劣化ウラン
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劣化ウラン(れっかウラン、減損ウランとも。英語:Depleted Uranium、略称:DU)は、ウラン235の含有率が天然ウランを下回るものを言う。その濃度は0.7%以下である。
一般的には、天然ウランを濃縮した後に残されたものを指す。そのため、通常よりも熱中性子で核分裂を起こし連鎖反応が起きるウラン235の割合が少なく、核分裂に高速中性子が必要で連鎖反応の起きない(分裂時には熱中性子が放出されるため)ウラン238が多い。ウラン238は熱中性子を吸収することで、ウラン239となり、これは二回のベータ崩壊を経てプルトニウム239となる。
天然ウランには、核分裂連鎖反応を起こすウラン235と起こさないウラン238が含まれ、ウラン235の含有率は0.7%程度である。この天然ウランを核燃料として濃縮する過程で、ウラン235をほとんど含まない(ほとんどウラン238の)低レベル放射性廃棄物が生成される。それを劣化ウラン(減損ウラン)という。
前述の通り、ウラン235を殆ど含まないため、天然ウランの精製物より放射能は低い。
[編集] 用途
ウランは密度が高い金属であるため、従来鉛やタングステンを使用していた、ロケットや航空機の動翼カウンターウェイト、列車や車両等の重心微調整用の重り(マスバランス)として使用されている。 また、原子番号が大きいことから、α線やγ線の遮蔽効果があるので、医療用放射線機器等の遮蔽にも用いられる。
またアメリカなど一部の国では戦車砲の徹甲弾や装甲材として用いている。この場合、通常用いられるタングステン等よりも特性的に優れているのに加え、元々廃棄物なので原材料のコスト的にも有利である。ただし、加工費はタングステンのそれを大きく上回っており、結果的には安いとは言えなくなる。
[編集] 医学的危険性の主張と反論
劣化ウランは重金属である。したがって、他の重金属と同様に重金属中毒の原因となる。主に腎臓の障害を引き起こす。なお、劣化ウランの毒性は鉛や水銀よりも低く、砒素と同程度である。
また残留放射能による被曝も取りざたされており、イラク等実戦で劣化ウラン弾を使用した地域での白血病の罹患率や奇形児出生の増加、あるいは米軍帰還兵の湾岸戦争症候群などの健康被害が報告されている一方、それらの数字には統計学的な有意差がないとの報告も存在する。
こうした環境問題について、アメリカやWHOは証拠が不十分と否定的な立場をとっている。 また、日本では文部科学省防災環境対策室が「劣化ウランの毒性は、身の回りの海水や土砂中に存在するウランと同じ又は小さいです。平成14年11月」と発表している。
日本ではウランという言葉の持つイメージが否定的であることが問題を複雑化している。またこのイメージを利用して危険性を煽るなどの行為を行う者もおり、より一層誤解が広がっているとの指摘もある。