イリエワニ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
?イリエワニ Crocodylus porosus | |||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
分類 | |||||||||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||||||||
学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Crocodylus porosus Schneider, 1801 | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
Saltwater/Estuarine Crocodile |
イリエワニ(学名:Crocodylus porosus、英名:Saltwater Crocodile)は、ワニ目・クロコダイル科・クロコダイル属に分類される爬虫類の一種。世界最大の爬虫類として有名。※
汽水・海水域に棲息する耐海水性の高いワニで性質は非常に荒く、人間を含むあらゆる動物を襲う人喰いワニとして恐れられる。
※全長はヘビ類のオオアナコンダとアミメニシキヘビの方が長くなる。
目次 |
[編集] 分布
インド南東部からベトナムにかけてのアジア大陸、スンダ列島からニューギニア島、及びオーストラリア北部沿岸、東はカロリン諸島辺りまでの広い範囲に分布する。海ワニ(英名和訳の「海水ワニ」に由来)とも異名される耐海水性の高さと、1000km以上を泳ぎきると言われる優れた遊泳能力を活かし、海流にのって分布域を広げたと考えられる。中国南部や、果ては八丈島にまで漂着記録がある。
かつてはスリランカでも観察されたが、現在ではほとんど見ることができなくなってしまった。また、人間に危害を加える恐れのある害獣としての駆除や革目的の乱獲・密猟、そして環境破壊によってインドシナ半島の個体数はかなりの減少傾向にある。一方、オーストラリアやニューギニア島周辺には数万頭以上が生息するとされ、近い将来の絶滅の危険性は低い(後述)。分布全域では推計20-30万頭程度が生息する。
[編集] 特徴
全長オス4.5-6m、メス2-3m。オスの方がより大型で、最大で全長7m、体重1.2t以上に達する。64-68本の鋭い歯が生えた頑丈な顎を持ち、その力は非常に強く、一撃で獲物を死に至らしめることができる。しかし狩りそのものはあまり上手くなく、顎の力も強大であるのは噛み締める力であり、口を開く力はそれほど強くない。
吻の中央から眼窩にかけての発達した隆条が特徴で、年齢を重ねたオスでは特に大きく隆起する。肢には水掻きが備わり、前肢では指の基部のみに付き、後肢外側の指には先端まで付く。体色は概ね灰褐色で、黒褐色の斑点を持つ個体が多い。幼体色は黄色く、黒い斑点がある。
マングローブの繁茂した入り江や三角州に棲息し、成体のオスは縄張りを張る習性を持つ。オス同士が繰り広げる縄張り争いは苛烈で、一方が死に至る例も珍しくない。
[編集] 食性
幼体の頃は昆虫、小魚、小型のトカゲなどをエサとし、成長と共により大きな動物を狙うようになる。成長しきった大型の個体は、イノシシや家畜などの陸上哺乳類を主な獲物とし、大きなスイギュウですらその餌食となる。人間が襲われることもしばしばであり、毎年のように多数の犠牲者が出る。狩りは水中で待ち伏せ、ターゲットが近付いた瞬間、その巨体からは想像できないほどの素早さで飛び出して食らいつく。上手く捕えることができると水中に引きずり込み、獲物が完全に息絶えてから丸呑みにする。一呑みできないサイズの場合、獲物を咥えたまま暴れるように体を回転させて肉を引きちぎって食べる。
[編集] 生活環
生息域によって差異があるが繁殖期は大体3月頃で、交尾を終えた約2ヶ月後、水没を防ぐため周囲よりも高い塚状の場所に穴を掘り、20-80個の卵を産み落として埋め戻す。孵化にもまた2ヶ月以上を要し、その間母親はほとんどエサも摂らずに付きっきりで卵を守る。産卵場所の表面には枯れ木や草を敷き詰め、湿気と太陽熱によって草木を腐敗・発酵させてその際に発生する熱を利用して卵を温める。この時の温度が生まれてくる子の性別に深く関わっており、31.5℃度前後ではオス、そこから数℃上下するとメスが多く生まれる。このことから、地球温暖化が更に進行すればメス個体ばかりが生まれてしまうことになるのではないかという懸念がある。
地中で孵化した子はチイチイと鳴き声を上げ、母親にその存在を知らせて掘り起こしてもらい地上に出る。鳴くのは孵化直後ばかりではなく、母親の庇護下にある時期では親に危険を知らせるために鳴き、成体でも求愛の際には低い唸り声を出すことが知られる。
幼体の天敵はオオトカゲや別種のワニであるが、縄張りを侵されたオスのイリエワニに捕食される場合もある。いずれにせよ若い個体は大型のオスに川を追われるため、一端海に出て縄張りを張れる別の河川を探すことになる。
性成熟するにはオスで12-16年、メスで8-12年程度を要する。
[編集] 人間との関係
[編集] ワニ革
腹部の鱗が整然と揃ったイリエワニの革はワニ革の中でも最高級品と評され、加工も比較的容易であるため高値が付く。採取された革は、そのほとんどが生のまま塩漬けにして輸出される。
20世紀半ばには無秩序に乱獲され、一時期その数を激減させた。このことから、オーストラリアやインドなどでは狩猟制限がなされ始め、保護・繁殖にも積極的に取り組んだことが功を奏して現在では個体数は安定している。特にオーストラリアでは、イリエワニ生息地の土地所有者に対して、その土地から集積された卵を国が買い取り、生まれた子ワニをある程度まで飼育した後、ワニ園に売却する。そしてワニ園で飼育された後に革を採取されるというわけで、地元住人とワニ革産業に携わる人々に経済的な利益を循環させるシステムが整備されている。しかし南ベトナムなどでは未だ密猟が盛んに行われており、インドシナ半島では絶滅も危惧されている。
[編集] ワニ肉
他の獣肉と比較するとワニの肉は、脂肪分やカロリーが低い割には蛋白質に富み、また、飽和脂肪酸が少なく不飽和脂肪酸を多く含むため非常にヘルシーな肉と言える。食味は淡泊でややフグにも似ており、から揚げや煮込み料理など様々な調理方法で食べられる。血液には生体内で作られる抗生物質が循環していることからほとんど無菌状態であり、部位によっては生でも食べることができる。血液はエイズなどの治療薬として研究されており、今後の成果が期待されている。
[編集] Conservation Status
- LEAST CONCERN(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
[編集] 日本で観察できる施設
[編集] 外部リンク
カテゴリ: Least concern | ワニ目