D端子
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D端子(ディーたんし)は、ビデオ機器のアナログ映像信号を伝送するために規格された日本独自の接続端子である。
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[編集] 概要
従来は、コンポーネント映像信号(SD信号専用は「Y/Cb/Cr」、HD信号にも対応した端子なら「Y/Pb/Pr」と表記される)を伝送するためにコンポーネント端子を用いていたため、入力側・出力側それぞれ3つの端子の間を計3本のケーブルを使って接続する必要があった。これを1本のケーブルで接続できるように端子を1つにまとめたものがD端子である。また、コンポーネント映像信号だけではなく、走査線数・走査方式・アスペクト比を切り換えるための識別信号の伝送も可能になり、プラグ挿入の検知機能も付いた。
D端子という名称は、モデルとなったDFPコネクタの形状がD型をしていることから命名されたものである。主にデジタル放送受信・録画再生機器に用いられることからD端子の「D」は「デジタル」を示していると誤解されることが多いが、前述の通りあくまで形状による命名であり、内部の信号はアナログ信号である。(DFPコネクタ自体はデジタルコンポーネント信号RGBHV)
コネクタは14のピンを7つずつ2段にまとめた構造をしており、そのうち輝度信号の伝送に2つ、色差信号の伝送に4つ、走査線数・走査方式・アスペクト比を切り換えるための識別信号の伝送に3つ、プラグの挿入を検知するために2つのピンを用い、残り3つのピンは予備ライン用である。なお、識別信号を伝送する場合は外被(FG)の接続が必須となるため、実質的な端子数は15となる。また、ハンディカム等、機器の都合で物理スペースが十分に確保できない場合、特殊D端子が用いられることがある。
コンポーネント端子と比べても値段は殆ど変わらず、省スペースなため、日本国内において近年急速に普及しており、コンポーネント端子よりも普及しているが、コネクタの構造(接続部での整合が取れない・信号線のシールドが維持できないなど)に起因して画質が若干コンポーネント端子に比べて劣るという声もある。なお、日本独自の規格であるため、諸外国の製品では特に日本向として生産されたものでない限り採用されていない。
なお、映像信号のみの伝送に用いる端子であるので、音声の伝送は行わない。機器間で音声信号も受け渡したい場合には、音声についてさらに別線(RCA端子など)で接続する必要がある。
D端子は日本国内のデジタル放送視聴用の標準規格として制定されたが、信号の伝送がアナログで行なわれていることから「HD素材の権利保護が十分でない」とするコンテンツホルダーの意向により、近い将来HDMIに取って代わられると見られている。
[編集] 規定されている規格
映像信号規格(フォーマット)ごとに対応規格がさらに細分化されていている。端子の形状は全て同一。
映像信号規格の名称表記については、有効走査線数と総走査線数(本文では( )内表記)による表記がある。また、ドット数表記は水平×垂直を表す。映像信号規格の区分名称はその映像フォーマットの垂直解像度を表していて、表記している水平解像度は想定される対象の信号フォーマットの最大サイズを示しており、実際に伝送対象の映像フォーマットには表記以外のものより小さいサイズの映像フォーマットも含まれる。(#D端子規格と映像信号規格の相関関係を参照)
[編集] 対応規格
- D1 480i(525i): 720×480ドット インターレース
- アナログテレビ放送(NTSC)、BSデジタルのSD放送と同等の画質。またDVD-Videoもこの画質である。DVDなどのデジタル圧縮映像用にはこのD1(Full D1)の他に3/4 D1(544×480)、2/3 D1(480×480)、1/2 D1(352×480)、1/4 D1(552×240:CIF)もD1での伝送対象に含まれる。
- 走査方式はインターレース表示。映像信号はコンポーネント映像信号で、伝送時の信号分離方法がS端子の場合と異なるため、理論上はS端子の場合よりさらに画質が向上しているとされるが、実視聴上はほとんど変わらないという評価もある。
- ワイドサイズ(縦:横=16:9)映像の場合は、720×480内に横方向を圧縮する形で記録されている。(参考:スクイーズ方式)
- D2 480P(525p): 720×480ドット プログレッシブ
- D3 1080i(1125i): 1920×1080ドット インターレース
- ほとんどのハイビジョン放送番組がD3で放送されている。
- 1920×1080の他に1440×1080のフォーマットもあり、2006年現在、実際のデジタルテレビ放送や撮影機材の規格として実際に多用されている。(映像フォーマット上は画面のサイズ比が横:縦=4:3になるが、表示時に16:9の画面サイズに拡大される。参考:スクイーズ方式)
- D3信号は、従来のアナログハイビジョン放送のベースバンド信号と互換性がある。このため、1990年代に発売されていたアナログハイビジョンテレビであっても、ハイビジョンコンテンツをハイビジョン画質で視聴する事が可能である(ほとんどの製品は、入力端子が「RCA×3」または「BNC×3」なので、その機種に合った変換ケーブルが必要)。
- ハイビジョンビデオカメラ(HDV規格)では、民生機でも放送取材用でも、多くがD3以上での映像信号出入力端子が標準装備となっている。
- D4 720P(750p): 1280×720ドット プログレッシブ
- プログレッシブ表示ではあるが、画素数の関係からD3の方が画質視聴上では綺麗だという評価が多い(ただし、液晶やプラズマディスプレイなどプログレッシブ方式の大画面テレビが一般化してきているほか、パーソナルコンピュータでのデジタル放送視聴が増えており、これらの環境ではI-P変換の弊害が無視できないため、最終的な視聴画質ではD4のほうが良いという意見も根強い)。BSデジタル放送初期の一部を除き、現時点では720Pでの放送はされていないが、多くのデジタルハイビジョンテレビはD4入力までの対応になっている。またHDV規格家庭用ハイビジョンビデオカメラの一部でもD4出力対応のものがある。
- D5 1080P(1125p): 1920×1080ドット プログレッシブ
[編集] D端子規格と映像信号規格の相関関係
D1~D5の名称は個々の映像信号規格の名称ではなく、端子が対応している映像信号規格の種類別に付けられたD端子規格内の区分を表している。各対応規格とも1種類の映像信号への対応のみではなく、以下のように下位の区分規格に対して互換を保証している。
表示 | 映像信号フォーマット | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
480i | 480p | 1080i | 720p | 1080p | ||
D 端 子 規 格 名 称 |
D1 | ○ | ||||
D2 | ○ | ○ | ||||
D3 | ○ | ○ | ○ | |||
D4 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
D5 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
[編集] 端子構造と伝送情報
[編集] ピン配列
ピン | 信号 | ピン | 信号 |
---|---|---|---|
1 | Y | 8 | 制御信号(識別信号1) |
2 | Y GND | 9 | 制御信号(識別信号2) |
3 | Pb | 10 | 予備2 |
4 | Pb GND | 11 | 制御信号(識別信号3) |
5 | Pr | 12 | ホットプラグ検出 GND |
6 | Pr GND | 13 | 予備3 |
7 | 予備1 | 14 | ホットプラグ検出 |
[編集] 制御信号
識別電圧 | 識別信号1 総走査線数(有効走査線数) |
識別信号2 走査方式 |
識別信号3 画角 |
---|---|---|---|
5V | 1125(1080) | プログレッシブ | 16:9 |
2.2V | 750(720) | (未定義) | 4:3レターボックス |
0V | 525(480) | インターレース | 4:3 |
識別信号の電気仕様や識別信号3の意味はS2端子のものと同じ。また、これらの信号のGNDはケーブル外被(シールド・FG)を使用する。このため、識別信号を使用する接続では両端の機器は必ずグラウンド・ループを構成することになる。
[編集] 参考文献
- EIAJ RC-5237「デジタル放送映像信号(Y, Pb, Pr)接続用D端子コネクタ」 日本電子機械工業会、1999年7月制定
- D端子コネクタの外形・定格について規定
- EIAJ CP-4120「デジタルチューナとテレビジョン受信機のD端子接続」 日本電子機械工業会、2000年1月制定
- コネクタの信号配置、各信号の電気的特性、輝度・色差信号の測色パラメータ、ケーブルの特性、対応機器におけるD端子の表記など、コネクタの外形・定格以外の条件について規定
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