KC-10 (航空機)
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KC-10はアメリカ空軍とオランダ空軍が運用している空中給油機兼輸送機。ジェット貨物機のDC10-30CFを改設計して生産された。愛称はエクステンダー(Extender)。
[編集] 概要
アメリカ空軍は空中給油機KC-135を1950年代から運用してきた。戦略爆撃機部隊を擁していたアメリカ空軍においては、KC-135は有能ではあるもののその運用結果から、空中給油機は大型である方がより有効であるということが認識されるようになっていた。
また、1973年に発生した第四次中東戦争において、アメリカ合衆国はイスラエルに対し大型輸送機を用いて緊急軍事援助を行った。この際に、アメリカ空軍の輸送機はヨーロッパ各国から着陸・給油を拒否される事態となった。これにより、輸送機は空中給油によるアメリカ本土からイスラエルまでの長距離飛行を強いられ、搭載量を制限せざるを得ない事態もあった。
これらの事態を踏まえ1976年より大型の空中給油機の開発を行うATCA計画(先進空中給油機・輸送機計画 Advance Tanker/Cargo Aircraft)が開始された。トライスター、C-5、ボーイング747、DC-10の4機種が比較検討され、1977年12月にDC-10が選択され、KC-10Aとして開発されることとなった。
DC-10からの改設計にあたっては、大規模な変更点はなく機体設計の9割が共通している。変更点は機体下部の貨物室の一部が燃料タンクに変更されたことと胴体尾部に空中給油装置の設置されたこと、計器類などの軍用規格への変更などに過ぎない。燃料タンクは7箇所増設となり、最大で160t(200,940L)の燃料を搭載できる。空中給油装置はフライングブーム方式がメインであるが、ドローグ&ドローブ方式の装置も装備している。KC-135と違い、空中給油オペレーターは腹這いではなく、通常の座席に座るようになり、新型の機器とあいまって作業効率が向上した。油送量は毎分4,810リットル(フライングブーム方式)、1,786リットル(ドローグ&ドローブ方式)となっている。なお、後にドローグ方式の翼端ポッドが増備されている。輸送機としても463Lパレットが27枚搭載でき、最大搭載量は77tであり、人員も最大77名輸送できる。貨物扉は機体左側のみにある。
貨物輸送能力を持っているのは、航空機部隊を遠隔地に派遣する際に空中給油を行いつつ、航空機を移送させ、同時に支援要員・物資も輸送できる利点がある。なお、機内全てを燃料タンクとしても、重量過多により飛行できないということもある。
初飛行は1980年7月12日。1981年より部隊配備が開始された。生産は1990年まで行われ、60機が製造された。コスト面や機体の大きさの面からKC-135を全て代替するものではない。2006年時点では、ニュージャージー州のマクガイア空軍基地とカルフォルニア州のトラヴィス空軍基地に配備されている。なお、事故により1987年に1機が失われている。
オランダ空軍においては、マーチンエアが使用していたDC-10-30CFを中古機として購入し、これを空中給油機兼輸送機としたものである。2機が改装され1995年より部隊配備された。これらはKDC-10と呼ばれている。
KC-10の戦歴としては、1986年に行われたアメリカ軍によるリビア爆撃(エルドラド・キャニオン作戦)が最初である。この時、イギリスの基地を発進したF-111部隊はフランス領空通過を拒否されたため、進撃に際し迂回コースを取ることとなった。この部隊に対し、空中給油を行っている。また、湾岸戦争においても中東に集結する航空機に対し空中給油支援等を行った。
[編集] 要目
- 全長:55.4m
- 全幅:50.4m
- 全高:17.1m
- 自重:110t
- 航続距離:7,000km
- 最大速度:982km/h
- エンジン:GE CF6-50-C2(推力 23.8t)3基