GAU-8 (機関砲)
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GAU-8 Avengerは、ジェネラルエレクトリック製の30mmガトリング砲である。アメリカ合衆国空軍のA-10サンダーボルトII等に搭載され、合衆国軍の航空機搭載機関砲のなかで最大、最重そして攻撃力の点で最強を誇る。主に対戦車攻撃に利用され、強力な30mm弾を高初速、高サイクルで発射する。
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[編集] 歴史
GAU-8はA-X(次期攻撃機計画)と平行して開発が進められた。1970年に計画段階の諸元がジェネラル・エレクトリックとフィルコ・フォードによって計画された。A-10とYA-9は当機関砲とセットで開発されたが初期段階では搭載することができず、M61バルカンがその間暫定的に使用された。この機関砲はA-10の機体の1/3ほどの大きさがあり、空車重量の1/4もの重量がある。当機関砲は後述する反動と砲弾の発射位置を考慮し、機体中心から少しだけずらして設置され、前部降着装置(ランディング・ギア)はその機関砲の右側にずらして取り付けられた。A-10とGAU-8は1977年に就役した。この機関砲は現在では生産されておらず、生産したジェネラル・エレクトリックに代わってマーチン・マリエッタによって保守整備されている。
[編集] デザイン
GAU-8単体の重量は281kgであるが、給弾システムやPGU-14を満載したドラムマガジンなどを含めた全備重量は1830kgにもなる。また銃口から弾装までの長さは5.81mであり、ドラムマガジン単体では長さが1.82m、直径が86cmある。このマガジンには最大で1350発の30mm機関砲弾を搭載できるが、1174発がごく一般的な搭載量となっている。焼夷徹甲弾(API)の初速は990m/sであり、GAU-8の小型版ともいえるGE-M61ヴァルカンの20mm機関砲弾とほぼ同一の初速を得る。 通常のミッションにおいては対装甲用焼夷徹甲弾PGU-14/B(弾頭重量425g)と焼夷榴弾PGU-13B(弾頭重量360g)が4:1の割合で使用される。PGU-14/B弾の弾頭は劣化ウラン合金製である。この焼夷徹甲弾は対戦車戦において非常に強力な武器となる。この劣化ウラン弾は攻撃を受けて生存した人にも、弾丸を装填する人にも放射線の影響を与えることから使用に関して論議が起きている。湾岸戦争の直後、イラクの様々な場所で出産障害が急増したことと、作戦中に放たれ土中や地下水に残留した劣化ウランとの関係が指摘されている。
GAU-8の発射速度は毎分1800発と4200発の選択式であったが後に改修されて最高発射速度が毎分4200発から3900発になった。後に最低発射速度である毎分1800発の発射レートも取り消された。これは敵発見時にできるだけ高サイクルで砲弾を発射することで、敵を瞬時に殲滅し(低サイクルなら敵に十分なダメージを与えられず再び射撃地点に旋回して敵上空を飛行しなければいけない可能性があるので)作戦機の生存性を挙げる狙いがあった。実際にGAU-8を使用する際は銃身の過熱や砲弾の無駄遣いを防ぐために1-2秒のバースト射撃をするようになっている。また砲身の寿命も重要な要素である。合衆国空軍では各砲身において21000発の発射回数をもって、砲身の交換をすることとしている。またこの砲身寿命は射撃による飛行速度のわずかな低下に対処するためであるとも言われている。 各砲身は非常にシンプルな仕組みであり、砲身とブリーチ(砲尾)そしてボルト(遊底)からなっている。このGAU-8の元祖であるガトリング銃のように、砲身の回転によるカムの動きで発射速度が調整される。(つまり砲身の回転が速いほど発射レートも早くなり、遅いほど遅くなる。)砲身の回転は機体の油圧系統で動作する。 GAU-8の砲弾はリンクベルトには繋がっていない。これは重量を減らし、弾詰まりの危険性を減らすためである。また発射後の空薬莢は機外に放出されること無く再びマガジンに送り込まれる。
[編集] 派生機種
GAU-8の技術はAV-8Bに搭載される25mmGAU-12/Uの開発にも生かされている。このGAU-12/Uはサイズ的にはGEのM61と同程度だが破壊力が格段に高い。またGEはGAU-8の部品を使用してGAU-13という4砲身の30mm機関砲を作り出したが、この機関砲は現在アメリカ軍では使用されていない。この機関砲をポッド(ミサイル用パイロンに取り付けられるようミサイル型のケースに機関砲を収納したもの)にしてF-16に搭載する構想があったが、現在ではこのポッドを使用しているのはタイ空軍のF-5タイガー2だけである。またGAU-8のシステムを利用したオランダ製のCIWS(近接防御火器)ゴールキーパーが開発されている。
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[編集] GAU-8に関する伝説
GAU-8に関する都市伝説として速度の減少が挙げられる。銃の反動が機体の推進力に匹敵し飛行速度が機関砲の発射によって落ち、撃ち続けると機体が失速して墜落してしまうというものである。中には機体が後方に進みだすといった滑稽な伝説もある。しかしこれらの伝説は真実とは言えない。
毎分4200発で発射される場合毎秒70発発射される。425gの砲弾は1/7秒で1067m/sにまで加速される。これによる反動はおおよそ30kNである。GAU-8/Aのホームページでは砲の反動が45kNとされている。上記計算値(30kN)との違いは砲身からの発射ガスの力が加味されているからであろう。それに対してA-10の両エンジンからの最大出力は80kNである。よって発射反動はエンジンの片方よりわずかに強い程度であるといえる。言い方を変えれば機関砲を発射することは前方に搭載されたジェットエンジンを全出力で駆動させることと同じであり、この反動で飛行機を止めることはできないが、わずかな速度低下を引き起こすことができる驚くべき力を持っているということである。実際に合衆国空軍はGAU-8の砲身先端にマズルブレーキをつけて発射ガスの一部を後方に逃がす仕様が試されたが試験の結果、保有する機体にこの種の改造をする必要はないと結論付けられたという。発射反動はまた砲の取り付け位置にも影響を与えている。機関砲弾はGAU-8を正面から見て凡そ九時の方向(左側)に砲身が到達した際に発射されるので、そのリコイルが丁度機体中心に来るように機関砲全体が少々左側にずらして設置してあるのである。これは開発中にGAU-8を機体の中心に据え付けたところ、上記の発射特性のため反動で機体がずれ、結果砲弾到達点がずれてしまったために改良されたことに起因している。
アリゾナ州タクソンのディヴィスマウンテン空軍基地の335戦術飛行隊隊長によると、GAU-8の反動に起因する問題は無いという。GAU-8には機関砲格納庫と取り付けマウントの間にリコイルアダプターと呼ばれる反動吸収装置が組み込まれており、発射時の反動を軽減する働きがある。 またA-10のエンジンに銃の発射ガスが入り込むことでエンジンがストップしてしまうのではないかという疑惑もある。これは発射ガスに空気が含まれてないからで、エンジン内部での燃焼の妨げになるという意見に起因するものであるが、発射ガスは機体下部を通るように設計されており、機体の上部に設置されたエンジンには、たとえマイナスのG-フォースが掛かっている機動中であっても発射ガスが入り込まないようになっている。
[編集] スペック
- 口径:30mmx173mm
- 発射速度:3900発/分
- 初速:1067m/s
- 砲身数:7
- 精度:4000フィート(約1333m)で射撃して直径20フィート(約6m)の範囲内に80%の弾丸が到達する。
- 砲重量:281kg
- 砲長:6.40m
- 砲身長:2.299m
- 砲弾
- PGU-14/B 焼夷徹甲弾
- PGU-13/B 焼夷榴弾
- PGU-15/B 練習用模擬弾
- 装甲貫徹力
- 500mで69mm
- 1000mで38mm
[編集] 単体で登場する作品
- 機動警察パトレイバー
- 米空軍横田基地より盗み出された核ミサイルの情報の「口止め料」の名目で借用(徴発)し、98式AVプロトタイプがこれを抱えて使用するも、高速道路に大穴を開けて自ら落下してしまう。