SMCタンパク質
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SMCタンパク質とは、染色体の高次構造と機能の制御に関わるATPアーゼファミリー、あるいはそれに属するタンパク質の総称。 SMC は、染色体構造維持(Structural Maintenance of Chromosomes)の略。その進化的起源は古く、原核生物から真核生物まで広く保存されている。一部の原核生物(大腸菌を含む)では、MukBと呼ばれる類似のタンパク質が SMC の機能を代行している。
真核生物の SMC タンパク質は、6つのサブファミリー(SMC1- SMC6)に分類される。SMC1とSMC3は姉妹染色分体の接着に関わるコヒーシン複合体のコアサブユニットを構成し、SMC2とSMC4は染色体凝縮に関わるコンデンシン複合体の一部として機能する。残りの SMC5とSMC6はDNA修復に関与する。
SMC タンパク質は、常に2量体をつくり、極めて特徴的なV字型構造をとる。個々のSMCサブユニットは、まず反平行のコイルドコイルによって折り畳まれ、長い棒状の形態をとる。この際、一方の末端には ATP 結合部位("ヘッド")が、もう一方の末端には"ヒンジ"が形成される。2つのSMCサブユニットはヒンジを介して結合し、V字型の巨大な2量体を構築する。ヘッドドメインの構造は、ABC トランスポーター(ATP-binding cassette transporter)や DNA修復タンパク質 Rad50 の ATP 結合部位のそれと多くの共通点を有する。こうした意味において、SMCタンパク質は、ABC ATPアーゼファミリーに属すると考えて良い。
ATP結合と加水分解のサイクルは、ヘッドの会合と解離のサイクルとカップルし、その結果としてV字型構造の開閉を制御する。こうした SMC 2量体の構造変換がDNAとのダイナミックな相互作用を制御すると考えられているが、その詳細はまだ明らかではない。