選抜射手
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選抜射手(Designated marksman-DM)はアメリカ軍歩兵分隊において、スコープ付のセミ・オートマチックライフルを使用し500メートル以内の敵兵に対して正確な射撃をする事に専門化された兵士である。(イスラエルにおいては「分隊の狙撃手」とされており、ソ連(ロシア)ではドラグノフ狙撃銃を持つ兵士がこれに相当する)。選抜射手は狙撃手のように精密射撃の訓練をするが、本物の狙撃手とは違い、彼らの役割は正確な射撃をより素早く行うことである。
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[編集] 武器
いわゆるマークスマン・ライフル(Designated Marksman Rifle-DMR)は、ちょうど選抜射手が歩兵と狙撃手の役割の差を埋めるているように、狙撃銃とアサルトライフルの中間を埋める銃として設計されている。マークスマン・ライフルはアサルトライフルよりも精確で、500メートル程度まで弾道学的に有効な射程と精度を持つが、狙撃銃のような1000メートルもの射程は無い。
[編集] 特徴
狙撃銃と共通の特徴:
- スコープ付照準器
- 通常より強力な弾薬 (NATO では通常 7.62mm NATO弾が使用され旧ソ連圏では7.62 x 54 mm Rが使用される)
アサルトライフルと共通の特徴:
- ボルトアクションよりも高速なセミ・オートマチックライフル
- 10-30発の装弾数
最も簡単な方法として、既存のアサルトライフルに以下のような装備を追加して使用する事がある。
- スコープ付照準器
- 二脚
- 調整可能なストック
[編集] 通常の小銃からの流用
ここではM14のようなセミオートマチックライフルについて言及する。
5.56mm NATO弾を使用するM16のようなアサルトライフルに取って代わられたFN FALやH&K G3のような銃は、使用する弾丸の口径が大きいため、マークスマン・ライフルに適している。
このようなマークスマン・ライフルの例:
- M14をマークスマン・ライフル用に改良したM21 Sniper Weapon System
- M14を改良したアメリカ軍海兵隊マークスマン・ライフル(U.S. Marine Corps Designated Marksman Rifle ,DMR)
- H&K G3のG3SG/1
[編集] アサルトライフルからの流用
これは最も簡単でコストパフォーマンスの高い方法である。既存のライフルを転用することが出来るからである。スコープ付照準器を追加するだけで、弾薬はそのままに使用できる。
より効果的な方法はアサルトライフルの弾薬をより強力な7.62mm NATO弾などに変更する事である。
使用弾薬を5.56 x 45 mm NATOのままでマークスマン・ライフルに転用したライフルの例:
- アメリカ合衆国陸軍マークスマン・ライフル(United States Army Squad Designated Marksman Rifle ,SDM-R) -M16からの派生型
- アメリカ合衆国海兵隊上級マークスマン・ライフル(U.S. Marine Corps Squad Advanced Marksman Rifle ,SAM-R) --M16からの派生型
- M16A2E3-M16の派生型
- M16を大幅に改良したアメリカ合衆国マーク12 Mod X特殊目的ライフル
- L86A2 LSW-当初はイギリス陸軍に分隊支援用として導入されたが、FN MiniMiの導入後、DMRとして使用されることとなった。元々分隊支援用の銃であり、どの点をとってもDMRとして申し分なく、既存のスコープを使用すれば非常に精確な銃である。
アサルトライフルの弾薬を変更した例
アサルトライフルで弾薬口径が7.62 x 39 mmの銃を流用した例
- カラシニコフ M70 assault rifleの改良型のTabuk狙撃銃
[編集] マークスマン・ライフルとして設計された銃
- ドラグノフ狙撃銃は最初からマークスマン・ライフルとして設計された銃である。
- ルーマニアのPSLはドラグノフ狙撃銃に似ているライフルで、カラシコニフ・アクションを改良して作られた銃である。
[編集] 狙撃手との違い
[編集] 役割
- 狙撃手はしばしば歩兵隊から独立して行動する。
- 選抜射手は全く普通の歩兵であり、機関銃手や擲弾手のようなものである
[編集] 武器
- 狙撃手は通常、精度を優先してボルトアクション狙撃銃かセミ・オートマチック狙撃銃を使用する
- 選抜射手は通常、素早く射撃をするために多少精度を犠牲にして、改良型のアサルトライフルかマークスマン・ライフルを使用する
[編集] 射程
- 狙撃手は主に1500メートルまでの距離を射程とする
- 選抜射手は主に800メートルまでを射程とする
[編集] 行動
- 狙撃手は通常戦略的な行動をし、ギリー・スーツのようなカモフラージュをする。頻繁に位置を変える事は少ない。
- 選抜射手は通常、頻繁に移動するし、他の兵士のようにカモフラージュはしていない。
[編集] 世界各国での役割
[編集] イスラエル国防軍 (IDF)
長い間狙撃能力の不足に悩まされたイスラエル国防軍(IDF)は、1990年代に狙撃ドクトリンの大きな改変を実施した。訓練、教育課程は一新され、狙撃手達はM14に代わってM24を装備した。その中でも大きな変化は新しい役割である選抜射手(ヘブライ語で"kala saar") の導入であり, これは歩兵小隊と狙撃手の間の溝を埋めるために導入された。その役割を説明するため、一般的に「分隊の狙撃手」と呼ばれる。この新たな試みは、後年の第2次インティファーダにおいて、大成功であることが示された。選抜射手が多数の敵兵を殺傷した事で、選抜射手が歩兵小隊において重要な位置を占めることが分かった。一例として2005年、ヒズボラがイスラエル北国境のRagharのDruze村に攻勢を掛けようとしているのを、一人の選抜射手が阻止し、RPG射手を含む4人の敵兵を殺傷した。
[編集] アメリカ陸軍
アメリカ合衆国陸軍はM16を改良したSPR Mk12を使用している。これはアメリカ海兵隊の分隊上級マークスマンライフル(Squad Advanced Marksman-Rifle,SAM-R)と類似の改良をM16に加えた物である。
[編集] ソ連の狙撃手
- 詳細はソ連の狙撃兵を参照
ソ連とその同盟国は第二次世界大戦以来、分隊ごとの交戦距離を伸ばすため(600メートル前後まで)、分隊レベルで精密射撃ができる兵士を育成し、特別な訓練と装備をしてきた。名称こそ狙撃手と呼ばれるものの、この訓練された兵士はまさに最初の選抜射手そのものであった。
1963年から彼らは典型的なマークスマン・ライフルであるドラグノフ狙撃銃を装備した。この銃はスコープ付照準機、セミ・オートマチック機構、標準的な中口径弾薬を使用している。