痩身
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痩身(そうしん)とは、健康や美容などを目的として、ダイエットやエクササイズ(運動)、器具や手術などの方法を用いて、より細い体型を目指して行動を起こすこと、あるいは行動している状態、または既に細い体型である状態の事である。
- 筋肉は脂肪よりも単位体積あたりの質量が大きいため、同じ体重であってもそれらの比率が異なると、体型も異なる。そのため、同じ身長で、体重がより大きいにもかかわらず、体型が細くなることもある(引き締まる、とも表現される)。
- 痩身は、美容のための「手段の一つ」であり、減量は、痩身のための「手段の一つ」である。
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[編集] 主な痩身の方法
[編集] ダイエット(食餌療法)によるもの
ダイエットによる痩身の基本的な考え方は、
「食餌による摂取カロリー」<「基礎代謝による使用カロリー+運動や活動による使用カロリー」
を実現するにあたり、天秤の左側(摂取カロリー)を減らすことにより、体重を減少させ、結果として痩身を期待するというものである。
- 基礎代謝は、何もせずじっとしていても、生命活動を維持するために生体で自動的に(生理的に)行われている活動で、当然エネルギーを必要とする。相当するエネルギー量(熱量)は、成長期が終了して代謝が安定した一般成人で、一日に約1200キロカロリー(kcal,Cal)とされている。
痩身目的でのダイエットの際に注目すべき栄養素は「脂肪」「炭水化物(糖分)」「たんぱく質」である。 なお、日常生活を送る上では一日中何もせずじっとしているわけではないので、当然これより多くのカロリーが消費される。
- 1gあたり、脂肪は9キロカロリー、炭水化物は4キロカロリー、たんぱく質は4キロカロリーである。
- ゆで卵ダイエット、りんごダイエット、豆腐ダイエットなどのように単一食品やほとんど単一の栄養素によるものをひたすら食べ続けるもの、米(炭水化物)のみを全く摂取しないなど、特定の栄養素のみを欠く形のダイエットも存在するが、栄養素の極端な偏りは、一時的な痩身や体重の減少の目的には適っても、場合によっては生命に関わるほどに健康を損ねたり、美容を損ねることもある。同時に、一時的に減量できたとしても、元の食生活に戻した時点でリバウンド(後述)することは容易に推測される。
- (これに関連して、TVやインターネットで紹介された偏食ダイエット法が、まったく根拠のないものであったり、実験データが捏造であったり、また不十分であったりして、後に健康被害が発生した例が実際に報告されている。[1])
- サプリメントを服用することにより、結果として食事の内容や量、バランスを変化させたのと同様の効果を発揮する(と謳う)ものもある。
- その類のサプリメントには大きく分けて「通常の食事の代わりに服用して満腹中枢を満足させる(結果として摂食量の減少が期待できる)」「通常の食事中に含まれる、熱量となる栄養素の一部を体外に排出する」ものなどがある。
(内部リンク)ダイエットも参照のこと。
[編集] エクササイズ(運動)によるもの
摂取エネルギーよりも多くのエネルギーを運動によって消費することで、体内の備蓄エネルギーの大半を占める体脂肪を消費させ、結果として体重が減少し、痩身の目的を達成することを期待するものが、運動による減量の主なメカニズムである。
- エクササイズよる痩身の基本的な考え方は、「食餌による摂取カロリー」<「基礎代謝による使用カロリー+運動や活動による使用カロリー」を実現するにあたり、天秤の右側(消費カロリー)を増やすことにより減量し、結果として痩身の目的を達成するというものである。また、単に運動による脂肪量の減少で体重が減る、というのみではなく、筋肉量の増加によるいわゆる「引き締まった身体」が目的ともなる。その場合、体型は美しくなるが体重はむしろ増えることもあり、「何を」最終目的とするか、が問われることとなる。
- 筋肥大によって上昇する基礎代謝量は筋1kgにつき一日50kcal程度といわれている。これそのものによる消費カロリーの増加で減量を実現させるという人もいるが、実際のところは増えた筋肉により筋力が増大し、エクササイズ時の負荷を増大させることが出来るために、運動時の消費カロリーが効率よく増加することで減量している、というのが主たる効果であろう。
- 中性脂肪から遊離脂肪酸への分解は、体内で常に起きている
エネルギー源として脂肪は常に血液中に存在するが、最初に運動で用いられるエネルギー源は血中の糖分(ブドウ糖)由来のもの(解糖系によるエネルギー)といわれている。糖分は迅速にエネルギーに変換されるため、運動初期、とくに運動開始時に急激に必要エネルギーが増大したときに用いられやすく、その後、遊離脂肪酸からエネルギーが作られていき、運動が安定していくと徐々にそちらに切り替わる。ハイブリッドカーの電気モーターとガソリンエンジンの関係にも似ている。
- 分解された遊離脂肪酸は、使われなければまた中性脂肪に合成される
カプサイシンやカフェインなど、中性脂肪から遊離脂肪酸への分解を促進することが知られている化学物質も、摂取するだけでは遊離脂肪酸自体は消費されず、余剰の状態で再び中性脂肪に戻っていくので、それだけでは減量に寄与しないことがわかる。交感神経系が活発化することで基礎代謝量が上昇する効果は期待できるものの、目的とする減量からすればごく僅かであろう。そうした物質の持つ興奮作用でエクササイズの効率を高める、ともいえるが、精神作用物質の効果で無理に身体に負荷を掛けることは、安全性の面からは疑問である。
- 脂肪がエネルギー源として使われる割合が最も高いのは安静時である
- 高強度運動では筋グリコーゲンや肝グリコーゲン(糖質)が主に消費される
- グリコーゲンが枯渇した状態で食物を摂取すると、食物中の糖質はグリコーゲンの補充に使われる
- グリコーゲンが充足した状態で食物を摂取すると、食物中の糖質は脂肪の合成に使われる
以上4点から、高強度運動を行った場合、運動によって直接消費される脂肪は少ないものの、次回の食事はグリコーゲンの補充に使われ合成される脂肪は少なくなる。その一方で、安静時(非運動時)には体脂肪が主なエネルギー源として使われるため、結果として体脂肪は減少する(食事のエネルギーが運動と基礎代謝の消費エネルギーより少ない場合)。一方、低強度運動で脂肪のみ使ったと仮定しても、筋・肝グリコーゲンが減少していない状態で摂った糖質はほとんど脂肪の合成に回されてしまう。結局、高強度であっても低強度であっても、体脂肪の増減は摂取カロリーと消費カロリーの差のみに依存する。
痩身目的で運動する人に低強度から中強度の運動が勧められるのは、主に以下のような理由からである。
- 太り気味あるいは肥満の人はもともと運動が嫌いで運動不足になっている可能性が高いと考えられるため、辛い高強度運動ではモチベーションが継続できない可能性が高い
- 運動不足の人が突然高強度運動を始めると様々な故障の原因となりやすく危険である
逆に常日頃運動を行っており高強度の運動を行う基礎体力が十分備わっている人が更に減量を行おうとする場合、低中強度の運動は退屈で却って苦痛であり、また同じ運動時間では高強度運動よりも消費カロリーが少ないので効果が現われにくいと考えられる。つまり、日常から運動を行っている人は痩身のために無理に低中強度の運動を長時間行う必要はない。
結論としては、運動嫌いも運動好きも、自分にとって継続しやすい強度の運動を行い、日々の摂取エネルギーが消費エネルギーを超えないように注意すれば減量が可能だということになる。
なお、高強度運動によって筋組織のたんぱく質が分解され、できたアミノ酸をエネルギーとして使用する(ので筋線維が縮小し基礎代謝を下げてしまう)といったことも言われるが、これは体内の糖質も中性脂肪もすっかり枯渇してしまった極端な飢餓状態での話であり、健康な人が運動する限りにおいてはほとんど問題とならない。通常は、食事によってたんぱく質を十分補えば超回復によって筋線維が強化される効果の方が大きいと考えられる。
(内部リンク)運動療法も参照のこと。
[編集] 器具によるもの
- 主に脂肪を器具によって燃焼させることにより部分的に減量することを目的とする。
- 減量のために用いられる方法にはさまざまあるが、最善策は現在のところ決定的とはいえない。
- 利用される方法は熱(サウナスーツ)、高周波、低周波、磁力など。ガードルも見た目をスマートに見せる意味で広義にこの範疇に含むことが出来る。
- マッサージで「脂肪のもみ出し」を行うことにより脂肪の流動性を高める、あるいは脂肪細胞を破壊し血中に溶出させ脂肪量を減少させる、と謳う方式もある。器具というには微妙だが、物理的な外力による脂肪の減少効果を狙ったものとしてここに含めた。結局のところ、血中に脂肪が溶出しても、再び体脂肪として蓄積されてしまうだろうことは予測できる(再蓄積は別の部分だから、部分やせには良い、と謳われることもあるが、効果のほどは不明である)。
[編集] 手術によるもの
- 美容整形のうちの一つとして腹部などの皮下脂肪を切除したり、吸引する場合がある。
- 結果として食事量の減少や摂取カロリー量の減少を期待する方法ではあるが、胃の一部を縛ったり、胃や腸の一部を切除したりするという方法もあるにはある。が、一般的ではない。
[編集] ダイエットによる痩身とリバウンド
ダイエットを行って目標体重、もしくはそれ以下まで落とした後、減量前まで体重を戻してしまうことが良くある。これをリバウンドと称する。
リバウンドの原因として以下の原因が挙げられる。
ダイエット、リバウンドを繰り返すと基本的に体重は落ちにくくなる為、ダイエットの後の自己管理も重要とされる。運動を怠っている場合、増加する体重の多くは脂肪として蓄積される分となるため、一般的には筋肉より脂肪の割合が増加してしまい、以前と同じ体重であっても体積は増大しており、「体型」がより太くなることがある。この悪循環に陥ると、筋力の減少により運動で負荷が以前より掛けられず、運動によるカロリー消費の効率も落ちてしまい、元の状態の復帰に時間がかかる。
[編集] 手段としての痩身と減量
美容と痩身や減量は必ずしも一致せず、最初は美容の目的で手段として痩身、さらにその手段として減量しようとしていたにも関わらず、次第に「手段の目的化」がおこり、体型を客観的に把握できず単純に体重の数値のみに拘る状態になることもある。その状態がひどい場合は、自分の体型に関するボディイメージが変質している場合があり、場合によっては拒食症に進むことがある。
[編集] 痩せ薬について
ヨーロッパでつい最近まで使われていたものとしてフェンフルラミンがあった。セロトニン受容体に直接作用して脳内のセロトニン濃度を高める事により食欲を抑制する作用がある。アメリカでも1996年に許可が下り出回った。しかし、1997年、心臓弁膜症と肺高血圧を誘発する危険性を指摘され、FDAの要請により市場から回収された。なお、日本でも2002年に、このフェンフルラミンや甲状腺ホルモンの混入した健康食品が、ネットや口コミを通じて出回り、健康被害を引き起こす例が多発し社会問題になった。体重を減らす為に安易にこのような痩せ薬の混入した健康食品(多くは成分記載虚偽)を使用すると、健康を害するだけでなく命まで失ってしまうこともある ので注意が必要である。