肥満
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肥満(ひまん, obesity)とは一般的に、正常な状態に比べて体重が多い状況、あるいは体脂肪が過剰に蓄積した状況を言う。体重や体脂肪の増加に伴った症状の有無は問わない。
主にヒトを含めた哺乳類で使われることが多い。以下ではヒトにおける肥満について論じる。
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[編集] 肥満の診断
肥満は概念的には明確なアイディアであり、概ね標準体重より20%以上体重が超過した辺りからを肥満と呼ぶ、とは言えるが、肥満であると医学的に診断するには明確な判定基準が必要である。いろいろな説があるが、最も頻繁に用いられる基準を紹介する。
[編集] 体重による肥満の診断
現在、成人においては、体重による肥満診断として、BMIが頻繁に用いられている。日本肥満学会基準によると、BMIが、
- 17.9以下なら低体重(やせ気味)
- 18.0以上24.9以下なら正常
- 25.0以上29.9以下なら肥満度I
- 30.0以上34.9以下なら肥満度II
- 35.0以上39.9以下なら肥満度III
- 40.0以上なら肥満度IV
である。
乳幼児ではBMIはKaup指数と呼ばれ、18.0以上が肥満傾向とされる。
学童では、Röhrer指数(=10×体重[kg]÷(身長[m])の3乗)が160以上で肥満とされる。
これらは身長と体重から単純に計算された値であるから(成人の正常体重ではBMI=22)、大体の目安にはなるが、これだけでは筋肉質なのか脂肪過多なのか、皮下脂肪型肥満なのか内臓型肥満なのか、一切分からないという批判を受ける。 BMIは標準体型の人には当てはまるが、骨太の人、足長な人、骨細の人、筋肉の多い人等には間違った判定が出る欠点がある。
このため、肥満と診断する際は下のような定義と併用することがある。
[編集] 体脂肪率による肥満の診断
適正な体脂肪率は、男性では15~19%、女性では20~25%である。これを下回ると低脂肪で、これを上回ると肥満となる。体脂肪率を用いれば、いわゆる隠れ肥満がつかめ、また、筋肉質なのか脂肪過多なのかも分かる。しかし、正確な体脂肪率の測定には困難を伴うため、いまだその値の扱いをめぐって一定の見解をみていないのが現状である。 CT・MRI等で体脂肪面積を測定し、体脂肪率を推定するのが最も正確と言われる。
[編集] その他の肥満
後に述べる症候性肥満の中には、中心性肥満などの特異な肥満像を呈するものがある。通常は内科医師などによって発見・診断される。
[編集] 肥満による健康への影響
肥満は数多くの疾患のリスクファクターとなる。特に、皮下脂肪型よりも内臓脂肪型(腹部CT上、内臓脂肪と皮下脂肪の比が0.276以上で診断)のほうが、合併症の頻度は大きくなる。
[編集] 分類
[編集] 単純性肥満
単純性肥満は、運動不足やエネルギーの摂取過剰によってもたらされたものである。小児では両親の一方、もしくは両方供に肥満であることが多く、身長が暦年齢相当で、精神運動発達は正常、奇形は見られない。
[編集] 病的肥満
病的肥満とは、呼吸や歩行などに困難を来たすほどに高度となった肥満のことであり、しばしば手術の適応となる。
[編集] 症候性肥満
代謝異常や内分泌疾患の一部でも肥満を来たす。これらを症候性肥満と言う。症候性肥満の例として、以下のようなものがある。
- 視床下部性肥満 : プラダー・ウィリー症候群 - フレーリッヒ症候群 - ローレンス・ムーン・ビードル症候群
- クッシング症候群では副腎皮質ステロイドの過剰による症状として、中心性肥満を呈する。
- 甲状腺機能低下症では甲状腺機能の低下によって脂肪分解が阻害され肥満となる。
- カルシウム代謝に関連するホルモンであるPTHに対する細胞の反応異常を示す偽性副甲状腺機能低下症のIa、Ic型や偽性偽性副甲状腺機能低下症では、AHO体型(肥満、低身長、円形顔貌、中手骨・中足骨の短縮など)を特徴とする肥満を示す。
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性は、男性化(多毛、にきび、低声音など)と肥満を示す。
- 薬物性肥満は薬物の副作用としての肥満のことであり、副腎皮質ステロイド薬などで見られるものが特に有名である。
[編集] 統計
単純性肥満は肥満の約90%を占める。
小児の肥満も最近増加している。高学年の小学生では、男子の10%、女子の8~9%が肥満であり、その9割以上が単純性肥満である。
[編集] 原因と治療
単純性肥満の原因は、エネルギー摂取過剰と運動不足によるものであるから、肥満の治療は、エネルギー摂取の制限と、運動療法が主になる。
肥満の生じやすい家系や、いくら食べても太りにくい人が存在することについて、遺伝的要因の存在があるものと考えられている。20世紀終わりに、レプチンというホルモンがエネルギーの消費増加と食物摂取量低下をもたらすという発見がなされ、肥満遺伝子の発見例として話題になった。
症候性肥満では、原疾患の改善に努める。