カースト
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ヒンドゥー教 |
基 本 教 義 |
輪廻、解脱、カースト |
神 々 |
ブラフマー、シヴァ |
ヴィシュヌ (クリシュナ) |
聖 典 |
ヴェーダ |
マハーバーラタ (バガヴァッド・ギーター) |
ウパニシャッド |
ラーマーヤナ |
人 物 |
シャンカラ、グル |
修 行 法 |
ヨーガ |
地 域 |
インド、ネパール |
バリ島 |
カースト(caste)、あるいはカースト制、カースト制度は、ヒンドゥー教にまつわる身分制度である。紀元前13世紀頃に、アーリア人のインド支配に伴い、バラモン教の一部として作られた。カースト制度によって定められる個々の身分もカーストという。カースト制度は基本的にはバラモン・クシャトリア・ヴァイシャ・シュードラの4つの身分(ヴァルナ)に分けられているが、その中で更に細かく分類されている。
カーストという単語はもとポルトガル語で「血統」を表す語「カスタ」(casta)である。そこからインドにおける種々の社会集団の構造を表す言葉になった。インド以外の身分制度もカーストの名で紹介されることがある。
カースト間の移動は認められておらず、また、カーストは親から子へと受け継がれる。結婚も同じカースト内で行われる。
カーストは古い起源を持つ制度である。現在は憲法で禁止されているものの、実際には人種差別的にインド社会に深く根付いている。
現在でも、保守的な農村地帯であるパンジャブ州では、国会議員選挙に、大地主と、カースト制度廃止運動家が立候補した場合、大地主が勝ってしまうという。現世で大地主に奉仕すれば、来世ではいいカーストに生まれ変われると信じられているからである。
ちなみに、カーストが成立した時期には存在しなかった職業などはカーストの影響を受けないと言われる。IT関連産業などは、当然カースト成立時期には存在しなかったので、カーストの影響を受けない。インドでIT関連事業が急速に成長しているのは、カーストを忌避した人々がこの業界に集まってきているからと言われている。
目次 |
[編集] カースト(身分制度)
ヒンドゥー教の展開の中で、カーストの重要性が強く指摘される。カーストは一般に基本的な分類が四つあるが、その中には非常に細かい定義があり、結果として非常に多くのカーストが存在している。カーストは身分や職業を規定する。カーストは親から受け継がれるだけであり、生まれたあとにカーストを変えることはできない。ただし、現在の人生の結果によって次の生で高いカーストに上がることができる。現在のカーストは過去の生の結果であるから、受け入れて人生のテーマを生きるべきだとされる。まさにカーストとはヒンドゥー教の根本的世界観である輪廻転生(サンサーラ)と密接に結びついた社会原理といえる。
結婚も同じカースト内で行われることが多く、インドの多様な人種の中でも未だに人種の違いがはっきりと現われているのは、カーストが混血を妨げているからである。
他宗教に対して寛容なヒンドゥー教であるが、カーストに対しては寛容でない。他宗教はその現実的な影響力や力によりその扱われる位置が決まる。カースト制は5千年以上もの歴史を持ち、何度か取り除かれようとしたものの、ヒンドゥー教とカーストの結び付きが強いためインドの社会への影響は未だに強い。
なお、外国人であっても日本や裕福なアジアの国や、ヨーロッパ、アメリカからの訪問者はその国の力が強いため、高いカーストと同様の扱いを受ける。これはかつて大英帝国支配下にあってイギリス人を支配階級に抱くにあたって生じた慣習である。
紀元前5世紀の仏教の開祖であるゴータマ・ブッダは、カースト制度に強く反対して一時的に勢力をもつことが出来たが、5世紀以後に勢力を失って行ったため、カースト制度がさらにヒンドゥー教として大きな力をつけて行き、カースト制度は社会的に強い意味を持つようになった。
[編集] 基本的な四つのカースト(ヴァルナ・四姓)
- ブラフミン(サンスクリットでブラーフマナ、音写して婆羅門(バラモン))
- 神聖な職についたり、儀式を行うことができる。ブラフマンと同様の力を持つと言われる。「司祭」とも翻訳される。
- クシャトリア(クシャトリヤ)
- 王や貴族など武力や政治力を持つ。「王族」、「武士」とも翻訳される。
- ビアイシャ(ヴァイシャ)
- 商業や製造業などにつくことができる。「平民」とも翻訳される。
- スードラ(シュードラ)
- 一般的に人々の嫌がる職業にのみつくことが出来る。スードラはブラフミンの影にすら触れることはできない。「奴隷」とも翻訳されることがある。先住民族であるが、支配されることになった人々である。
[編集] カースト以下の身分
カースト以下の人々もおりアチュートという。「不可触賎民(アンタッチャブル)」とも翻訳される。力がなくヒンドゥー教の庇護のもとに生きざるを得ない人々である。にも拘らず1億人もの人々がアチュートとしてインド国内に暮らしている。彼ら自身は、自分たちのことを『ダリット Dalit』と呼ぶ。ダリットとは壊された民 (Broken People) という意味で、近年、ダリットの人権を求める動きが顕著となっている。
また、近年のダリットによる人権活動が、日本の被差別部落の人々による部落解放運動、および南アジア各地のダリットの運動、移民社会におけるダリットの運動、およびアフリカ諸国およびその移民社会におけるカーストと同様の差別を勘案して、世界的なカースト差別に歯止めをかける動きが顕著となっている。世界的にカーストの問題が扱われる際には、主に『職業と世系による差別 (Discrimination based on work and descent) 』という表記が用いられる。
2001年に南アフリカのダーバンで開かれた国連反人種主義差別撤廃世界会議 (UNWCAR) においては、主要議題の一つとして扱われたが、最終文書には盛り込まれなかった。しかし2002年の国連人種差別撤廃委員会における会合で一般的勧告29『世系に基づく差別』が策定され、インドのカースト差別を含む差別が、国際人権法にいわれるところの人種差別の一つであることが明記された。2005年にはソウル大学女性研究所の鄭鎮星教授および中央大学法科大学院の横田洋三教授が、国連人権擁護促進小委員会における『職業と世系に基づく差別』に関する特別報告者に任命され、この差別を撤廃していくための原則と指針の作成が進んでいる。
未だに強い影響力をもつカースト制度であるが、下層カーストやカースト外のアチュートであってもなんらかの手段で良い職業につくこともできる。スポンサーや自らの財力で国外に渡り、国外で教育を受け、更に実力を認められた後に帰国し、インド国内でも影響力を持ち続ける人々もおり、インド大統領だったコチェリル・ラーマン・ナラヤナンもその一人である。また、最近の都市部ではカーストの意識も曖昧になってきており、ヒンドゥー教徒ながらも自分の属するカーストを知らない人すらもいるが、農村部ではカーストの意識が根強く残り、その意識は北インドよりも南インドで強い。
アチュートの人々にヒンドゥー教から抜け出したり、他の宗教に改宗を勧める人々や運動もあるが、動きは弱い。そこには、長い歴史と深い心理的な記憶がある。
[編集] 他宗教からの改宗とカースト
改宗してヒンドゥー教徒になることは可能であり歓迎される。しかし、そこにはカースト制という問題がある。カーストは親から受け継がれ、カーストを変えることは出来ない。カーストは職業や身分を定める。他の宗教から改宗した場合は最下位のカーストであるスードラにしか入ることができない。生まれ変わりがその基本的な考えとして強くあり、努力により次の生で上のカーストに生まれることが勧められる。
したがって、現在最下位のカーストに属する人々は、何らかの必要性や圧力によりヒンドゥー教に取り込まれた人々の子孫が多い。ヒンドゥー教は複数の宗教の合体したものと呼んでも良く、元の宗教の現実的な力が強かった場合は対等に合体していったが、力が弱かった場合は、下位のカーストに取り込まれたり、異教からの改宗として最下位のカーストに取り込まれた。
インドにおいて仏教は、衰退して行く過程でヒンドゥー教の一部として取り込まれた。仏教の開祖のゴータマ・ブッダはヴィシュヌ神の生まれ変わりの一人であるとされるが、彼は「人々を混乱させるためにやって来た」ことになっている。その衰退の過程で、仏教徒はヒンドゥー教の最下位のカーストに取り込まれて行ったと言われる。ヒンドゥーの庇護のもとに生活をすることを避けられなかったためである。
また、イスラム教の経済力と政治力や武力による発展のなかで、ヒンドゥー教からの改宗者が多かったのは、下位のカーストから抜け出し自由になるのが目的でもあった。
[編集] 関連項目
- ジャーティ
- インドの仏教
- ビームラーオ・ラームジー・アンベードカル (B. R. Ambedkar)
- 文化相対主義
- 士農工商
- 差別