ワニ
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ワニ(鰐)は、脊索動物門 脊椎動物亜門 爬虫綱 ワニ目に属する動物の総称。
熱帯から亜熱帯にかけて23種が分布し、河川、湖沼、海岸などに生息する。水場からあまりはなれることは無い。長い吻と扁平な長い尾を持つ。背面は角質化した丈夫な鱗で覆われており、目と鼻孔のみが水面上に露出するような配置になっている。イリエワニでは全長6mに達する記録もあるが、キュビエムカシカイマン、ニシアフリカコビトワニなどの小型種では、1.5mほどで成熟する。現生の動物群の中で鳥類とは最も近縁な間柄で共に主竜類に属する。
目次 |
[編集] 生態
おもに魚類、甲殻類、貝類といった水生生物や、水場に現れた爬虫類、哺乳類などを捕食する。水中では四肢を体側に密着させて、体を大きく波打たせ、尾を左右に振り、すばやく泳ぐ。水面に浮かび、岸辺に近づく動物を待ち構えていることが多い。尾の力を利用して水面上に飛び上がることもできる。陸上では鈍重なイメージがあるが、短距離ならば意外なほどの高速で移動できる。陸上で日光浴をしているときは、口を大きく開けていることが多いが、これは体温調節のためである。アフリカのワニチドリという鳥は、ナイルワニの口の中の餌の残りをついばみ、ワニの口の掃除をしているとされ、共生の例として取り上げられることもあるが、実際には積極的についばむ行動はほとんど観察されなかったという報告もあり、懐疑的な意見もある。
繁殖期のオスはメスを誘うために大きな鳴き声を上げ、幼体は危険を感じると独特の鳴き声でメスを呼ぶなど、個体間のコミュニケーションが発達しており、爬虫類の中でもっとも社会性があるといわれている。メスは産卵のために巣を作り、卵が孵化するまで保護したり、孵化直後の幼体を保護する種類もある。またオスはペニスを持つ。
強力な免疫機構を持ち、不潔な泥水の中で手足を失うような大きな傷を受けても、重篤な感染症はほとんど発生しない。1998年にワニの血液中のいくつかの抗体がペニシリンに耐性をもってしまった黄色ブドウ球菌などを殺菌することが報告され、ワニの血清はHIVウイルスを無力化する能力をもつことも明らかにされている。[1]
水温によって性別が決定されるという特徴を持っている。地球温暖化の影響で性別のバランスが崩れることが懸念されている。
[編集] 文化
[編集] 神話、伝承
ワニの生息する地方では、水泳中の人間が襲われることもあり、ワニは邪悪な動物、魔性の動物とされていることが多い。一方で、ワニを神聖視することもまたよく見られ、世界中にワニの姿をした神がいる。 古代エジプトでは、ワニは豊穣や、ナイル川そのものを象徴し、テーベではワニの頭部を持つセベク神の信仰が盛んであった。神殿ではワニが飼育され、神官が餌を与え、多数のワニのミイラが作られた。 インドにもワニを神聖な生き物として飼う寺院がある。日本の、船の守護神である海神の金毘羅さんも、サンスクリット語でワニを意味するクンビーラに由来するという。中国の伝説上の動物、竜のイメージの原型は、絶滅したマチカネワニではないかという説[1]もある。また、パプアニューギニア、インドネシア、カメルーンなど世界各地に、ワニを自分の氏族のトーテム(祖霊)として祀る人々がいる。ブラジル・アマゾン川流域ではワニのペニスは幸運を呼び込むものとして祀られている。西洋では、ワニは涙を流して獲物を油断させるという伝承があり、「ワニの涙」は、偽りを意味した。 日本ではかつて「鰐」という言葉はサメを指していた。このことは現在でもサメをワニと呼ぶ地方があることや、全国各地の海岸に「鰐が淵」といった地名があることからも知られる。
[編集] 利用
ワニの肉は珍味として貴族、王族などに賞味されてきた。ワニの肉は淡白な味で、高蛋白低カロリー食として有名である。ワニの革は盾、甲冑に貼られてきた。現在では鞄、ベルトなどに加工されて利用されている。しかし、過度の採集圧のため天然資源は著しく減少した。現在では野生個体は保護され、全種がワシントン条約にリストアップされている。各地で養殖が行われていて、個体数が回復したケースもあるが、密猟と生息地の開発のため、絶滅が危惧されている個体群、種もすくなくない。最近では、ワニの強力な免疫力を応用して、ワニの血清をHIVの治療に役立てようとする動きもある。
[編集] 下位分類
現生のワニ目はすべて正鰐亜目に属し、アリゲーター科、クロコダイル科、ガビアル科の3科に分けられることが多い。このうちガビアル科は他の2科と比べて非常に特異な分類群とされ、古い形質を残しているとも、逆に特殊化が進んでいるとも言われてきた。しかし、形態形質の詳細な比較と再評価から、クロコダイルとガビアルが近縁であり、ガビアルはクロコダイル科に含まれるとする説もある。ワニの祖先である原鰐類は三畳紀に登場し、中生代の地層からはさまざまなワニの化石が発見されているが、それらの系統関係には諸説があり、一致した見解は得られていないようである。
- アリゲーター科 Alligatoridae
- アリゲーター亜科 Alligatorinae
- アリゲーター属 Alligator
- Alligator mississippiensis アメリカアリゲーター American alligator
- Alligator sinensis ヨウスコウアリゲーター Chinese alligator
- アリゲーター属 Alligator
- カイマン亜科 Caimaninae
- カイマン属 Caiman
- Caiman crocodilus メガネカイマン Spectacled caiman
- Caiman yacare パラグアイカイマン Yacare caiman
- Caiman latirostros クチビロカイマン Broad-snouted caiman
- クロカイマン属 Melanosuchus
- Melanosuchus niger クロカイマン Black caiman
- コビトカイマン属 Paleosuchus
- Paleosuchus palpebrosus キュビエムカシカイマン Cuvier's dwarf caiman
- Paleosuchus trigonuatus シュナイダームカシカイマン Smooth-fronted caiman
- カイマン属 Caiman
- アリゲーター亜科 Alligatorinae
- クロコダイル科 Crocodylidae
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- クロコダイル属 Crocodylus
- Crocodylus acutus アメリカワニ American crocodile
- Crocodylus cataphractus アフリカクチナガワニ Slender-snouted crocodile
- Crocodylus intermedius オリノコワニ Orinoco crocodile
- Crocodylus johnstoni オーストラリアワニ Freshwater crocodile
- Crocodylus mindorensis フィリピンワニ Philippine crocodile
- Crocodylus moreletii モレレットワニ Morelet's crocodile
- Crocodylus niloticus ナイルワニ Nile crocodile
- Crocodylus novaeguineae ニューギニアワニ New Guinea crocodile
- Crocodylus palustris ヌマワニ Mugger crocodile
- Crocodylus porosus イリエワニ Saltwater crocodile
- Crocodylus rhombifer キューバワニ Cuban crocodile
- Crocodylus siamensis シャムワニ Siamese Crocodile
- コビトワニ属 Osteolaemus
- Osteolaemus tetraspis ニシアフリカコビトワニ Dwarf crocodile
- マレーガビアル属 Tomistoma
- Tomistoma schlegeli マレーガビアル(ガビアルモドキ) False gharial
- クロコダイル属 Crocodylus
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- ガビアル科 Gavialidae(クロコダイル科に含める説もあり)
[編集] 参考文献
- 青木良輔 『ワニと龍』 平凡社、2001年
- 荒俣宏 『世界大博物図鑑』第4巻[両生・爬虫類] 平凡社、1990年、294-301頁
- 太田英利監修『爬虫類と両生類の写真図鑑』 日本ヴォーグ社、2001年
- 松井 孝爾 『図説・なぜヘビにはあしがないか』講談社、1990年
[編集] 脚注
- ^ 「龍」の字は甲骨文字の時代にはマチカネワニを指していたとの青木良輔の論文「大分県津房川層のワニ化石」(2001)で示された説。
[編集] 関連項目
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