ギー
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ギー(ヒンディー語:घी, ghee)は、インドやアフガニスタンなどで古くから作られ、食用にされている乳脂肪製品。澄ましバターの一種。バターに似ているが、加熱する過程で独特の香ばしい香りが生まれる。語源はサンスクリット語で「ふりかけられた」を意味するグルタ(ghṛta घृत)。ネパール語ではギウ(Ghiu)。アフガニスタンではローガネ・ザルド(roghan-e zard)とも呼ばれる。
ウシやスイギュウ、ヤギの乳を沸騰させて加熱殺菌した後に乳酸発酵させ、 凝固したものを撹拌してバター状にする。これを更に加熱、ろ過してホエー(乳清)を除去して作る。加熱ろ過の過程で水分、糖分、蛋白質などが除かれるため、バターよりも腐敗しにくくなり、平均気温の高い地域において長期間、常温で保存することが可能になる。バクラヴァなどバターを使った菓子類にも、保存性が良いため澄ましバターが好まれる。
炒め物や菓子作りに用いるほか、炊いた白飯に混ぜたり、焼きたてのチャパティやナーンに塗って食べる。
食用にする他に、インドの宗教儀式にもギーは欠かせない。ヴェーダの宗教の儀式ではしばしばギーが神々に捧げられ(ヤジュル・ヴェーダを参照)、ギーへの讃歌が存在する。ヒンドゥー教のアールティ(Aarti)の祭祀にもギーを燃やす。礼拝の際には神像をギーで沐浴させる他、結婚式や葬式にも用いられる。マハー・シヴァラートリー(Maha Shivaratri)でのシヴァ神への祈祷を初めとするその他の祭祀には、聖なる物質である砂糖、乳、ヨーグルト、蜂蜜に加えギーが供物とされる。マハーバーラタによれば、ビーシュマ(Bhishma)が犠牲として捧げたものの根本はギーであるという。
インドでは全乳生産量のうち約半分がギーの生産に用いられている。
ギーに類似する澄ましバターは、インドから中近東、アフリカにいたる広い地域で食用とされている。古代メソポタミアには、すでに同様の澄ましバターが存在したらしい。よく似た食品にモロッコのスメン(سمن Smen)、歴史的シリアのサムネ(سمنة Samneh)またはサムナ、イラクのディヒン・フール(Dihin Hur)などがある。