村正の妖刀
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村正の妖刀(むらまさのようとう)は囲碁の定石に付けられた俗称の一つで、小目への一間高ガカリに二間高バサミする定石を指す。難解で未解明部分も多く、また変化型が多いため誤ると自らも傷を負うところからこの名が付いた。妖刀定石とも。
最初にこの二間高バサミが打たれたのは、1928年の久保松勝喜代八段によると言われる。
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[編集] 基本型
基本形は、小目への一間高ガカリに対する、二間高バサミ(黒★)。このハサミが比較的新しい手で、これに対する白の応手も様々なものが試されている。現在打たれているものとしては、白イ〜チなどがある。
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[編集] 代表的な図
[編集] 一間トビ、二間トビ
- 左図:白A(イ)の一間トビには黒もBと受けるくらいで、続いて白C、黒Dの後、白は上辺から黒をハサむ展開が考えられ、この部分では比較的穏やかな分かれだが、続いてハサンだ石を巡る攻防となる。また白はこの流れで、三々へのツケと一本打つことも多い。
- 右図:白A(ロ)の二間トビはこの部分を軽く見る手で、黒もBと二間に受ければ、白はここは打ち切って他に向かう。黒はBでなくCと堅く打って、白の二間トビの連絡を脅かす手もある。
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[編集] 下ツケ、上ツケ
左図:白A(ハ)の下ツケは、以下黒B、白C、黒D、白E、黒Fなどと応じられ、白に比べて黒に働きがあり、黒有利とされる。 右図:白A(二)の上ツケには、黒Bと下から受ければ平穏な分かれ。黒Cとハネダす手や、Dとツキアタル手は、難解な変化となる。
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[編集] ケイマ
白A(ホ)のケイマには、黒B、白C〜黒Hまでと応じられ(右図)、白はシチョウで一目抜いても石が重複しており、黒の実利が勝る。ただし白Eの手で、一路上の横ノビや、Fの下がりなどの変化がある。
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[編集] 大ゲイマ
白A(ヘ)の大ゲイマガケは、多くの変化があり、妖刀定石と呼ばれる主たる部分となる。黒の主な応手は、Bのツキアタリ、Cの上ツケ、Dのハザマなどがある。黒E、Fなどは場合の手。この大ゲイマは、1952年の呉清源-藤沢朋斎の第三次十番碁で藤沢が打ちだした。
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黒★のツキアタリは、続いて白A、黒B、白Cに黒Dと切るまでが狙いの進行で、続いて白は、右図白E、黒F、白Gと進めば簡明だが、先の見えない戦いになる。白はEでなく、白H、黒Fから白Iと押さえ込むのは、隅を巡る難解な攻防となるが、ほぼ定石化されている手順。
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黒★の上ツケには白Aとハネル。ここで黒B〜Fまでと運べば簡明で実利も大きいが、白が先手で一子ポン抜いた姿はケイマガケで生じた形より働きがあり、白満足とされる。
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白Aのハネには黒Bと白を裂いていくのが自然な発想。続いて白Cに、黒Dと打つのは最初期の形、黒Eはシチョウが関係する難戦、近年では黒Fのトビが多く打たれる。白Cで右図の三々ツケも、近年試みられている未完成定石。
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黒★のハザマは、左図白A、黒B、白C、黒Dと、隅を捨てて勢力に付こうという狙い。これに対して右図白もAと打つ勢力重視の姿勢は、梶原武雄九段の創案。
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[編集] 大大ゲイマ、ハサミ返し
白Aの大大ゲイマは、工藤紀夫九段が打ちだした手。
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白Aのハサミ返しも近年試みられている手で、2005年名人戦七番勝負第6局でも小林覚九段が打っている。
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[編集] 手抜き
白からの手抜きには、黒から続いてA、Bと二手かけてこの隅を制するのが立派な手になるが、この後、白からの策動の余地も残っている。
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[編集] 実戦例
[編集] 武宮流大模様
19696年プロ十傑戦の、武宮正樹四段-本田邦久七段(黒)戦、左上隅で白の二間高バサミに、黒上ツケ、白は左下隅の目外しの意図を継承してハネダシから黒★まで勢力を得る分かれを選び、続いて白A〜Cとして左辺一体が大模様となる。武宮はこの棋戦で前年8位に続いてこの年も5位入賞し、十傑戦ボーイと呼ばれた。
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[編集] 山下棋聖復位
2006年棋聖戦の羽根直樹棋聖と山下敬吾挑戦者の七番勝負第1局(山下黒)の左上隅で妖刀定石。シチョウ白有利な場合は白☆に下がる場合が多く、また黒もすぐにA以下切っていくのが近年の打ち方。左上の攻め合いは白勝ちとなるが、黒はKと切り、続いて右下方面のシチョウ当たりを狙う(先番中押し勝ち)。山下は4連勝で、3期振りの棋聖位。
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