脂肪組織
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脂肪組織(しぼうそしき)は、脂肪細胞で構成された疎性結合組織の解剖学的用語である。 主な役割は脂肪としてエネルギーを蓄えることであるが、外界からの物理的衝撃を吸収することで重要な器官を保護したり、外界の温度変化から断熱して体温を保ったりする機能も持つ。近年はホルモンを作り出す重要な内分泌器官としても注目されており、TNFαやレプチン、最近発見されたレジスチンやアディポネクチンなどの産生に関与する。
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[編集] 解剖学的特徴
脂肪組織は、主に皮膚の下に位置するが、内臓の周囲でもみられる。 皮下では、熱と寒さからの断熱材となり、皮下層の最深部に蓄積する。 内臓の周りでは、それは保護的な詰め物となる。また、それは栄養の蓄えとしても機能する。
極度の肥満体の人の腹から垂れ下がる余分な脂肪組織はパンヌスと呼ばれる。パンヌスが病的な肥満体の手術を複雑にし、極度の肥満体の人が超過重量の大部分を失うなら(バイパスの後のように)、文字通りの「皮膚のエプロン」として残るかもしれない。
脂肪組織は、結合組織というよりよりむしろ「細胞内マトリックス」のような形態である。脂肪細胞が層を為した小葉構造を微小血管が包む形をとり組織構造が区分されている。
[編集] 生理学
遊離脂肪酸は、リポ蛋白質リパーゼ(LPL)によってリポ蛋白質から「解放され」て、脂肪細胞に入る。そこで、それが、グリセロールにそれをエステル化することによって、トリグリセリドへと組み立て直される。
脂肪細胞には、トリグリセリド維持における重要な生理的役割とインシュリン耐性と遊離脂肪酸水準を決定する役割がある。 腹部の脂肪(内臓脂肪)では、代謝を抑制するという代謝、すなわちインシュリン耐性を皮下脂肪に比して強く誘導する傾向が、近年の内分泌機能の検討により明らかとなりつつある。これは、中心性肥満が損なわれた耐糖能のマーカーであり、心血管疾患の独立した危険因子(糖尿病と高血圧をはじめとして、これら疾患をメタボリックシンドロームと呼ぶ)であることを示唆する。
脂肪組織により分泌されるホルモン
ヒトの幼児やいくつかの動物には、褐色脂肪または褐色脂肪組織と呼ばれる特異化した形の脂肪組織があり、主に首の周りと胸郭の大きな血管に位置する。 この特異化した組織はミトコンドリアにおける酸化的リン酸化の呼吸鎖を途中で「離す」、具体的にはミトコンドリアの内膜の両側に生じた水素イオン濃度勾配をATP生産に使わずにイオンチャンネルを通すだけで解消することで、脂肪酸を分解し、発熱することができる。 この熱発生の過程は、寒さにさらされても、体を暖める為に震えたり、自らを暖かく保つための他の方法をとる事ができない新生児では重大であるだろう。
この過程を薬理学的に刺激する試みは、今までのところ、失敗しているが将来の減量療法の目標であるだろう。
[編集] 文化的社会的役割
現代の世界では、人間の余分な脂肪組織が美意識と医学上の問題であるとしばしば考えられる(ダイエットと肥満を見よ)。 以前や他の社会では、脂肪が美しく微笑ましいと考えられた。 現代の規格によって肥満体であると考えられる人物の、レンブラントと特にピーテル・パウル・ルーベンスによる絵の描写からこれを推論することができる。 後者は女性についての積極的(時に滑稽)な言及として注目に値する量の体脂肪によりルーベンスの法則(rubenesque)という用語を生んだ。
アラブ、西アフリカ、北極圏原住民と多くのラテンアメリカの文化では、多くの男性が頑健または「栄養の十分な」女性をより好む。 先進国、東アジア、および多くの東アフリカの文化の男性の大部分が細い女性を好む。
より一般に、その高い食物エネルギー取り入れと低い身体運動との関連のため、脂肪は大食と怠惰と同様に富と特権のしるしであると考えられるかもしれない。
[編集] 脂肪の消費と運動の関係
一般に言われる「体脂肪が燃焼するのは運動開始から20分後から」は厳密には正しくない。
体脂肪の分解は極論すれば安静時でも行われている。
重要なのは「運動初期に使用されるエネルギーは、性質上迅速にエネルギーに変換されやすい糖に由来する割合が多く、ゆっくりと変換される脂肪由来の割合が少ない」ということである。ゆえに、運動による体脂肪の消費を目的とするならある程度持続的な運動をすることが望ましく、そのめやすが20分という数字である。詳しくは「痩身」を参照のこと。