LSD (薬物)
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リゼルギン酸ジエチルアミド | |
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IUPAC名 | (6aR,9R)-N,N-ジエチル-7-メチル-4,6,6a,7,8,9- ヒキサヒドロインドロ[4,3-fg]キノリン-9-カルボキサミド |
別名 | LSD、LSD-25 |
分子式 | C20H25N3O |
分子量 | 323.43 g/mol |
CAS登録番号 | [50-37-3] |
形状 | 無色固体 |
融点 | 80 °C |
リゼルギン酸ジエチルアミド (lysergic acid diethylamide) は一般に LSD(他にアシッド、LSD-25)と呼ばれている半合成の幻覚剤である。LSD の略称は、ドイツ語の「Lysergsäure-diethylamid」から来ている。一般的な LSD の一回使用量は100~500 μg であるが、これはざっと砂粒の10分の1程度の量である。20 μg ほどの少量から効果が出始めるが[1]、ほとんどの濫用者はより多量の摂取を望むだろう[2]。
LSDの効用は、摂取量だけでなく、摂取経験や、精神状態、周囲の環境により大きく変化する(セッティングと呼ばれる)。一般にLSDは感覚や感情、記憶、時間が拡張、変化する体験を引き起こし、効能は摂取量や耐性によって、6時間から14時間ほど続く。
麦角菌や朝顔の種子の中から見つかった、一種のアルカロイドであるリゼルギン酸から作られる半合成の誘導体である。純粋な形態では透明な結晶であるが、液体の形で製造することも可能であり、これを様々なものに垂らして使うことができるため、形状は水溶液を染みこませた紙片、錠剤、カプセル、ゼラチン等様々である。LSD は、無臭(人間の場合)、無色、無味で極めて微量で効果がある。政府らに把握されていない薬物を除けば、最も強力な薬物である。乱用すると、次々と躁鬱状態が繰り返し起こっていく[3]。
LSDは厳密な意味では幻覚を生み出さないが、その代わりに幻覚及び鮮やかな空想のような想像をもたらす。大量服用した場合共感覚的な感覚を引き起こすことができる。
日本では吸い取り紙のような紙に LSD をスポットしたペイパー・アシッド (paper acid) が有名。そのため日本ではアシッド (Acid) が最も使われるが他にもエルなど様々な名称がある。
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[編集] 歴史
LSD は、1938年のスイスのサンド研究所でスイス人化学者アルバート・ホフマンによって最初に合成された。その幻覚剤としての発見は、1943年4月16日になされ、これが公式とされる発見の日である。
当時、サンド研究室は、薬用植物の有効成分を分離する研究計画を始めていた。ホフマン博士は、麦角菌及びそこから抽出されるアルカロイドを研究し始めた。麦角は助産婦によって伝統的に分娩促進薬として使われてきており、その薬物は出産を引き起こすことが知られており、また麦角における様々な合成物が肉体に対しても他の影響を与えることが20世紀初頭の研究は示していた。
1938年、ホフマン博士は構造上の類似に基づき、25番目に合成された分子(そのため名前が LSD-25)は、ほぼ確実に中枢神経興奮薬としての作用を持つ薬物として生じることを発見した。だが、合成物は動物実験ではそれ以上の効果が認められず、その研究は中止された。しかし、彼は1943年4月16日に再びこの物質を合成しようと試み、その際に激しい幻覚症状が伴い、それで幻覚作用が分かった。これが幻覚作用のある LSD としての発見の瞬間であった。
LSD は、1948年にアメリカ合衆国に導入された。サンド研究所は、精神医学の万能薬として LSD を市場に出し、そして統合失調症から犯罪行動、性的倒錯、及びアルコール中毒まで全ての療法に LSD を用いさせた。1960年代はヒッピーらに愛好された。
だが、サンド研究所は、一般大衆の間に LSD が拡散し政府から抗議されたため、1965年8月に LSD生産を停止した。米国の国立精神衛生研究所は、科学的研究の限られた範囲でのみ LSD を分散した。研究融資が低下したため LSD の科学的研究は、1980年頃に大体終了し、政府はそのような研究結果が不法の LSD使用を奨励するのではないかと懸念するようになった。だがそれでも、一部で研究は今でも続けられている。
1967年にはアメリカでは法的に一般使用が停止され、ほかの国もそれに続いた。日本では昭和30年代に登場し、1970年(昭和45年)に麻薬として政令指定された[4]。だが、アンダーグラウンドにおける娯楽、もしくは医療上では使用が続けられた。証拠はないが、ソビエト連邦で研究が行われていたという噂もある。また、1990年代にアシッド・ハウスの影響で再び使用が多く行われたが、それに対する摘発により2000年以降は再び消沈した。
[編集] 薬理効果
60年代半ばまでに、LSDの使用により副作用が起こる事が分かり、アメリカ合衆国政府は LSD の使用を違法にすることによって薬の使用の可用性を制限しようと試みた。LSD の効果の最初の観測は非常に楽観的であったが、続いて行われた実験によって得られるデータは、あまり前途有望でない事を証明した。LSD は、性欲を減退させ、創造性を減少させ、さらにアルコール中毒患者や、犯罪者を扱う際にも永続的には正の効果を持たない。さらに、この薬の強力な幻覚性の効果は「フラッシュバック」のような深い副作用をもたらすことを裏付けた。
LSD を服用した場合、不安感、恐怖感を伴う鬱状態または陽気な躁状態になり、集中力が無くなり、距離や時間に関する感覚が乱れる場合もある[5]。LSD型幻覚発現薬の精神作用の発現機序は、5HT神経系のオートレセプターに5-HTが作用することによって、5-HT神経系の起始核である縫線核の神経活動を抑制し、さらに投射先である中脳における5HTの代謝回転を抑制するために起こる事が示唆されている[6]。
[編集] 出典
- ^ Greiner T, Burch NR, Edelberg R (1958). "Psychopathology and psychophysiology of minimal LSD-25 dosage; a preliminary dosage-response spectrum". AMA Arch Neurol Psychiatry 79 (2): 208–10. PMID 13497365.
- ^ Shulgin, Alex and Ann Shulgin. "LSD", in TiHKAL (Berkeley: Transform Press, 1997). ISBN 0-9630096-9-9.
- ^ 幻覚剤~LSD
- ^ 不正薬物
- ^ 薬物問題の現状
- ^ 薬物依存
[編集] 関連項目
- フラッシュバック (心理現象)
- エクスタシー (薬物)
- ヒッピー
- アシッド・ハウス
- ティモシー・リアリー
[編集] 外部リンク
- LSD Symposium - アルバート・ホフマンの誕生100年を記念したシンポジウム