重力波 (相対論)
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重力波(じゅうりょくは)とは、一般相対性理論において、運動する物体の重力質量によって生ずる時空のゆがみが波動として伝播したものである。流体力学における重力波とはまったく異なる。
重力波の伝播速度は光速に等しい。重力子が媒介すると言われているが、未検出である。
重力波の方程式は、計量テンソル gρσ に関して、
と表される。(gμν は、gμνの反変成分である。μ,ν,ρ,σ は、いずれも 0,1,2,3 の値をとり、0 は時間成分[x0=ct, c:光速度]、1,2,3 は空間成分である。μ,ν に関しては、これらの値に関して和をとるものとする。
[編集] 起源
一般相対性理論が日常生活で意識される事が皆無であるように、この理論から予言される重力波の振幅は非常に小さい。地球上の物体の運動では、たとえインド洋の巨大地震による海水の運動のようなものであっても、重力波そのものを人間が直接認識する事がないほどである。
重力波の起源は宇宙に求める事が、物理学者たちによって期待されている。想定される起源としては、以下のようなものがある。
いずれにせよ、一般相対性理論を用いて初めて十分な説明が出来る天文現象である。
[編集] 検出
重力波の検出は困難を極め、10-21以下の歪を検出する必要がある。これは地球と太陽の距離(一億五千万キロメートル≒1011 mのオーダー)に対し、10-10 m = 0.1 nm = 1 Åの変化量に相当する。実際の検出は、レーザー光の干渉を使う。レーザーから出た光を直交する二方向に分け、重力波が通過した時の四重極の歪による、二方向の距離差(理想的には片方は伸び、もう片方は縮む)による干渉縞の変化から重力波を検出する。実際は、二方向に分けたレーザー光を共振させるなどして、光路としての距離を少しでも長くする必要がある。2003年現在、重力波は直接的な意味では検出されていない。ただし、間接的には、その存在が確認されている。テイラーらのグループは、中性子星どうしの二重星を観測し、その軌道周期が徐々に短くなっていることを突き止めた。この現象は、重力波によってエネルギーが外に持ち出されたことで起きるとされ、その周期減少率は一般相対論の予言値に誤差の範囲内で一致した。彼らはこの業績により、1993年ノーベル物理学賞を受賞した。
レーザー光の干渉を用いた観測装置は、アメリカのLIGOが2004年末時点でもっとも感度が良い。最初に本格的な観測を開始したのは、日本の国立天文台にあるTAMA300である。その他、イタリアとフランスの共同施設であるVIRGO、ドイツのGEO600などが観測に向けて準備を行っている。これらの装置は特性上、感度は上記の起源の 1-3 に適していると考えられている。将来には日本でもLCGTと呼ばれる、感度を上げた観測装置を神岡に建設しようという計画が進められている。
また、宇宙に観測装置を打ち上げて重力波を検出しようというLISAがNASAによって計画されている。これは初期宇宙起源の重力波を捉えるであろうと期待されている。