F-16 (戦闘機)
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F-16 ファイティング・ファルコン
- 用途:戦闘機
- 製造者:ゼネラル・ダイナミクス(ロッキード・マーチン)社
- 運用者:主にアメリカ空軍(アメリカ)
- 初飛行:1974年2月2日
- 生産数:4000機以上
- 運用開始:1978年
F-16は、ゼネラル・ダイナミクス社が開発し、アメリカ軍を始め、多くの空軍に正式採用された戦闘機。愛称は『ファイティング・ファルコン』、非公式な愛称としてはバイパー (Viper) とよばれる。初飛行は1974年。ゼネラル・ダイナミクス社は1992年に軍用機部門をロッキード社へ売却、さらにロッキードは1995年にロッキード・マーティンとなり、現在はロッキード・マーティン社のブランドとなっている。
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[編集] 開発経緯
開発は1969年より開始されていた。1971年にアメリカ空軍の軽量戦闘機 (LWF) 計画に応募・採用され、1972年4月よりYF-16として開発が開始された。同計画においては競争試作機のYF-17も開発されている。軽量戦闘機計画は採用を前提としない技術研究的なものであったが、F-15が高価格となったことにより、安価な戦闘機の入手必要性が生じ、1974年に軽量戦闘機計画のうち優秀なものを採用することとなった(ハイ・ロー・ミックス構想)。
初飛行は1974年2月2日のことである。飛行試験は1974年一杯続けられ、YF-17との比較の結果、YF-16の方が優れているとされ、1975年1月にF-16として制式採用された。 余談ではあるが敗れたYF-17は後にアメリカ海軍によって採用され、F/A-18ホーネットへと発展している。
当初は昼間軽量戦闘機として開発されていたが、後に全天候対空/対地攻撃能力も付与された全天候型戦闘機となった。
[編集] 特徴
F-16は、当初から革新的技術を多く取り入れた設計となっていた。とくに有名なものは、実用軍用機として世界初のフライ・バイ・ワイヤー (FBW) を取り入れたということである。FBWとは操縦桿などによる入力をそのまま油圧などを介して制御舵面に伝えるのではなく、入力を電気信号に変換してアクチュエータへ伝達させて制御舵面を動かすというものである。これによって途中でコンピュータによる補正を加えることが可能となった。その補正を加える技術をF-16は取り入れることで、静安定性が緩和された機体でも安定化され、機動性とともに操縦性をも向上させている。(いわゆるCCV技術の嚆矢である)また操縦桿の位置が両足の間という一般的な場所から操縦者の右側へ移動している。操縦桿自体も数mmしか動かず、操縦桿を動かした量ではなく操縦桿に加わる圧力を感知してそれによって舵面変角量を変えている。
一方、機体下面に位置するエアインテークは、ランプもショックコーンも無い単純な固定式であり、遷音速域での効率を重視しており、マッハ1.6以上では効率が低下する。そのため軽量な機体に高出力のエンジンを組み合わせておりながら、本機の最高速度はマッハ2に留まっている。 超音速機と言えど超音速を出す事はほとんど無く、最高速度を高める事に意味が無い事が明らかになったからであり、本機以降に登場した戦闘機にもこの傾向は踏襲される事となった。
元来、格闘戦を目的とした軽量戦闘機であるにもかかわらず、対地攻撃能力も非常に高いものを持っていた。そのため制空戦闘専門のF-15戦闘機とは異なり、必要に応じて時には制空目的に、時には対地攻撃に使用するという事で、「スウィング・ファイター」と呼ばれた(現在はこの種の機体はマルチロール機と呼ばれる。F-16はその嚆矢であるとも言える)。ただしF-15が対地攻撃に用いられなかったのは、その価格があまりに高価であり、対地攻撃に使うのは勿体ないと判断されたからであると言われる(対地攻撃任務のほうが、制空戦闘よりも損耗率は高い)。機体そのものの爆弾などの搭載能力はF-15のほうが遥かに高く、後述するようにF-111後継機選定においては、F-15に敗れる事となった。
[編集] 採用状況
アメリカはF-16が開発される以前にF-15を開発したが、F-15は高性能ではあるが高価であるためアメリカ軍でも十分な数は配備できなかった。そのため、F-15にくらべて安価であるF-16が大量に配備され、現在では機数の上ではF-16はF-15を大きく上回っている。F-15は大型で低高度での戦闘能力に乏しく機体価格も高価であるのに対し、F-16は軽量小型で安価であり、高度300m以下での低空戦闘能力を有している上、1機で対空・対地攻撃任務を万能にこなす能力を持つため、アメリカ以外の西側諸国でも広く採用され現在までに4000機以上のセールスを達成したベストセラー戦闘機となっている。また日本のF-2支援戦闘機や台湾のF-CK-1などの原型にもなっている。
[編集] 派生型
- YF-16
試作機。レーダーFCSを装備していない。
- F-16A/B
- Block 1:F-16の初期型。
- Block 5:レーダードームを黒から灰色に変更、内部の改良を行う。
- Block 10:Block 5の改良型。離陸性能を向上させるため、水平安定版の大型化
- F-16A+/B+(Block 15):最初のアップグレード型。インテーク側面へのハードポイントと配線の追加でAIM-7の運用能力の会得、NATO参加国に輸出された機体は、ADFに相当する艤装が行われている。
- F-16 ADF:空軍州兵で使用されていた形式。F-16A+/B+へAIM-7及びAIM-120の運用能力を追加。この機体は追加装備された垂直尾翼基部の大きな膨らみや機種に追加されたIFF機器用のアンテナ、機種側面にサーチライトがあるため、在来型のBlock 15との識別は比較的容易である。
- F-16 AM(MLU):オランダ、デンマーク、ベルギー、ノルウェーが保有するF-16 Block 15に対して行われた近代化改修型。デンマークが保有する機体を除き垂直尾翼後部にドラッグシュートを装備
- F-16/79:77年にカーター政権が「NATO諸国とイスラエルにのみF-16の輸出は許可される」という武器輸出政策を発表したため、規制対象であるF100エンジンを安価で整備性もよく輸出実績のあるGE製J79に交換した輸出仕様が国防総省の資金で製作された。性能はF100搭載のF-16とF-5の間とされ、限定的ながらマルチロール能力も持つはずであった。オーストリア、ヨルダン、マレーシア、ナイジェリア、シンガポール、台湾、タイに対してブリーフィングが行われたが80年の武器輸出規制の緩和によってF-16A/Bの販売が可能となったため、1機も売れることなく終わった。
- F-16/101:エンジンをF-100系列からB-1A用に開発されたF-101へ変更した機体。F-101が搭載されるF-16は量産されなかったが、2005年現在アメリカ空軍のF-16の大部分がF-101の発展型であるF-110系列のエンジンを搭載している。
- F-16XL:主翼をデルタ翼に改修し、対地攻撃能力を向上させた型。F-111後継機の座をF-15Eと争ったが、比較の結果採用されず。
- Block 20:台湾に引き渡された型で、F-16A/Bの機体にBlock4x/5x相当の機材を搭載したMLU仕様機の量産型、Block 15からBlock 25に生産が移行した際に飛ばしたBlock 20という型番を与えられている。
- F-16C/D
- Block 25:A/B型の能力向上版。改良されたレーダーへの変更や広角HUDの採用、垂直尾翼基部が搭載機器の変更によりA/Bに比べ前に向かって延長されている。機体構造の改良により機体後部のパネルラインがこの機体以前に製造された物から変更されている。
- Block 30:エンジンをF-110系列の物に変更した物、後期生産型からインテークを拡大したモジュラー・コモン・インレット・ダクトに交換し、エンジンの吸気効率を良くする事で、カタログスペックから低下していた低中領域のエンジン出力を改善している。
- Block 32:F-100エンジンを装備した形式。機体自体はBlock 30と共通しておりエンジンベイはF-100とF-110の双方に対応している。
- F-16N/TF-16N:アメリカ海軍のアグレッサー部隊による異機種戦闘訓練用に開発された型。Block 30に相当。機銃を下ろした代わりに、空戦機動を記録するための機材を追加。TF-16NはN型の複座仕様、1991年に定期点検で主翼にクラックが発見された事により飛行停止、改修した上で運用再開の計画もあったが予算の問題から実行されず、1995年に除籍。
- Block 40/42(F-16CG):ナイトアタックファルコンと呼ばれる機体、Block 30後期型の拡大型インテークを生産段階で装備し、LANTIRNとレーザー誘導爆弾の運用能力を追加とGPSによる航法支援した形式。ただしF100搭載機とF110搭載機の間で、完全なパワーユニットのデュアルソース化には対応していない。
- Block 50/52(F-16CJ):在来型から改修されたGPS/INS機器の搭載と空対空ミサイルのボアサイト射撃、ハープーン及びJDAM等のGPS誘導兵器への対応。F100搭載機とF110搭載機で、パワーユニットのデュアルソース化に完全対応。
- Block 50D/52D:Block 50/52に生産段階で、防空網制圧(SEAD)任務機(ワイルド・ウィーゼル)としての装備とフルスペックでのAGM-88 HARM対レーダーミサイル運用能力を追加した物。
- F-16 CCIP:教育とメンテナンスの簡易化を狙った、Block 40/42/50/52の艤装を統一する改修。
- KF-16:F-16C/D Block 52を韓国国内でノックダウン生産した機体。生産段階でCCIP仕様機相当の機体儀装が行われている。
- Block 50D+/52D+:F-16C/D Block 5Xの機体構造を変更し、機体背面にCFTを装備可能にした物
- F-16I:イスラエルへの輸出型。block52+の複座形機体背面にIDF/AFが保有するD型と同じように電子戦の機材を追加した物。
- F-16E/F
- Block 60:F-16C Block 50/52のアップグレード型新造機。アメリカ空軍で新造機の採用計画が無いため輸出専用となる。アラブ首長国連邦への輸出契約が結ばれたほか、シンガポールにも提案されていた。
[編集] スペック
- 乗員: 1名(B/D/Fは2名)
- 全長: 15.03m
- 全幅: 9.5m
- 全高: 5.09m
- 主翼面積: 27.87m2
- 水平尾翼幅: 5.58m
- 垂直尾翼面積: 5.09m2
- 自重: 8627kg
- 最大離陸重量: 19187kg
- エンジン: P&W社製 F100-PW-229 1基
またはGE社製 F110-GE-129 1基 - 推力: 13,199kg (P&W), 13,421kg (GE)
- 燃料容量: 3896L(機内)+1402L増槽 ×2
- 最大速度: M2+
- 上昇限度: 15240m
- 最大搭載量: 5,443kg(機外)
- 固定武装: M61A1 20mmバルカン砲×1
[編集] 採用国
- アメリカ合衆国 - 2,244機(空、海軍)海軍はアグレッサー(仮想敵機)部隊として導入
- バーレーン - 22機
- ベルギー - 160機
- ベネズエラ - 28機
- チリ - 10機(予定)
- 中華民国 - 150機(「経国」原型およびF-16A/Bを保有)
- オランダ - 213機
- デンマーク - 70機
- エジプト - 220機
- ギリシャ - 140機
- インドネシア - 12機
- イスラエル - 260機(102機追加予定、A/B/C/D/Iの各形式を保有、IAIラビ原型)
- イタリア - 34機(タイフーンの初期作戦能力獲得とF-104の退役のタイムラグで生じる防空能力の低下を補うためリース)
- 韓国 - 180機(C/D及びノックダウン生産したKF-16を保有、T-50原型)
- ノルウェー - 74機
- ニュージーランド -空軍の廃止によりキャンセル
- オマーン - 12機(予定)
- パキスタン - 40機(71機追加予定)
- ポーランド - 48機
- ポルトガル - 45機
- シンガポール - 60機
- タイ - 61機
- トルコ - 240機
- アラブ首長国連邦 - 80機
- ヨルダン - 34機
- イラン - イラン革命により引き渡されず。
[編集] F-16を基礎に設計された機体
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- F-CK-1(経国戦闘機):中華民国がF-16を元にして開発した戦闘機。F-16の輸出が許可されたため、製造数減少。130機。
- F-2:日本の航空自衛隊が運用するF-1支援戦闘機の後継として、F-16を元にし、防衛庁技術研究本部が主契約会社を三菱重工業株式会社に認定してロッキード・マーチンと共同開発した支援戦闘機。94機(予定)。
- ラビ:イスラエルのIAIが開発していた戦闘機、開発費の高騰とイスラエルへのF-16の輸出許可が前倒しされたため計画を放棄した。
- 殲撃10(J-10):イスラエルが放棄したラビの設計を元に、中国の成都飛機設計研究所が開発した多目的戦闘機。製造は成都飛機公司。
- T-50:ロッキード・マーチンが設計を行い、ロッキード・マーチンと韓国のKAIが生産する練習機、有事の際には軽攻撃機として使用可能。
[編集] 登場作品/ホビー商品
[編集] 映画、テレビドラマ
- 『F-16』(デビルスフライト/ウォー・バーズ2/天空を駆ける無敵のF-16(ファルコン),1991年 アメリカ):自らを神と信じる青年パイロットが、軍に対して反乱を起こすことを企て、核兵器を航空機に搭載し逃走を試みる。そして、教官のベテランパイロットがF-16に搭乗し、決死の空戦に挑む。
- 『ゴジラvsメカゴジラ』 :国連GフォースのF-16<改>戦闘機として登場。Gフォース空軍の戦闘機で、F-2戦闘機を参考に開発した。Gフォース陸軍のメーサー戦車隊と連携してゴジラを迎撃。
- 『アイアン・イーグル』("Iron Eagle", 1985年 アメリカ) - 訓練生の主人公が父親を救出するためにアメリカ空軍から盗む機体。
- 『ブルーサンダー』("Blue Thunder", 1983年 アメリカ) - 主人公の乗るブルーサンダー(架空の最新鋭ヘリコプター)と空中戦をする。
- 『機動警察パトレイバー 2 the Movie』 :ステルス化などの改造を施したF-16(改)が作品冒頭に横浜ベイブリッジを空対地ミサイルで爆撃、破壊。またF-2が三沢第8飛行隊所属のF-16Jとして登場(こちらは実際にはBADGE上の幻影)。
- 『白夜 3.98(韓国ドラマ)』 - 次世代戦闘機として登場。主人公らがテスト飛行中に搭乗するがエンジン不良を起こし墜落してしまう。米軍仕様
- 『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー』 :サイバトロン・エアーボット航空戦略家スカイダイブが変形する。
[編集] ゲームなど
- 『Falcon 4.0』 - F-16のフライトシミュレーション。本格的に遊ぼうとすると実物の知識がかなり必要になる。
- 『エースコンバットシリーズ』、『エナジーエアフォースシリーズ』、『エアフォースデルタシリーズ』等の軍用機を題材としたTVゲームでは、プレイヤーの搭乗する機体として多くの作品に出演しいるが、多くの作品の場合ロッキード・マーティンから資料の提供を受けている。
[編集] 模型(組み立てが必要なものや完成品)など
- 組み立てが必要なものや完成品は方々の模型メーカーや玩具メーカーが発売されており、よほど特殊な物(背面に大型化したバンプバックがある複座型のF-16やCFTを装備するF-16E/F等)やサイズ、メーカーを希望しなければ、入手は容易である。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- F-16.net - F-16に関する情報(英語)
- ズラリとF-16!! - F-16のバリエーションの紹介