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エンジンオイル - Wikipedia

エンジンオイル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

エンジンオイルとはエンジンに使用されている潤滑油。石油由来のものが主流。

ここでは、主に自動車オートバイ(二輪車)に使われるレシプロエンジン用のエンジンオイルについて述べる。

目次

[編集] 役割

エンジンオイルには以下のような作用がある。

  • 潤滑
  • 冷却
  • 気密保持
  • 清浄分散
  • 防錆

2ストロークエンジンでは燃料ガソリン)に予めエンジンオイルをある割合で混合して利用するものもある。

[編集] 潤滑

レシプロエンジンは金属製のシリンダー内をピストンが毎分数千回上下するほか、クランクメタルやカムなど、エンジン各部に宿命的な金属同士による摩擦と発熱を生じる。それらによる摩耗を軽減するための潤滑剤としてエンジンオイルが使われる。

[編集] 冷却

自動車の場合、エンジンオイルはオイルタンクや、エンジン底部に取り付けられているオイルパン(ドライサンプにおいては独立したオイルタンク)からオイルポンプにより吸い上げられ、車体の前部に取り付けられているオイルクーラーにより冷却され、エンジンの燃焼室や各部を潤滑剤として通過する。その時、エンジン本体の熱を奪う事で冷却効果を与えるとともに、燃焼室の気密性を高めるのにも一役買っている。またエンジンオイルによる冷却を、最も重視する構造となっている油冷エンジンも存在する。

過給器ターボチャージャー)付きのエンジンの場合、タービンハウジング(タービンを覆う容器)は排気温度(700℃以上)により熱せられ、赤く発光する程であるが、そのタービンハウジングの冷却も外気とエンジンオイルに頼っている。特にタービンの軸受けに流れるオイルの供給が停止されると、高温の金属同士が直接摩擦することで生じる焼きつきという現象が起こり、タービンが破損する。そのために最近の一部のものを除いたターボエンジン搭載車には「高速走行直後はしばらくの間エンジンを止めないで下さい」といった内容の注意書きがある。

なお、エンジンの高回転域を多用して、ターボの加給が激しく行われるような走行をした後には十分な冷却が必要である。このことから、アフターアイドリング(エンジンをアイドリング状態で30秒~1分程度稼働させてから停止すること)による冷却や、ターボタイマーと呼ばれる市販の自動アフターアイドリング装置を取り付けて、イグニッションキーを抜いても、設定した時間エンジンがアイドリング状態におかれてから停止するように動作するよう、対応している場合がある。これらの方法はエンジンが稼働している状態で車両を離れることができて便利な反面、その際に意図せぬ車両事故の発生する恐れがあることから、その運用には十分な注意が必要である。また、ターボ車のアフターアイドリングについては除外されているケースが多いものの、大気汚染や騒音の防止を目的として、条例などで自動車用エンジンのアイドリングストップを義務づけている地域もある。

前述の2つの方法の代わりとしては、運行終了直前に、タービンやエンジンにかかる負荷を抑えて走る、クールダウン走行を行う方法がある。この方法であればアイドリングを回避できること加え、外気による冷却も期待できる。(アンダーガードなどを装備したダート仕様車などの場合はアフターアイドルによる冷却を期待できない[要出典]ため、エンジン停止後に、キーをONにしてから鍵を抜くことで、ターボタイマーをアフターアイドリングのためではなく、ファンによる冷却時間を決める装置として使う場合もある。)

[編集] 気密

シリンダとピストンは完全に密着しているわけではない。ごくわずかな隙間があるのでピストンは運動できる。この両者の間に保持される物がエンジンオイルである。エンジンオイルは両者を潤滑するとともに、液体を形成する。

もし、この膜が不十分であればシリンダに取り込まれた気体が燃焼室から漏れてしまい、正しい燃焼ができなくなる。また、点火した後に膨張した燃焼ガスも同様に漏れてしまい、望むべく出力を得ることができなくなる。

エンジンの老朽化に伴いシリンダとピストンの間隙は徐々に増加するため、古いエンジンにとってこの役割はより重要である。

[編集] オイルの分類

[編集] 製法による分類

エンジンオイルは製法などにより次のように分類される:

  • 鉱物油:石油を精製する過程で得られるもの。分子量などは厳密にそろえることができないが比較的安価に製造でき、一般的にはこれが多用される。ナフテン系とパラフィン系があり、一般的な鉱物油は中近東から産出されるナフテン系が使用されている。パラフィン系はアメリカ・ペンシルバニア州などから産出されるものが有名だが、産出量が非常に少なくあまり販売されていない。また、ペンシルバニア産のオイルだと偽り、他国のオイルを販売しているケースもあるので注意が必要である。
  • 化学合成油:PAOやエステルなど、石油を一度、化学的に分解・合成しなおして、成分や分子量を一定にしたもので、製造コストが高いが、性状を比較的自由に設定でき、せん断安定性に優れる。天然ガス(ナフサ)から作られる製品もある。エステル系の性質上、エンジンのガスケットやゴムパッキンにダメージを与える特性がある。
  • 植物油:ヒマシ油など。レースに用いられるが、酸化しやすいために現在の一般車ではほとんど用いられない。オイルメーカー(ブランド)のカストロールは、エンジンオイルにヒマシ油を用いていたことにその名を由来する。


[編集] SAE粘度

エンジンオイルは粘度によって、その使用用途が異なる。

[編集] マルチグレード

  • 一般的に使用されているエンジンオイルで、○○w-●●(ex.10w-30)のように表示されている。
  • 粘度表示は●●の部分で、数字が大きいほど粘度指数が高いという意味であって、決して耐熱性が高くなっているわけではない。

耐熱性は上記のエンジンオイルの分類によって異なるが、粘度の大きさに比例して耐熱性が向上するわけではない。 (粘度は添加剤によって作り出されるもの(パラフィン系エンジンオイルは除く)なので、耐熱性能は基本となるナフテン系(鉱物油)やエステル系(化学合成油)に依存する。

  • エンジンオイルの粘度はエンジンのクリアランスの大きさで決定する。
  • 一般的に、フリクションロスを減らす為にエンジンのクリアランスが大きく取ってあるレーシングマシーンは粘度の大きい50番以上を使用する。そのほか、旧車・過走行車など、エンジンが摩耗しクリアランスが大きくなったエンジンには40番や50番等の高粘度のエンジンオイルを使用する。

逆に、現在一般的に走行している車はクリアランスが小さく、低粘度の20~30番等を使用する。

  • 過走行車(クリアランスが大きい車両)などに低粘度エンジンオイルを使用すると、大幅な燃費向上が認められる場合があるが、エンジンオイルの消費が早くなる事がある。
  • 粘度が小さいものはエンジンに抵抗が少なくなるので燃費が良くなる。
  • 粘度が大きいものは摩擦抵抗が大きくなるのでのでアクセルレスポンスはやや緩慢になるが、緩衝性が大きいのでエンジンの静粛性が向上する。
  • また単純に粘度が高いから、エンジンの保護性能が高いかと言う訳には行かず、ベースオイルの基本性能も大きな要素である
  • ○○wは低い数字になるほど低温時の始動性が向上する。寒冷地を走行する場合は5~10w等を使用するとエンジンの始動が安定する。
    • 5w:-35℃程度まで
    • 10w:-25℃程度まで
    • 20w:-10℃程度まで
  • 2002年頃から、車種によってはさらに粘度の低い0w-20が推奨されている場合もある。推奨されていない車にこのような低粘度オイルを入れると故障の原因となる。逆に夏場は5w-30など硬いオイルを入れたほうが良いといわれる。

[編集] シングルグレード

  • 単一の粘度を持つエンジンオイル。
  • ドラッグレース仕様車や旧車・空冷エンジン車、気温の変化が殆ど無い地域など、ごく限られた条件下で使用する車両に使われる事が多い。
  • 粘度変化がマルチグレードより少ない。
  • シングル・グレード指定の車両にマルチグレードのオイルを使用すると、オイル漏れしたりオイル上がり・オイル下がりなどの不具合が発生することがある(主に旧車)。これは当時、マルチグレードのエンジンオイルが無かったため、シングルグレードのエンジンオイル専用のエンジン設計になっているからである。

[編集] 工業規格による分類

[編集] オイル交換

オイル交換は、エンジン使用期間あるいは使用走行距離がメーカー規定に達するごとに行うのが基本である。 しかし、低速走行や短距離走行の多い車輛は、暫時その状況により標準の規定より短期間・走行距離にて交換が指定されている(シビアコンディション)。 また点検等でオイルフィルタに金属粉(メタル)が発見され、原因を解決した後や、高速走行(レース走行等)オイルが高温にさらされた後(後述)などの場合にも、オイル交換が必要となる。

[編集] 自動車

[編集] 一般

一般的に自動車のオイル交換は、

  • 走行距離5,000~10,000kmごとか、
  • 半年に1度(走行距離が短くても自然に酸化が進むため)

のどちらか短い方のサイクルで交換する事が推奨されているが、ターボ車の場合はより早いサイクルで交換が必要である。中には15,000km~20,000km無交換でよいとされるエンジンもある。特にドイツ車は環境保護のため及びオイル容量の多さから、交換サイクルが長い。

  • 一般的な化学合成油(エステル系)や鉱物油(ナフテン系)は粘度指数がほぼ0なので、様々な添加剤を配合し粘度を作り出しているが、配合されている添加剤は変質しやすいので時間の経過と共に粘度が失われていく。エンジンオイルを抜いた時に勢い良く排出されるのは粘度が失われているためである。加えて、エステル系の化学合成油は水分で分解しやすい性質がある為、多湿地域で多く走行している車などは更に早いサイクルで交換する必要がある。

粘度が失われたエンジンオイルを使用し続けると、エンジン内部の油膜形成が出来なくなり、エンジンの保護性能が失われ、最悪の場合エンジンが壊れてしまうので定期的なメンテナンスをし、交換する。


またガソリン直噴エンジンロータリーエンジンなどは、エンジンの特性上、他のエンジン以上にオイルに気を遣う必要がある。そのためにこれらのエンジンには、それに適した専用オイルが用意されている。(三菱自動車は、かつてGDIエンジン専用オイルを用意していたが、その後に汎用の純正オイルの品質を改善したため、現在はGDIも通常の三菱純正オイルが使用される)

一度高温(120℃以上)になったエンジンオイルは酸化が進んでしまい、温度が下がっても安定的に油膜を形成するために必要な粘度が回復せず、交換が必要となる。特に、高回転型のエンジンを積んでいる車やサーキットなどで高速走行した車は注意が必要である。

継続的にオイル交換に気を使って運用されたエンジンは、走行距離や稼働時間が進んでいても状態の良いものが多く、逆にオイル交換を怠った状態で運用されたエンジンは、走行距離等が少なくても状態が良くない事が一般的に知られているため、車に対するメンテナンスの基本とされている。

  • エンジンオイル交換の際に、レベルゲージを超えて注入するとエンジン内部クランクに干渉して内部抵抗が増え燃費の悪化やオイルに気泡が発生し、エンジンオイルの寿命が極端に短くなる事がある。その為、オイルは適正な量で交換しなければならない。

[編集] 大型車

大型車の場合、非常に長い距離をオイル交換せず補充のみで乗り切ることもある。これは、乗用車に比べてオイルの使用量が多く(数十リットル)、交換に多額の費用がかかることと、相対的にエンジンが低回転域で運用されることから、結果的に負荷が少ないためである。もちろん、より長距離・長期間エンジンを好調に保ちたければ定期的にオイルを交換したほうがよいことに変わりはない。

[編集] ディーゼル車

ディーゼル車の場合オイルの色はすぐに黒くなり、色で交換時期を判断しにくいため、走行距離(稼働時間)で管理することが望ましい。

[編集] オートバイ

4ストロークエンジンのオートバイは、スクーターなどのCVTベルトドライブ車やレーサーなどの別体式乾式クラッチ車などを除き、エンジンオイルがトランスミッションやクラッチの潤滑も兼ねている場合が多い。このような湿式クラッチは減摩剤入り四輪車用オイルや四輪車用オイル添加剤を使用するとクラッチの滑りが生じる場合がある。また四輪車などのエンジンと比べ数倍の高速回転を行なうことからオイルへの負担が大きく、四輪車よりも早いサイクル(1/2程度)での交換が必要である。

2ストロークエンジンの二輪車の場合、エンジンオイルは燃料と混合し燃焼させるため交換しない(補充する)が、トランスミッションは別のオイル(ミッションオイル、ギアオイルなど)で潤滑しているため交換する。交換サイクルは、エンジンオイルに比べ長く設定されている。

[編集] 航空機

[編集] 一般

レシプロエンジン推進の航空機においては、オイル交換の時期は、各機体のメンテナンスマニュアルを参照する。

[編集] オイル補充

どのようなエンジンであってもオイルの量が不足すれば補充が必要であるが、漏れ(オイルリーク)あるいは燃料と共に燃焼してしまっている(オイルアップ)などの、オイル減少の原因を除去しないと再びオイル不足が起こる。

[編集] フィルター

別名オイルエレメントとも呼ばれる。

エンジンオイルにはエンジン内部を清浄に保つために油中に汚れやゴミを取り込む役割があるが、そのオイルを浄化するためのろ過装置としてオイルの循環経路にオイルフィルターが設けられている。フィルターを通過することにより、摩擦によってエンジン内の稼働部分から剥がれる金属粉やスラッジ(ホコリや燃焼カスなどの不純物)を除去することが主な目的である。特に金属粉は放置すると研磨剤の役目を果たしエンジン損傷の原因になるため除去が必要である。

[編集] フィルター交換

自動車の場合、通常はオイル交換2回のうち1回はオイルフィルターの交換を同時に行うことが推奨されている。

フィルターを交換した場合は、フィルター内部に含まれていた分のオイル量が不足するため、フィルタのサイズに応じて余分(0.5から1リットル程度)にオイルを充てんすることが必要である。

多くのエンジンは、オイルフィルターのろ過機能が低下し目詰まりを起こした場合に備えてバイパス機構を備えている。フィルターを介してオイルが吸引できなくなると、焼き付きを防止するためにフィルターを介しないまま、オイルパンもしくはオイルタンクより直接オイルポンプにオイルを供給する。

[編集] 油量・油温・油圧

[編集] 自動車

  • 一般的な乗用車(排気量2,000 cc)のエンジン内部に必要なエンジンオイルは4リットル弱である。
  • 一般的な乗用車の適正油温は90~100℃である。
  • 油圧は油温で変化し、低温時8kgf/cm2前後、高温時2~3kgf/cm2である。

[編集] オイルメーカー

[編集] 関連項目


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