生成音韻論
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生成音韻論(せいせいおんいんろん、generative phonology)とは、生成文法における音韻論である。
[編集] 生成音韻論の特色
音韻論自体の歴史もまだ百年にも満たないが、生成音韻論はそれに先行する構造主義音韻論(ヨーロッパ、アメリカいずれの構造主義についても)とは、その継承者でありながら、いくつかの点で大きく袂を分かつ。
- 母語話者に内在する知識についての理論であること
- 生成文法における記述的妥当性に関わる。
- 普遍文法(初期状態)から個別文法(定常状態)への遷移、すなわち言語獲得を説明する理論であること
- 表層(音声表示)から一定の手続きで「深い」表示を確定することができない、とすること
- 生成音韻論以前に、エドワード・サピアによってファントム・フォニームの存在が明らかにされていた。これは、訓練された観察者であるサピアにとって観察されない分節音が言語コンサルタントの内観には存在する、というものであった。これは英語、フランス語などのよく知られた言語にも存在することがすぐにわかる。このような分節音の存在は、表層の観察とそこからの帰納だけでは知り得ない構造の存在を強く示すものである。チョムスキーはwriter-riderという対に関する議論で、r弾音化によって環境が失われているはずの有声阻害音の前の母音長化が適用の出力として存在することから、表層にいたる前の表示で必要な環境が存在している、ということを説得力をもって示した。
- ある表示から別の表示へ、規則によって写像すると考えること
- 生成音韻論は、普遍的素性集合としてどのような弁別素性があるかを特定し、その素性が配列されて表示を構成する際の制限を明らかにする。同時に、ある表示から別の表示へ写像する規則も特定する。表示と規則の関係は緊密で、ある規則が言及するような表示の構造は必要であるが、そうでない構造は存在を主張する根拠を欠く。また、規則の指定は任意であってはならず、汎言語的視野からの自然さや形式的制限などの観点からあってしかるべきものでなければならない。
- 音韻論に内在する有意義な単一の表示として「音素表示」は存在しない、とすること
- 初期生成音韻論からとられている立場である。
- 弁別素性理論の発展
- 分節音をより基本的な特徴で記述しようという考えはすでにIPAの指定の仕方の中に見られる。ロマーン・ヤーコブソンはそこから大きく歩みを進め、最小限の素性の集合で世界中の言語音を記述でき、さらに自然類を特徴付けることができるような枠組みを作った。ヤコブソンの弁別素性理論は調音音声学と音響音声学の特徴を利用して素性の数を可能な限り少なくし、それを用いて可能な限り網羅的に言語音を記述できるようにデザインされたものであった。チョムスキーとモリス・ハレはThe Sound Patterns of English(SPE)においてヤコブソンの弁別素性理論を発展させ、音響音声学の特徴をなくしていき、能動的調音者である舌の調音点に基づいた素性を多く設定することで母音と子音を同じ素性体系で記述する、などを行った。
- 正書法の復権
[編集] 生成音韻論のトピック
- 規則(rule)のフォーマットと順序付け(rule ordering)
- 規則の基本的なフォーマットは次の通り。文脈依存規則:A→B/C_D(読み方「C_D」という環境でAをBに書き換えよ。ここで、スラッシュ"/"は「次の環境でin environment」と読む。「C_D」の部分を構造記述といい、「A→B」の部分を構造変化という。)文脈自由規則:A→B(これは規則が適用される条件の部分である構造記述が指定されていないもの。)なお、チョムスキー階層も参照されたい。また、規則は順序付けられており、ある規則の適用結果が、後に適用される規則にとっての適用可能な環境となったり、あるいは適用によって環境が失われたりする。例えば、響き音である母音にとっては有声であるのが無標である。これは文脈自由規則によって次のように捉えることができる:[+響き音]→[+有声]...(1)。基底表示は最小の情報しか含まないと考えられるため、母音については有声性を基底で指定せず文脈自由規則で指定するようにすればよい。ここで日本語に見られる母音の無声化を考えてみよう。この音韻過程には複雑な要因が関わるが、ここでは説明の便宜上、簡略化しておく。「靴」の「く」、「下」の「し」など、無声阻害音に挟まれたアクセントのない母音[i]、[u]は無声化する。これを文脈依存規則によって次のように捉えることができる:[+響き音,+高,-アクセント]→[α有声]/[-響き音,α有声]_[-響き音,α有声]...(2)。ここで規則の順序付けは(2)<<(1)とすると、アクセントのない高母音はそれを挟む阻害音の有声性に同化し、値が定まっていない場合に(1)によって無標の値が指定される。
- 素性階層性(feature geometry)
- SPE以来、分節音は相互に含意関係のない弁別素性の束である素性マトリクスで表示されてきた。
- 素性相互の含意関係が明らかになるにつれ、素性マトリクスによる表示より、素性間に階層構造を仮定したほうが重要な一般化を捉えるのに向いていると考えられるようになった。このような表示が素性階層性である。今でも議論の盛んな領域であるが、その一例(Halle1992)を示してみよう。根の節点を構成するのは二値素性を持つ [consonantal], [sonorant] の対で、すべての節点を支配する。この節点に直接支配されるのは共鳴腔素性の Oral, Nasal, Pharyngeal であり、このうちの Oral は調音体素性 Labial, Coronal, Dorsal を支配する。このうち Dorsal は終端素性 [back], [high], [low] を支配する。これらの素性は運動-感覚システムへの神経指令と仮定されており、調音体によって実現され、生理的・音響的相関現象を有するとされている。
- 不完全指定 (underspecification)
- 音節 (syllable)
- phonological skelton
- 韻律論 (prosody)
- 語彙音韻論 (lexical phonology)
- 自律分節音韻論 (autosegmental phonology)
- 韻律形態論 (prosodic morphology)