IgA腎症
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IgA腎症(アイジーエーじんしょう、英IgA nephritis)とは主に免疫グロブリンの一種であるIgAが免疫複合体を形成し、腎糸球体メサンギウム領域に沈着することを特徴とする疾患である。
1968年にフランスのベルジェらが提唱したことによりベルジェ病とも言われる。
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[編集] 疫学
好発年齢は10代後半から30年代前半であるが10歳未満でも50歳以上でも発症することもある。日本における慢性糸球体腎炎の40%以上がIgA腎症を原因としている。特定疾患に指定されている。
[編集] 臨床像
初期段階は無症状であるため、肉眼的血尿に至る前に学校健診や職場健診で顕微鏡的血尿を指摘されて偶然に発見されることが多い。したがって学校健診などの保険健診で見つかる蛋白尿・血尿をチャンス蛋白尿・チャンス血尿と言い、ほとんどがこれで見つかる(チャンスは「偶然」の意)。ネフローゼ症候群に至ることは稀である。
[編集] 病因・機序
詳しいことは不明である。病因の説として有力なものは食物やウイルスを抗原とする免疫複合体の糸球体内沈着によって引き起こされるとする説である。機序としては扁桃腺炎が反復することにより陰窩上皮が破壊され、これを抗原として認識したリンパ球がIgA抗体を産生すると考えられている。
[編集] 病期分類
腎生検の所見により4群に分類され、予後の予測と治療方針の決定に用いられる。但し、経過中に他の群に移行することがある。
- 予後良好群:透析療法に至る可能性がほとんどないもの。
- 予後比較的良好群:透析療法に至る可能性が低いもの。
- 予後比較的不良群:5年以上・20年以内に透析療法に移行する可能性があるもの。
- 予後不良群:5年以内に透析療法に移行する可能性があるもの。
厚生省特定疾患進行性腎障害調査研究斑 社団法人日本腎臓学会 合同委員会『IgA 腎症診療指針』より引用
[編集] 検査
基本的に腎生検のみ以外は特異的な検査所見はない。他には尿検査、血液検査などが診断に使われる。
- 腎生検
- 光学顕微鏡での所見ではメサンギウム増殖性腎炎を呈している。
- 蛍光抗体法での所見ではメサンギウム領域にIgAの顆粒状沈着が見られる。
- 電子顕微鏡での所見ではパラメサンギウム領域を主とする高電子密度物質沈着が見られる。
- 尿所見
- 顕微鏡での血尿および蛋白尿が見られる。
- 肉眼においては気道感染などを伴った場合コーラ色の血尿が見られる。
- 血液検査
- 成人の場合で血清IgA値350mg/dl以上の結果が出ることがある。
[編集] 診断
臨床症状と検査所見から判断して生検を行う。紫斑病性腎炎、肝硬変症、ループス腎炎などのIgA腎症と同様にメサンギウムにIgA沈着をきたす疾患とは、各疾患に特有の全身症状の有無や検査所見によって鑑別を行う。
[編集] 治療
病期分類により治療手段は変化する。病態が進行すると人工透析に至る。
- 生活指導
- 予後比較的不良群以降は過労は避け、妊娠・出産も避ける。
- 食事療法
- カロリー制限、減塩、低蛋白食を行う。
- 薬物療法
- 副腎皮質ステロイド薬とACE阻害剤を主に使用する。他にはワルファリンやヘパリン、ジラセブを使うこともある。
- 扁桃腺摘出手術
- 臨床としては確実な結果を出してはいないが、扁桃腺炎によりIgA腎症が発症すると考えられているために扁桃腺摘出手術をすることも多い。
[編集] 予後
一時期は予後良好の症例だと考えられていたが、1993年のフランス、日本におけるIgA腎症患者の予後20年の結果で40%前後が慢性糸球体腎炎に移行し、末期腎不全に陥ると報告されたことにより予後の見直しが進められた。