福井弁
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福井弁(ふくいべん)は、一般的に福井県嶺北(北東部)で使用される日本語の方言を指す。
福井県の嶺北と嶺南(南西部)の方言は区別される。嶺南の方言は舞鶴弁・近江弁に近い。
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[編集] 福井弁の特徴
単語の音便化が進んでおり、「してしまった」→「してもた」、「しておくれの」→「しとっけの」などがある。また、『が』を鼻濁音として用いることが多い。
標準語には無い発音が有り、「してしまった」という意味の「しつゅんたがのぉ」(五十音で敢えて表すとこんな感じ)はその典型。
福井弁の特徴は特に語尾にあり、上下に抑揚をつけて延ばした話し方(一時期はやった、女子高生の語尾を延ばした話し方に似てなくもない)や、「~やのぉ」、「~ねのぉ」、「~やざぁ」、「~んやわぁ(~にゃわぁ)」、「~がのぉ」といった感動詞がよく用いられる。また、東北弁とも似たような発音でもある。
語彙は石川県加賀南部と共通するものも多いが、加賀南部では京阪式アクセントなのに対して、福井弁は北関東などにみられる崩壊アクセント(無アクセント。大野市・勝山市の奥越地方は東京式アクセント)であり、容易に識別可能である。無アクセントは「はし」などの同音異義語を全て同じイントネーションで表現することに象徴される。
地区差や世代差が大きく、福井市中心部と南部(旧清水町など)ですら、お互いに理解できない単語が存在する。その為、「何となく意味がわかるだけ」という不思議な会話になったりする。
同じ県の嶺南地方は関西弁のため、嶺北の人間が普通に話す言葉が分からない。福井県警が作成した電話詐欺防止マニュアルビデオは親しみやすい言葉ということで福井弁で作成したが、嶺南地方にも配ってしまったため税金の無駄遣いと苦情が相次いだ。
テレビでは、若者が話している言葉にさえ字幕が付けられる場合がある。 隣の石川県能登半島輪島市で話されている言葉にとても近い。2007年4月には、能登半島沖地震のインタビュー中継で、全国的に耳にすることができた。
[編集] 語彙
[編集] あ行
- あっぱ【名】―人糞
- あげる【動】―手渡す。自分から他者へ移す。
- 標準語では目上の者から目下の者へ「くれてやる」というニュアンスがあるが、福井弁では、上下関係無しに手渡すというニュアンスになる。
- 他県の人が「あげる」と言われて馬鹿にされたと怒っても、福井県人は何故相手が怒っているのか理解できないことがある。あまりにありふれた言葉のため、方言だという認識が希薄な例。
- あばさける【動】―ふざける。はしゃぐ。
- うら【人名代名詞】―男性の一人称。「俺、おいら、おら」などの系列に入る。
- 複数形は「うらら」。「うらの畑」と言われると、「家の裏」なのか「自分の」なのか分からないが、後者の意味の場合が多い。
- えん【形】―(いる/いない の)いない。「誰もえんのか?(誰もいないのか?)」
- おぞい【形】―ぼろぼろである。質が悪い
- おちょきん【名】―正座「おちょきんしときねま(正座しときなさい)」
- おつけ【名】―味噌汁。
- 標準語では、二の膳三の膳があるような格式ばった和食でメイン料理の後から出される味噌汁を、「膳に付ける」と言う意味で「おつけ」と呼ぶ。これに丁寧語の御を重ねてつけると、御御御つけ「おみおつけ」になり、福井弁の「おつけ」と同じく日常の食事の味噌汁を指すようになる。
- あける【動】―(水などを)こぼす。類義語:「かやす」
- おとましい【形】―もったいない。
- えらい【形】―程度が甚だしい。辛い。「えらい長いんやわぁ(すごく長いなぁ)」「今日は体がえらいんやってぇ(今日は具合が悪い)」
- おぼこい【形】―純粋無垢。(子供っぽいという皮肉にも使われる)
- おもっしぇ【形】―面白い、訳の分からない。困った。
- おとろっしゃ【形】―恐ろしい。困ったものだ。(心配の要素も含む)
[編集] か行
- かしぐ【動】―米を研ぐ。「米かしいだでの(米研いたからね)」語源は調理を意味する古語の「かしく」。「かせぐ」という音便系もある。
- かぜねつ【名】―口内炎の一種。 風邪や疲労など体調不良のとき、口元に出来る赤い発疹。痛みがある。標準語には対応する語彙が存在しない。
- 「かぜ」も「ねつ」も一般的な語彙のため、「かぜねつ」は標準語で方言ではないと誤解されることが多い。
- かたい【形】―健康であるさま。「かたいけの?(元気でいるか?)」
- かやす【動】―(コップにある水などを)ひっくり返す、倒すなどしてこぼすこと
- ぎっとな【形】―義理堅い。
- きのどくな【形】―ありがとう。申し訳ない。(感謝の意味で)すみません。
- 好意や便宜を受けたとき、相手の負担を思いやる言葉。
- 「こんなにしてもろて、きのどくな。(こんなにしていただいて、本当に大変だったでしょう)」
- けなるい【形】―うらやましい。
- ごえんさん【名】―寺院の住職。
- こざにくい【形】―生意気な
- こべんたま【名】―ひたい。福井市清水で行われている「こべんたまつり(こべんた祭)」とは無関係
- こっぺな【形】―(無理に大人ぶっていて)生意気な
- がぼる【動】―(雪や泥の中に足が)はまる
- かど【名】 家・建物の外。「角」の意味にあたる言葉は、「角んとこ」(角のところ)があるため、混同しない。福井市(旧美山町の一部)で主に使われている。
[編集] さ行
- ざいご【名】―田舎。転じて実家を指すこともある。「ざいごのもん(田舎者)」語源は在郷。
- しね【動、命令形】―しなさい。「はよしねま。(早くしなさい)」。
- 県外の者には「死ね」と聞こえるので、時折トラブルになる。
ちなみに「死ね」の命令形は「死にね」
- じゃけらくさい【形】―子供っぽい。幼稚な行いを挿す際使う場合が多い。
- じゃみじゃみ【擬音語】―テレビの砂嵐
- しぇんしぇえ【名】―先生。
- 「さしすせそ」を「しゃ・し・しゅ・しぇ・しょ」と発音したもの。千円札を「シェンエンサツ」、全部を「ジェンブ」、全然を「ジェンジェン」と発音するのもこれと同じ。現在では、年配の人しかほとんど使わなくなった。
- せわしない【形】―落ち着きが無い。
- じょろにする【動】―話を無しにする。始めに戻す。(旧清水町。特に旧三方村の世代が使用。)
- (A)やさけぇ(B)【接】―(A)だから(B)。「~やさかい」の音便形。
[編集] た行
- だわ【形】―怠けている様子。「だわもん」で怠け者を指す。
- ちゃまる【動】―(警察などに)捕まる
- 炊いたの【名】―煮物。「大根の炊いたの(大根の煮物)」
- 煮るときは「炊く」と表現することが多い。「おでんを炊く」「魚を炊く」など。
- ちっくりさす【動】―(爪楊枝などを)刺す。
- ちゅんちゅん【形】―物が高温になっているさま。水がかかると「チュン」と音を立てて蒸発する「焼け石に水」状態を指す。「メカがチュンチュンでやばい(機械が異状に高温でまずい)」
- つまる【動】―(ノートなどを)使いきる。
- つるつるいっぱい【形】―コップに並々とそそぐ様子。
- 液体が表面張力により器から盛り上がって、あふれる寸前の状態を指す。
- ~(ん)たな【連体】―~みたいな。
- だんね―別にかまわない。気にしなくて良い。
- 丹南地区(福井市殿下・清水地区などを含む)で用いられる。
- (お)てきねぇ【形】―病気・体の調子が悪いこと。「てきない」とも言う。「てきねぇんけ?(具合悪いの?)」
- 怪我の場合(痛み、四肢の不自由など)には使用しないが、怪我に付随する発熱やだるさなど、病と共通する体調不良には使用する。
- てなわん【形】―気がきつい。やんちゃな。抜け目が無い。
- どぼすずく【形】―(滴が落ちるくらいに)濡れている。ずぶ濡れ。
- 水が大量にどっぷり有る様をドボドボと言う。すずくは「雫(しずく)」のこと。
[編集] な行
- なげる【動】―捨てる
- 煮たの【名】―煮物。「沢庵の煮たの(沢庵の煮物。福井の郷土料理)」
- なも―重ねて使うことも多い。英語の 「you are welcome」や「何も~ない」、「別に~ない」 に相当する語。「悪いのぉ。」「なもなも。だんねってぇ。(別にいいよ、気にしないで)」
- なろ【助詞】―動詞に付き、促す意味にする助詞。強制力の弱い命令形。
- 「見なろ(見ろよ)」「買いなろ(買いなよ)」「落ち着きなろ(落ち着けよ)」
- ね【助詞】―動詞に付き、命令形にする助詞。
- 「しろ 見ろ 食べろ 寝ろ」では「しね 見ね 食べね 寝ね」になる。
- 「聞け 行け 落ち着け」では「聞きね 行きね 落ち着きね」になる。
- 「帰れ おくれ」では「帰んね おくんね」になる。
- 「食え 言え 買え」では「食いね 言いね 買いね」になる。
- 「死ね」は「死にね」になる。
- ねんね【名】―赤ん坊、幼い子供を指す
- のくとい(のくてー)【形】―愚かなさま。馬鹿だ。「温い(ぬくとい)」の音便形。「のくてーのー(バカだなー)」「のくてぇやっちゃ(馬鹿なヤツだ)」
- のんのさん【名】―仏様
- の【助】表現をやわらかくする助詞。「買いねの(買っちゃいなよ)」
【感動詞】ねえ (呼びかけ)
[編集] は行
- ほや(相づち)【感】―そうだ。「ほやのー(そうだね)」「ほやほや(そうだそうだ)」
- 羽二重餅―福井の銘菓。やわらかいもの、木目が細かい物の例えによく用いられる。
- ひっで(もん)【副詞】とても。甚だしく。ひどく。
【形容詞】凄まじい。ひどい。
- ほんなもん【名詞】- そんなもの 「ほんなもん捨ててまいねやー(そんなもの捨ててしまえよ)」
福井弁の場合「そ」が「ほ」になる。 その⇒ほの それで⇒ほれで そして⇒ほして そこ⇒ほこ そっち⇒ほっち そんな⇒ほんな etc...
[編集] ま行
- もつけない(もつけねえ)【形】―かわいそうな。
- 相手への同情を示す間投詞としても用いられる。語呂での覚え方は「持つ毛ねえのはかわいそう」
- ものごい【形】―精神的に苦痛を感じること。精神的にしんどい。病による身体的苦痛の場合は「てきない」になる。
- まんまんちゃん【名】―仏様。転じて仏壇や墓。主に福井市清水地区(旧清水町)で使われる。
[編集] や行
- よさり【名】―夜中のこと。夜更け(ヨフケ)。古語の「夜更なり(ヨルサラナリ)」がつまったもの。
- よしかかる【動】―よりかかること。
[編集] わ行
- わらびしい【形】―幼稚な。悪い意味で幼い。語源は「童しい(ワラベシイ)」。反対語は「大人しい」。
[編集] 使用例
[編集] 会話
A)「のぉ、この靴下ぁ、おぞなってもたんやけどぉ。」
- 【訳】「ねえ、この靴下穴が開いちゃったの…。」
B)「あらぁ、はよからおもっしぇとこに穴空いてもてぇ。どもならんで、もうなげてまいねのぉ。もつけねぇ…。」
- 【訳】「あら、こんなに早くから変な所に穴が開いちゃって…。もう、どうしようもないから捨てちゃったら?」
[編集] メディア・固有名詞において
- タウン誌「月刊URALA」―私たちという意味の「うらら」とフランス語の「Ouh la la」をかけている。
- NHK総合「ほやほや情報」―相槌の「ほやほや」と「出来立てほやほや」の「ほやほや」をかけている。
- 福井テレビ「ふくい浪漫 い~ざぁええDay」―「い~ざぁ」と「ええDay(デー)」。どちらも「良いですよ」という意味。
- AOSSA―福井駅東口再開発ビル(手寄地区再開発ビル)の愛称。「会おうよ」という意味の福井弁「会おっさ」に由来する。
- みくにショッピングワールド・イーザ(iza)―福井県坂井市三国町にあるショッピングセンター。「いいよ」という意味の福井弁「いいざ」に由来する。
[編集] その他
- 福井弁を用いた英単語の覚え方「どっちでも『い~ざ~(either:どちらも~)』」「どっちでも『ねぇざ~(neither:どちらも~ない)』がある。
- 文章を音節に区切るとき、福井弁のように「の」(発音は「のぉ~」)をつけると分けやすいという。
- 例文:「今日、私は家で数学の勉強をした。」→「今日の、私はの家での数学のの勉強をのしたの。」