテープを再生可能(ただし、初期の製品では未対応)であり、 カセットあたりの録画時間はデジタルベータカムと同じくSカセットで40分、Lカセットで124分。 24pモードでは少し伸びて、50分と150分である。 HDCAMカセットテープは黒く、リッドがオレンジ色。HDCAM SRカセットはリッドがシアン(青色)である。 440Mbit/sモードはSQ、880Mbit/sモードはHQと呼ばれ2005年にはポータブル機でも利用可能になった。
[編集] 関連項目
- BETACAM-SP
- BETACAM-SX
- Digital BETACAM
- MPEG IMX