DLP
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DLP(ディーエルピー)とは、デジタルミラーデバイス (DMD)を用いた映像表示システムのこと。Digital Light Processingの略で、テキサス・インスツルメンツの登録商標である(1987年登録)。
2004年現在プロジェクタ市場の47%を占め[1]、液晶式プロジェクタと市場占有率を争っている。
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[編集] 構造
白色に光るランプの光をレンズで集光し、DMDに当てる。DMDの個々のミラーがオン状態に傾いているときの光を他のレンズで拡大し、スクリーンに投影する。DMDミラーがオフ状態に傾いているときの光は投影レンズに入らずに捨てられる。
ミラーをオンにしている時間とオフにしている時間の比率で投影する点の明るさが制御される。すなわち、100%オン状態だと最大輝度の点になるし、50%オン・50%オフだと半分の輝度の点になる。
カラー画像を投影するためには、大きく分けて2つの手法が用いられる。
一つは、DMDを3個用い、光源も赤・緑・青の3つを用意する方法である。これは3板方式と呼ばれる。光源は実際には3つ用意するのではなく、白色光源をダイクロイックフィルターで3色に分離したものを用いる事が多い。
もう一つは、光源とDMDの間に高速で回転するカラーホイールを配置し、赤・緑・青の光を時分割でDMDに当てる方法である。これは単板方式と呼ばれる。赤色を投影したい場合には赤の光がDMDにあたっている瞬間だけミラーをオン状態にする。
DMDを構成するミラーはマイクロ秒単位でオン・オフを変化させる事ができるため、このような手法を用いる事ができる。例えば、秒60フレームの映像を投影する事を考えると、1フレームあたりの投影時間は1/60秒=16667マイクロ秒である。これを赤・緑・青のための3つの時間に分割すると16667÷3=5556マイクロ秒となり、この時間内で256段階の明るさを再生するためには5556÷256=21.7マイクロ秒ごとにミラーのオンオフを切り替えられるようになっていなければいけない。オンオフの切り換えにミリ秒単位の時間がかかる液晶の場合、明るさの階調を表示する仕組みの違いを考慮しても、単板でカラー画像再生を行なうのは現実的ではない。
[編集] チップセット
テキサス・インスツルメンツ社はDLPシステム専用のCPUなどのICを開発し販売している。ARMアーキテクチャのCPUにDSP機能などを付加したDDPチップと、DMDミラーをリセットする電圧を供給するためのDADチップ、安定化電源とカラーホイールモーター制御などを司るPMDチップが用意されている。現在市場で使われているDLPプロジェクタのほとんどはDDPチップとDADチップを用いて作られている。
また、これらのチップを用いたソフトウェア開発を容易にするために、DLP Composerと呼ばれる開発ワークベンチがテキサス・インスツルメンツ社より提供されている。さらに、CodeWarrior用のDDP FPライブラリセットも用意されており、DLPプロジェクタの開発作業は原則としてこれらを用いて行なわれる事となる。
DLPの要となるDMDは画素数として、800x600、1024x768、1280x1024、1280x768、1280x720、1920x1080などの種類があり、パーソナルコンピュータ画像、テレビ画像、映画など用途に応じて選択される。
[編集] 利点と欠点
DLPを用いてプロジェクタを作る利点はいくつかあり、
- 完全にデジタル処理で画像を作るため、色再現性などが良い
- 投影画像がデバイスに焼き付く事がほとんどない
- デバイスの経年劣化が少ない(液晶と較べて)
- 黒画像に余計な光が入り込みにくい(黒浮きが少ない。コントラスト比が高い)
- 画素格子が目立たない(液晶と較べて)
- 動きが速い動画再生時に残像などの精細度を落とす現象が発生しにくい
- 単板で作成する事ができるため、小型化が容易
などが挙げられる。
一方、欠点もいくつか挙げられるが、そのほとんどはDMDの価格が高いということに起因する。DMDの価格は液晶プロジェクタで使用される液晶パネルの数倍程度もするため、一般市場では3板式のDLPプロジェクタは受け入れられず、単板式にならざるを得ない。
単板式の場合、人間の目にはきちんと混色されて見えていても一瞬一瞬には赤・緑・青の単色が明滅しているので、投影画像の前で素早く物を動かしたりすると画像には無いはずの色が見えることがある。
初期の頃のDLPプロジェクタはDDPチップの処理能力が遅かったため、この現象が顕著に観察されたが、最近は処理能力が改善されて色時分割の時間単位が細かくなったため、目立たなくなっている。
また、単板式はその原理上、常に光源の明るさの3分の2を捨てている事になる。(赤を投影している瞬間は光源の明るさのうち緑と青の成分を捨てている。)このため、液晶は偏光により明るさの2分の1を失っているにも関わらず、同一の光源ならば3板式の液晶プロジェクタの方が単板式のDLPプロジェクタよりも明るい。(なお、プロジェクタの投影画像の明るさはレンズや分光フィルタの性能などによる部分も大きいため、比較はそれほど単純にはできない。)
さらに、光時分割を行なうためのカラーホイールはモーターで回転させるので、その音と機械的な耐久性に問題が出る事がある。
これらの欠点は全て、3板方式のDLPプロジェクタではあてはまらない。
[編集] 技術革新
前記の欠点の項で述べた通り、単板式のDLPプロジェクタは常に光の3分の2を捨てているという問題を持つ。これを改善するために、カラーホイールに赤・緑・青の領域に加えて白(透明)の領域を作ったものが使われる。すなわち、白を発色する際には、3分の1の明るさを持つ光を使う時間が4分の3と、100%の明るさを持つ光を使う時間が4分の1という事になり、合計では失う光は2分の1で済む。
ここまでの説明ではあえて触れなかったが、カラーホイールの色の境目が光束を横切っている間は、画像の部分部分によって色の異なる領域があり、また色フィルタの境目の乱反射などにより正しい色の光になっていない。このため、原則としてはこの間の光は全て捨ててしまわなければいけない。カラーホイール上のこの領域は「スポーク (spoke)」と呼ばれ、スポーク中の光は「スポーク光 (spoke light)」と呼ばれる。
実際、初期の頃のDLPプロジェクタはスポーク光を全て捨てていた(その期間はDMDのミラーをオフ状態にしていた)ため、かなり暗い製品になっていた。
色の正確性を多少犠牲にしても良いならば、赤と緑の境界のスポーク光は黄色を発色する際に使えるはずであり、全スポークの光を合わせればほぼ白の光になるはずである。このため、スポーク光を利用して色を作る技術が開発された。テキサス・インスツルメンツ社は、混色にスポーク光を使うアルゴリズムを「サブカラーブースト (Sub Color Boost : SCB)」、白色にスポーク光を使うアルゴリズムを「スポークライトリキャプチャ (Spoke Light Recapture : SLR)」と呼んでいる。
なお、カラーホイールの白部分を使う手法とスポークライトリキャプチャを使う事を合わせて白の輝度を上げる手法の事を「ホワイトピーキング (White Peaking)」と呼ぶ。また、テキサス・インスツルメンツ社はこれらの技術を改良した物を「ブリリアントカラー (BrilliantColor)」と名付け、商標登録している。[2]
[編集] 主なメーカー
DLPプロジェクタを製造している主なメーカーは次の通り。