識字
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識字(しきじ)とは、文字(書記言語)を読み書きし、理解できること。
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[編集] 概説
日本では読み書きとも呼ばれた。読むとは文字に書かれた言語の一字一字を正しく発音して理解出来る(読解する)事を指し、書くとは文字を言語に合わせて正しく記す(筆記する)事を指す。
日本では江戸時代の庶民向けの教育機関であった寺子屋の主要な科目であった。一方、かつてのヨーロッパでも文字が読めるとはラテン語ができるという意味だった。
この識字能力は、現代社会では最も基本的な教養のひとつで、初等教育で教えられる。生活のさまざまな場面で基本的に必要になる能力であり、また企業などで正式に働くためには必須である。
文字を読み書きできないことを文盲(もんもう)・非識字といい、そのことが、本人に多くの不利益を与え、国や地域の発展にとっても不利益になることがあるという考えから、識字率は基礎教育の浸透状況を測る指針として、広く使われている。世界の識字率(対:文盲率)は、第二次世界大戦後、順調に向上しているが、まだ世界の全ての人がこの能力を獲得する教育機会を持っているわけではない。ユネスコなどが主に識字を推進している。
全ての文化で文字があるわけではなく、これまでは侵略者がそのような先住民を未開社会と呼ぶことが多かったが、近年では無文字社会と言い換えることが多くなっている。
[編集] 国別の識字率
識字率は初等教育を終えた年齢、一般には15歳以上の人口に対して定義される。識字率を計算する場合、母語における日常生活の読み書きができることを識字の定義とする。全世界の識字率は、約75%である。
以下では、UNESCOが公開した2002年時点の国別の識字率を中心に、地域ごとの傾向を示す。人口が1億人以上の国を取り上げた(囲み)が、識字率が特に高い国と低い国をそれぞれの地域について1カ国ずつ示した。なお、アメリカ合衆国、多くのヨーロッパ諸国、オセアニア諸国については他国と比較できる統計が公表されていない。ただし、これらの数値は信頼性に疑問符が付く。元となった調査の方法、サンプル、調査の際の識字の定義などに問題があるためである。たとえば、日本の調査では障害者、病弱者などが調査対象から一律に排除されている。
例えば、日本においてろう者は日本手話という視覚的言語を用いるが、話し言葉を第一言語として使う。また、アイヌ民族など、先住民族たちはアイヌ語などの書記言語は持たない。 またアメリカのような多民族国家は、識字率は母語(第一言語)で測定するため80%程度の調査結果が出るのだが、母語=公用語とは限らないため英語に限った場合人口の50%程度しか解していないとも言われている。 そういった視点を含めた統合的な調査方法・統計手法などが開発さていない現状が、識字率という観点で世界的な比較を行うことの難しさを示している。
[編集] アジア
- 日本 - 99.8%(男性99.9%、女性99.7%)
- 中華人民共和国 - 90.9%(男性95.1%、女性86.5%)
- インドネシア - 87.9%(男性92.5%、女性83.4%)
- インド - 58.0%(男性69.0%、女性46.4%)
- パキスタン - 41.5%(男性53.4%、女性28.5%)
- バングラデシュ - 41.1%(男性50.3%、女性31.1%)
- タジキスタンとアフガニスタンは隣国同士である。
[編集] アフリカ
[編集] 北アメリカ
[編集] 南アメリカ
- ブラジル - 86.4%(男性86.2%、女性86.5%)
[編集] ヨーロッパ
[編集] 識字に関する基本文献
- あべ・やすし「均質な文字社会という神話−識字率から読書権へ−」『社会言語学』VI、2006年
- あべ・やすし「漢字という障害」(ましこ・ひでのり編著『ことば/権力/差別』三元社)、2006年
- 菊池久一『<識字>の構造−思考を抑圧する文字文化−』勁草書房、1995年
- 角知行「「日本人の読み書き能力調査」(1948)の再検討」『天理大学学報』第208輯、2005年
- 角知行「文字弱者のプロフィール−日米のリテラシー調査から」『天理大学人権問題研究室紀要』第9号、2006年
- 鈴木理恵「江戸時代における識字の多様性」『史学研究』209、1995年
- 鈴木理恵「近世後期における読み書き能力の効用−手習塾分析を通して−」『社会言語学』VI、2006年
- 日本社会教育学会編『国際識字10年と日本の識字問題』東洋館出版社、1991年