鎖帷子
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鎖帷子(くさりかたびら)は、鎧形式の防具の一種。洋の東西問わず、中世から現代まで使用し続けられている。西洋の物はチェインメイル(英: chain mail)とも言う。日本の物は、衣服の下に着用する場合着込みという名称が使われる。
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[編集] 基本的な構造
細く伸ばした鋼線で輪を作り、それらを互いに連結して服の形に仕立てた物である。リングを平たく叩き潰してワッシャー状にし、それらを組み合わせて作られた物や、鎖をそのまま布に縫い付けた物も存在する。
西洋では14世紀頃までは、鉄板から打ち抜くなどして作った継ぎ目の無い輪と、鉄線から作った継ぎ目のある輪を交互に使って鎧として編んだ。編み方には幾つかの方法がある。一つの輪に隣接する幾つの輪を通すかで4 to 1、6 to 1、4 to 2などに分類される。個々の輪の開いた末端は、通常リベットでかしめた。歴史的な物では、針金をそのままドーナツ状にした物よりもこちらの方が軽くて丈夫であった。現代では、通常は木の棒に鋼線をぎっしりと長く巻き付け、コイル状にした物を棒に沿って切断することで多数の輪を一度に作る。
[編集] 利点
[編集] 柔軟性と高い防御効果
鎖帷子の大きな特徴は、金属板を成形して作られた鎧や皮革を煮固めて作られた鎧などと違い、高い柔軟性を持つ事である。身体の動きに対応するので長時間着用しての行動が可能で、戦場以外での警戒活動にも適する。ただ、全重量が肩に掛かるという欠点もある(腰にベルトを付けられるよう作れば、重量はいくらか分散される)。また、鎖帷子は刃物による斬撃に対し非常に高い防御効果を示す。反面、刺突・打撃に対しては防御効果は低い。とは言っても、よほど細く鋭い刃物でない限り鎖帷子の隙間を貫くのは困難で、打撃も直撃しなければ表面を滑る程度で済む。
このような性質から、鎖帷子は現代においても防刃着として用いられる場合がある。その場合、ボディアーマー(防弾ベスト)との併用が行われる。ケブラー製のボディアーマーは、弾丸を繊維で絡め取る為非常に効果的であるが、分散緩和する形で衝撃をストップさせる為、刃物で刺されたり、弾丸でも尖った弾頭や細く鋭い高速弾頭が使われた場合は防げない。それを補う意味で、ケブラー繊維同士の間に鎖帷子を挟み込み、その防御力を向上させるのである。2006年現在は、強化樹脂製の防刃パネルを併用する場合が多い。
素肌にそのまま着ると、跡が付く、冷たい、肌がこすれる、汗で錆びるなどの難点があることから、金属鎧と同様に、下に柔らかい布製の鎧下を着用する場合が多い。この鎧下は、打撃武器の衝撃緩和の意味合いも強い。隠密行動に携わる人間が着用する場合は、塗料や煤で黒く塗り光を反射しないようにしたり、二枚の布に挟み込んで、金属同士がこすれる音を低減させたりしたと言われている。
[編集] 他の防具との併用が可能
もう一つの特徴として、服のように重ね着が可能という点が挙げられる。
身分の高い者が保身の為に薄手の物を平服の下に着用したり、戦場においても革鎧と共に着用して防御力を向上させたりした。騎馬を使用して戦場の最前線に立つ重装騎士に至っては、薄手の革鎧か綿の入った鎧下を着用した上でこの鎖帷子を纏い、さらにその上に全身を覆う鋼の甲冑を付けるという場合もあった。全身甲冑を身に纏っても、首・脇の下・肘の内側・手首・指・股間・膝裏などの関節部分は防御の及ばない急所になるが、鎖帷子はその柔軟さからそれらの部分もカバー出来た。しかし、ただでさえ重量のある板金甲冑の下にさらに鎖帷子を着込む事は、実用上厳しかった局面が多い。また、胸甲の下にさらに鎖帷子があっても防御面では大きな意味を為さない。その為、間接部分の各急所のみに鎖帷子状の補強を施した鎧下の方が西洋では普及していった。部分的な胸甲や、肘・手首を守る篭手だけを身に纏う際に鎖帷子を併用した例もあるが、これはどちらかというと鎖帷子の延長である。
日本でも鎖帷子は重宝されていた。諜報活動に従事する忍者が薄手の鎖帷子を身に付けることがあったほか、街中での小規模の抗争や取り締まりなどにも鎖帷子が用いられることがあったという。新撰組なども鎖帷子を着用しており、ところどころを革や金属で補強したパーツと組み合わせて使用していた。ただし、鎖帷子は例え薄手であっても着れば重くて動きにくくなる為、諜報活動に携わる忍者が鎖帷子を愛用していた可能性は低く、忍者がそうしていたとする説は後世の各種創作物の中での誇張である可能性が高い。
[編集] 手入れ方法
鎖帷子は磨耗・消耗をしやすいので、定期的な手入れが必要となる。
基本的には、油を含ませた布で磨いて錆を未然に防ぐ。既に錆びてしまった部分は、布を用いて磨き粉で擦って削り落とし、油を塗布して再度錆びるのを防ぐ。かつては、錆びた部分があまりに多い場合や多数の鎖帷子を一気に錆落としせねばならない場合は、砂の入った大きな容器に鎖帷子を入れ、洗濯機のごとく棒でかき回して錆落としを行った(非常な重労働であったという)。
斬れたり千切れたりした部分は、同じ材質の針金で縫い合わせる。肩・腕・胴等に分割が可能な物は、その部分ごとに取り替える。